表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

第2話 友情の囮大作戦

転生二日目にして冒険者として討伐任務を受けることにした屑達だったが魔物のあまりの強さに逃げてしまう。

 俺は東条屑。幼馴染の南詩織の居眠り運転で轢き殺された。あの世に行った俺達は女神に地獄に行くか魔王を討伐するかの二択を迫られ転生することにした。


 朝日が部屋の中に差し込み小鳥のさえずりで俺は目を覚ました。

「ふわーぁ……、朝か。」

 ベッドから起き上がり、あくびをした。

 やはり夢じゃないか……。居眠り運転した幼馴染に轢き殺されて異世界転生、夢であって欲しかった。まあいいや、お腹すいたな食堂に行くか。

 眠い目をこすりつつ、宿の部屋から出てユラユラと歩いて食堂へと向かった。道中手すりに重心を預けて階段を下っていたら、ベキッ!、となってはいけない音がした。まあ、誰にもバレていないので宿の管理人に言うつもりは無い。無駄金を使いたくないのだ。


 食堂には着くと既に和と詩織がいた。俺達は一つの机を囲むように座って、従業員が料理を持ってくるのを待った。ここまで全員眠たいので何一つ言葉を交わすことは無かった。そして従業員料理を運んできた。


「おはようございます、疲れは取れましたか?」

 食事の提供と共に笑顔で挨拶、それからアンケートまでよくできた従業員だ。料理を受け取った和と詩織はよほど空腹だったのか、勢いよく食べ始めた。そんな二人を横目に俺は丁寧にアンケートに答え、一つの質問をした。


「はい。あの冒険者ってどこで任務を探したら良いんですか?」

 駆け出し冒険者の俺達は簡単な任務を受けないといけない、だから出来る限り早く任務を受けられる場所を知らないといけないのだ。


「それでしたら冒険者ギルドへ行くといいですよ。こちらが地図です、どうぞ。」

 懐に侵入した手は、出る時に一枚の紙を持って出て来た。そして従業員はその紙を手渡してくれた。


「ありがとうございます」

 受け取った俺は紙を広げて食事を始めた。紙はこの街の地図だった。運が良いことにギルドはこの街から近かった。

 ギルドか異世界っぽくて良いな。

 ギルドというワードに俺の心が少しばかり踊った。そんな異世界生活に浸っている俺に対して二人は目の前のご飯に頭を支配されていた。

 俺達は朝食を終え、地図を頼りにギルドの場所に移動した。


 扉には二本の剣が交差している柄が刻まれた鉄板が張られていた。初めての場所故、少し緊張したが勇気を出してギルドの扉を開けた。ギルドの中は想像とは裏腹に静かで掲示板がありそこには任務が書かれている張り紙がたくさんあった。静かで張り紙がたくさん張ってある場所があることからどことなく市役所が頭に浮かんだ。


「へー結構あるな、どれにする?」

 無言で重たい空気感を破るべく俺は第一声を口にしたのだが……

「……」

 何故か詩織と和は無言のままだった。

 何故こいつらはこれほどまでに静かなのだろうか?怒っているのか?だとしたら詩織が怒っているのは俺と和が風呂を除いたから分かるが、和は何で怒っているんだ?

 気まずくて仕方ない空気感に俺は耐えられないので、さらに話題を振った。


「初心者おすすめ任務でグリズリーベア討伐っていうのがあるけど、これなんかいいんじゃないか?」

 掲示板の張り紙の一つを指差した。

「……」

 またしても無言、信じられない程の無言、気まずくて仕方ない。俺はこれから先こんな苦しい空気感の中異世界生活をして魔王を討伐するのだろうか?と考えるとさらに辛くなった。いつまで経っても返事しないし、初心者おすすめで安全そうだからこの任むを受けることにした。張り紙を壁から剥ぎ取り、受付のお姉さんの所に足早に向かった。


「すいませんこの任務受けたいんですけど」

 そう言ってカウンター越しにいる受付嬢に張り紙を渡した。

「グリズリーベア討伐任務ですね分かりました。ここから少し遠いですね千ギラお支払い頂ければ馬車をお貸しできますがどうしますか?」

 千ギラでいいのか馬を借りるにしては随分と安いな。地図で見ても張り紙に書いてある場所は遠いのでお願いするとするか…。


「安いですね、是非お願いし……」

「無駄使いは良くないぞ、屑」

 和の第一声は馬車を借りようとする俺の言葉を遮るものだった。

 やっと喋った、正直ずっとこいつらが無言で辛かった。


「全くその通りよ、屑」

 詩織の第一声は俺を否定する和を後押しするものだった。

 ようやくこいつも喋ってくれたか、あぁ~~まじで気まずかったー。実際俺は移動中の会話も無視されておりとても辛かった、だがしかしこれで辛かったところから解放される。とは言え任務場所までかなりの距離があるため絶対に馬車が使いたい。


「確かにそうだが成功報酬は三万ギラだぞ。今いる宿は一万ギラ馬車代は千ギラだから今日この任務を済ませれば一万九千ギラ増えるんだから良いだろ?」

「ダメだ。勿体ない」

「そうよ、勿体ないものは勿体ないのよ」

 数字で分かりやすく説明しても、詩織たちはは勿体ないの一点張りで聞く耳を持たなかった。ここまで節約に拘るこいつらに俺は違和感を覚えた。

 何故こいつらはここまで節約に拘るんだ?おかしい別に普段のこいつらなら絶対止めないはずなのに……、何かあるな。


「お前らなんかおかしいぞ、何か俺に隠してないか?」

 この一言で詩織の顔に汗が流れ始めた。相変わらず分かりやすい奴だ、このタイミングで汗をかけば何か隠していますと、言っているようなものだ。金を使わせないようにしたってことは金関連か……まさかこいつら…⁉


「お前らお金を勝手に使ったんじゃないだろうな?」

「……」

 俺の問いかけに二人は沈黙で答えた。こいつら本当に勝手に金使いやがった!でもいくら使いやがったんだ⁉急いで確認するべく俺は財布を広げて中身を確認した。財布の中を見るとそこには何もなかった。ひっくり返しても何も落ちることが無い、本当に何もなかった。


「何もないじゃねえか!お前ら何勝手に全部使ってんだよ!」

 感情のままに二人の額をチョップした。このバカ共が!何勝手に金使い切ってんだ!でも何に使ったんだ?バカすぎる…詩織に関しては昨日俺を轢き殺したというのに、更に金を使い切ったのか、本当に反省してないな、必ず復讐してやる!


「実は昨晩のことなんだけど……」

 詩織が言い訳を始めた。


 時間は昨日の夜に戻った。

 ニヤケ面の詩織は財布を手に取り忍び足で宿を後にした。真夜中の街を歩き酒場に着くや否や詩織はカウンターに座り酒を注文した。


「日本酒下さい。瓶で」

 人差し指を立て分かりやすい注文をした。


「あいよ。一本一万ギラね」

 酒場のハゲムキムキマスターは酒を手に取った。

「十本下さい」

 満面の笑みで子供がジュースを買うときのような顔をして注文していた。


「あいよ。」

 マスターは日本酒の栓を抜き詩織の手前に置いた。それを詩織が勢いよく飲み始めた。


「おぉ、飲むねー」

 深夜の酒場の扉が開き新たに人が入って来た。

 和だ。


「ブー……、ゴホッゴホッ和⁉」

 和を見た詩織は口に含んでいた酒を噴き出した。


「あれー?詩織ぃ何を飲んでいるのかなぁー?」

 状況を理解した和はニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべた。


「え……あ……日本酒……です。あ……あの和さんも飲みますか?」

 詩織の下に冷や汗で水たまりが出来た。


「勝手にお金を使ったことが屑にバレたら今度こそ見捨てられるかもなぁー?」


「そんな、ひどい‼」

 詩織は返品されないように急いでお酒を口の中に流し込み始めた。

 脅迫していたはずの和でさえの異常な酒への執着に呆れた。空気感に飲まれそうになった和だが気を取り直して本題に入った。


「安心しろ。俺があそこのカジノで稼いでやるよだから十万ギラ渡寄越せ」

「和ぅありがとぉ」

 すでに日本酒を五瓶飲んでいた詩織は考えることを放棄していたので、急いで財布から十万ギラを渡した。


「ありがとう、絶対に助けてやるからな」

 言葉とは裏腹に自分本位な笑みを浮かべて和は嬉しそうに急いでカジノに向かった。

 そして和はというとポーカーで十万ギラ全てオールインし見事和は無一文となった。一文無しになった和はカジノを出てトボトボと詩織のもとに向かった。


「そうだ、減ってるのがばれるといけないのなら全部使おう!」

 カジノで一文無しとなった和はやけくそになっていた。


「いいられ!マスター日本酒十六本追加れ!」

 詩織の酒にやられた頭はお酒が飲めるならどうでもいいと考えることをしなかった。


「まいど!」


 時は現在に戻る。


「というわけです。チャンチャン」

 人差し指同士をツンツンしながら苦笑いと共に説明を終えた。


「何がチャンチャンだ!金がないなら今日の宿どうするんだよ⁉」

 怒りに任せて詩織の胸ぐらを掴み揺らした。こいつら一晩であれだけ使ったのかよ、信じられない。どんな頭してんだ、バカ!やはり早く復讐しなければ、こいつらがお金を使うことに、トラウマを覚えるぐらいの復讐をしてやろう!


「すいません」

「すいません」

「すいませんじゃあねえよ!このバカー!お前ら本当にバカだ!よし決めた、詩織お前にはハニートラップで稼いできてもらう!百万だ!百万稼いで来い‼」

 正座している詩織に対してビシッと指差して命令した。そうだ、こいつの顔の良さを利用すれば失った額なんて簡単に稼げるに決まっている。フハハハハ!勝手に金を使った罰だ‼


「えぇー嫌よ!ハニートラップって捕まるやつでしょ⁉捕まったらどうするの⁉」

 昨日と同様俺の足にしがみついて、泣きついてきた。昨日は根性負けしたが、今日は絶対に譲らない!泣きついたって許す訳がないだろ、このバカだよぉ‼


「捕まったら刑期をまっとうしろ!バカ!」

 今日の俺は端からしがみついている詩織を引き剥がそうとしなかった。引き剥がそうとするから勝負になるのだ初めから勝負しない。このままでいたら哀れに見えるのは詩織の方、つまり何もしなければ勝てるのだ。フハハハハ!


「和、お前は奴隷だ、分かったな!」

 今度は小さく縮こまって正座している和の頭を指でグリグリと押しやった。こいつは、詩織のように顔が特段いいわけじゃないし、詩織のように他の人より特段秀でている技術があるわけじゃない。金を稼げないなら俺が女神を奴隷にする前の練習奴隷として扱ってやる!ざまあみろ、勝手に金を使うからだ、バカめ!


「はい……」

 詩織と違い和は無駄な足掻きなどは一切せず俯いて答えた。

 こいつらはしょんぼりしやがってこっちが悪いことをしているみたい見えるじゃねえか、ならいっそのこと悪いことをしてやろう!徹底的に復讐してやる!


「あのすいません。やっぱり馬車はキャンセルで……。」

 受付嬢は悪くないので、復讐モードから気を取り戻し再び腰を低くして言った。


「あははは……大変ですね。」

 辛い!この苦笑いが辛い!絶対に今俺達異常者だと思われている、このバカ二人はしょうがないが俺まで勘違いされるのは嫌だ!クソ!絶対に復讐してやる!

 俺は軽い足取りで、詩織と和は重い足取りでギルドを後にした。


 馬車があれば楽してすぐに行けたのに、バカ二人のせいで遠い道のりを俺は歩いてグリズリーベア討伐のために森に向かった。詩織に地図を持たせて少し前を歩かせ、和がその少し後ろを袋を担いで歩いていた。そして俺はその和の大荷物の上に乗っかって移動していた。


「はぁ……はぁ……屑…少し休憩しよう……荷物が重くて……」

 大きな荷物の上に更に俺を担いで二キロ歩いた和はすでに息を切らしていた。はぁ~快適だ、これなら馬車と違って横になれるし、袋の下の方には重たいものを上の方にはクッションなど柔らかいものを詰め込んでいるから寝心地もいい。ただ、気になることは……


「屑?屑さんだろ?間違えんなよ、バカ奴隷!」

 奴隷と主だ、主従関係はしっかりしなければならないのだ。それにしても、好き勝手に悪口が言えるのは気持ちいいな。


「はぁ……屑さんなんで……こんなに荷物重たいんですか?」

「それは宿の部屋の中の備品を袋に詰めた体」

「屑さん、なぜそのようなことを?」

「宿の荷物なら捨てられないだろ?捨てたら捕まるもんな?フハハハハハ!」

 フハハハハ、別に荷物何て本来杖しかない。でも杖何て運ばせても何の面白みも無い、だからどうせなら重たい荷物を運ばせてやろうということだ。


「えぇー……。」

 和の声から力が感じられなくなった。想定通りしっかりと疲れてるな。あーあー!これから何をしてやろうかなぁ!このバカに命令するのが楽しみだなァ‼俺の頭の中で無数の苦しめるための命令が頭の中に浮かんできた。



「もう二度と勝手にお金を使うのはやめるわ」

「俺もだ」

 ようやく詩織と和が反省したようだ。まあ、今回に関しては反省しようとしなかろうとどっちでも良い。だって詩織はハニートラップで百万ギラ稼いでくるし、和は俺の奴隷!やばっ!魔王討伐しなくても天国じゃん。実質的な天国を手に入れた俺の心は最高に幸せだった。


「屑さん着きました」

 俺達は街外れの森の入り口に辿り着いた。その森は太陽の光に照らされ、人が手入れしているのか木漏れ日が入っており森の中も明るくなっていた。そして和は袋を地面に置き、俺を地面に降ろした。



「ご苦労奴隷では森の中に進むぞ。奴隷お前は荷物を持って来い」

「え~、今置いたばかりなのにですか?」

「そうっ!今置いたからだっ!」

「あっ……。」

 俺の意図を和は絶望のあまり口から言葉が漏れた。そしてゆっくりと袋担ぎなおした。そう俺は奴隷として和を扱き使いたいのではなく、復讐として和を苦しめたいのだ。


「冗談だ、それを担いで森は疲れるだろ置いていけ」

「ありがとうございます」

 疲れ果てていた和の顔が明るくなり、すぐに荷物を降ろした。


「嘘だ!ちゃんと運べ!」

「な…」

 凛々しい顔でキツく言われ、再び絶望して袋担いだ。俺のさっき理解したはずなのに、何期待感じてんだ、バカが!


「やりすぎじゃない?私は本当にハニートラップだけで済むの?もしかしてエッチなことまでする気じゃないでしょうね?冗談じゃないわよ」

 勝手な被害妄想をした詩織は自分自身のことを抱きしめた。は⁉勝手な被害妄想して俺を悪者扱いしやがって……。


「勝手に決めつけんな!顔だけのそんなロリガキみたいな体に興奮するかよ!」

「うるせえ!殺すぞ!」

「ゴハッ!」

 濡れ衣を晴らそうとしただけの俺に対して、詩織はたった一撃、右の拳でお腹を殴り一撃でノックダウンさせた。その一撃はただひたすらに重く、俺は一瞬意識を失った。そして痛みで意識を取り戻した。


「おかしい濡れ衣を証明しようとしただけなのに」

 非力な俺は地面に倒れ、ただもがき苦しむことしか出来なかった。

 なんて理不尽な奴なんだ、このクソ女が俺は殺されたことも許してやったっていうのに……、ハニートラップだけじゃダメだ。もっともっと復讐してやる!俺の中の憎悪がより一層膨れ上がるのを感じた。


「人の体を馬鹿にした罰よ」

「あのー屑さん、荷物重たいので早くいきませんか?」

 上から見下す軽蔑した眼差しで詩織が俺を見た。

 和の方を見てみると重たい荷物を抱え汗をかいており、辛そうだった。和は辛そうだな…元気出てきた!

 元気が出てきたのでダメージで重たくなった体を起こした。


「それじゃ森に入っていくか」

 俺達三人は深い緑の森の中に進んだ。深い緑とは言え見晴らしがよく明るい、これなら安心して森の中に進んでいけそうだな。一歩一歩進むたびに小枝を踏みパキパキと音がする、そのせいで自分の足音なのに近くに熊がいるのかと神経割かれるな。というか、和のでかい荷物がのせいで目立ち過ぎだな。


「おい、そのでかい荷物が目立ってんだろ、置いてこい」

 和の背負っている大きな袋を指差して言った。和だけ一度入り口に走って戻った。誤算だったな…小さくて重たい荷物にすれば良かったかな?


「屑ー、グリズリーベアってどれぐらい大きいの?」

「屑さんヒグマサイズなら俺達殺されてしまいますよ」

「初心者おすすめだし子熊ぐらいじゃないか?」

 全く、初心者おすすめでヒグマサイズが出てくるわけないだろ、ヒグマサイズなんてスキルを習得したとはいえ勝てる気がしないぞ。

 俺達は更に一時間程森の中へと歩いた。そして出会ってしまった。

 体長が三メートルはあろうかという巨大な熊に。

 バレないように俺達は茂みの裏に隠れて作戦会議を始めた。


「あれがグリズリーベア……、あんなの勝てる訳無くね?」

 体長三メートルほどの熊、グリズリーベアを指差して降参宣言をした。あんなのが、初心者おすすめな訳なくね?ありえないだろ!あんなの倒せる初心者ありえないだろ!あのギルド運営は何を思って何を考えてあの化け物を初心者おすすめにしたんだよ。


「勝てるでしょだってあんた達今魔法使いでしょ?」

 詩織が持っている杖を指差して言った。は?いやいや魔法なんか簡単に防がれそうだろ。転生二日目で死ぬとか馬鹿らしくて嫌だ。こいつは強いからこんなことが言えるんだ、スキル何てなくてもあの化け物を倒せるからって無茶苦茶言いやがって…。あっ、待てよ…そうだっ!


「よしっ、和攻撃してみろよ」

 ポンッ!と、肩を叩き命令した。そうだった、そうだった、俺には優秀な奴隷がいたんだった。


「えっ……、分かった。フレア!」

 困惑して嫌そうな和だったが身分の違いから仕方なく従うことにした。スキルを使い杖の先から火の玉が飛び出した、グリズリーベアは火の玉が当たり少し悲鳴を上げた、その後怒ったように吠えた。


「あまり効いてなさそうだな」

 やば……、攻撃一発じゃ意味なさそうだな。たくさん当てないと倒せないのか、え?無理じゃね?

 グリズリーベアは俺達に気がついたようで、こちらに向かって走ってきた。


「あっやばい、あとよろしく!テレポート」

 俺の姿はその場から消えた。


「はぁぁぁぁ⁉あいつ何一人で逃げてんのよ!」

 突発的なことに詩織は怒り、震え、地団駄を踏んだ。


「すまん詩織あとは任せた、信じてるぞ!クリアー!」

 ヤバいと思った和も逃げるべくスキルを使い、その姿は見えなくなった。


「和、ちょっと待ちなさいよ!か弱い乙女一人置いて行く気?私も透明にしなさいよ!」

「無理あいつ鼻良さそうだし匂いで追われると困る、だから囮になってくれ。」

「だからって私を囮にしないでよ!」

 攻撃されて憤慨したグリズリーベアは唸りながら詩織に向かって一目散に走る。


「あーもう!プラススピード!」

 仕方なしに詩織はバフを自身に掛けて走って逃げた。


 場面は再び森の入り口にまで戻る。詩織が走ってこちらに向かって来た。


「やっと来たか」

「はぁ……はぁ……あんたら何私一人置いて行ってんのよ」

 森の中から走ってこちらに向かってきていた詩織は息切れしている。ダラダラと汗を垂らしいるようすからあの場から真っすぐここに向かってと言うよりは、クネクネと走り障害物を利用して逃げたのだろう。

 フハハハ!バカがざまあみろ、まだまだ置き去りにしてやる。


「そんなことより作戦を思いついたから戻るぞ」

「えぇー、私今戻ったばかりでへとへとなのに……。」

 疲れ果てた詩織はその場に座り込んだ。


「俺だって今戻ったばかりだから文句言うなって」

「あんたはグリズリーベアに追いかけられてないからゆっくり歩いて戻れたでしょ」

「ハイハイそこまでにしろ。疲れてるのはみんな同じなんだから行くぞ」

 俺は手を叩いて、歩き出した。さてさてあと一回置いて行けばちょうどいいか?一応様子見とくか。


「あんたは最初にテレポートで逃げたから疲れてないでしょ」

「ついてこないなら置いて行くぞ」

 和は俺を追いかけ、森の中へと再び歩き始めた。そして詩織一人がポツンと入り口に取り残された。


「……あーもう!分かったわよ」

 詩織は俺達を追い付こうと走った。俺と和は追い付かれないように走り出した。


「はぁ⁉ちょっと待ちなさいよ」

 詩織はより必死に走った。一時間ほど走って俺達は再びグリズリーベアを見つけた。


「はぁ……はぁ……そういえば作戦って何?」

 追い付いた詩織は杖に寄りかかっている。


「すぐ分かる、フレア!」

 グリズリーベアに向けて杖から火の玉を放った。火の玉は見事的中しグリズリーベアは怒り走って来る。やっぱり一発、一発丁寧に当てても倒せそうにないな。


「このあとはどうすんの?」

「俺は逃げるテレポート」

 その場から俺の姿は消えた。


「ちょっと待って私もう本当に走れないんだけどあのバフ三分しか持続しないし使った後はものすごく疲れんのよ」


「そうかドンマイ。なら防御魔法でも使えば?俺は逃げるから、クリアー」

 和の姿が見えなくなった。グリズリーベアは残った詩織に向かって走った。


 フハハハ!この前は仕方なく俺を殺したことを許したが勝手に全員の軍資金を使うからだ、このバカがよぉ‼フハハハ!


「バリアー、あいつらマジで何なのよ。仲間なのに魔物を前に置いて行くなんて、私一人じゃ死ぬに決まってるのに……。あの世で必ず絶対ぶっ殺す!」

 詩織は疲れ果てて座り込み防御スキルで身を守っているがグリズリーベアは構わず攻撃をしようとした。


「今だ‼フレア!フレア!フレア!フレア!」

「フレア!フレア!フレア!フレア!」

 俺の掛け声に合わせて俺と和はグリズリーベアを挟んで姿を現し火の玉を集中砲火下した。集中砲火を受けたグリズリーベアは必死に暴れて抵抗するが抵抗空しく倒れた。


「大丈夫か?」

 俺は座り込んでいる詩織に手を伸ばした。随分と哀れな姿だな、復讐出来てスッキリした~。


「大丈夫か?じゃないわよ、ぶっ殺すわよ」

 詩織は俺の手を取り立ち上がった。


「そう言うなよ。挟み撃ちで強襲するあの友情の囮大作戦か攻撃しては逃げるピンポンダッシュ作戦しかあの化け物に勝つ方法はなかっただろ?」


「最初はピンポンダッシュ作戦のつもりだったが詩織お前が走れないってなったから屑が急遽変更してくれたんだぞ?」


 その通りだ、この顔だけ女は思いやりの心を持つべきだ。というか詩織なら普通にグリズリーベアを倒せたんじゃないのか?


「でもどんな作戦があるか聞いたときに説明しないさいよ!」


「あぁー、それはだなー面倒くさかったんだよ」

 俺は右手の人差し指で右耳裏ポリポリと掻いた。本当はただただ怯えている姿を見て楽しみたかっただけなんだけど、これ言うと怒るだろうな。


「はああ⁉マジで覚えてなさいよあんたら体力が回復したら絶対にボコボコにしてやるわ!」

 詩織の俺達を見る目に殺気が乗る。


 やばい!どうする?どうすれば俺だけは詩織に怒られないようにできるんだ?そうだっ!


「そう怒るなってハニートラップはしなくていいからさ」

「言ったわね⁉それなら許す」

 詩織の目から殺気が消えご機嫌で答えた。助かった~、今の詩織はバフまで掛けられるからな、そんな状態の詩織に殴られたらただじゃ済まない。百万は諦める。


「握手会は本当に嫌なんだな……、じゃあ帰るか。」

 俺達はギルドに向かって歩き始めた。 あー、本当に疲れた。何時間も歩いてそれもこいつらが勝手に金を使ったせいで……。転生二日目からこんなことになって本当に魔王に討伐できるのだろうか?先が思いやられるな。


 二時間程歩きギルドに到着した。


「お疲れさまです。こちら報酬の3万ギラです」

 受付嬢は俺に報酬を手渡してくれた。あの化け物みたいな熊を討伐しても三万ギラしか貰えないのか……、やはりあいつらの使った額は異常だな。


「ありがとうございます。あのすいませんパーティーメンバー募集したいんですけどどうしたらいいですか?」


「あそこの壁に条件を書いた紙を張っていれば入りたい方が来ます。」

 受付嬢は任務掲示板の横の壁を指差した。


「ありがとうございます」

「メンバー募集?どうしてだ?」

 首を傾げて和は本当に不思議そうに聞いてきた。


「今日任務に行ってみて感じたけどこのパーティーのアタッカーは魔法使いしかいないだろ、だから距離を詰められたら逃げることしか出来なくなるからな」

 それも詩織が戦えばいいだけの話なのだが……、あの無能の説得は大変そうだから諦めている。


「確かにそうだな。まあ新メンバー加入までは詩織を囮にするか」

「そうだな」


「ムリムリ、あんな思いもう無理だから!」

 詩織は全力で首と手を振って答えた。そう、こいつは一切戦おうとしないのだ。こいつが真面目に戦えば簡単だってのに…。


「じゃあ新メンバー連れてくるか、任務に行かなくていいようにお金稼いで来い」

 こいつは本当に顔が良い、だからその顔を活かして金を稼いできて欲しいものだ。


「囮なら屑でも和でもいいじゃない。」

「ダメだ。そうしたら今回みたいに挟み撃ちができないしアタッカーの数が半減して倒せず反撃される可能性が格段に上がる」

 和が分かりやすく説明した。


「というわけだ。早く人が来るように祈るんだな」

「えぇぇ……。」

 詩織は項垂れてその場に崩れ落ちた。


「お前の唯一の長所の顔を使って勧誘して来いよ」

「その通りよ!私のこの顔があれば一人ぐらい入って来るでしょ」

 詩織は手当たり次第ギルド内にいる冒険者に勧誘するが断られる。


「顔がいいのに断られてるな。」

「当たり前だ。あいつは顔が良すぎるから美人局だと思われてるんだろ」

 そう、顔があまりに良すぎる人に一緒に何かしない?と聞かれれば多くの人が美人局と感じてしまうのは当然だ。


 そこからも詩織は断られても、断られても色々な人に声をかけ続けた。

よければ、下の星5評価とブックマークお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ