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第11話 イカれた女

ダンジョンから帰還した屑達の下に現れたのは審問所の女性ニーナ、彼女の行動は何もかもが理解不能⁉

ニーナの取り調べに苦戦する屑と和。さてどうなる⁉

 女性は長い黒髪に黒目、服装は格好良くスーツを着こなした二十代のような若々しい見た目をしている。俺よりは年上だろう。

「私はニーナです。あなたがダンジョン破壊犯の一人、東条屑さんですね。あなた方パーティーには審問所まで来てもらいます。」

 破壊犯ってことは俺たちテロリストじゃないか……。

 これではどれだけ徳を積んでも無駄じゃないのか?

 俺は、もはや天国行きは無理だと悟り、目の前が真っ白になった。

「おい!返事をしろ!」

 ニーナさんは顎を突き出し、しかめっ面で見下ろして言ってきた。

 怖っ!!何でこの人不機嫌そうなんだ?

「分かりました。すぐにあいつら呼んで来ます」

 俺はその場から立ち去り、急いで屋敷の中に戻った。

 まるで教官と生徒だ。

 このままじゃ俺達は、ダンジョン破壊犯としてテロリスト扱いされてしまう。

「おいお前ら、俺達はダンジョン破壊犯ということになってるらしい。審問所に連れて行かれる前に。逃げるぞ。掴まれ」

 迅速かつ的確に説明して俺は和、詩織、レベッカの三人に手を伸ばした。

 ダズは今いないが、ダンジョンに行ってないから何も問題ないだろう。

 和と詩織は、躊躇無く俺の手に掴まった。

「了解だ、屑」

「屑、逃げるって、でもどこに逃げるの?」

 詩織は首を傾げて尋ねてきた。

 逃げることしか考えてなかった、どこに?と言われたら確かにどこにだろう。

 当然だがギルドは無理だろう、酒場は情報が集まる場所なのでそこも無理……。

 となると、国外か……。まさか転生して一週間以内に国外逃亡するはめになるとは……。

「あの……、逃げずにしっかり説明したら分かってもらえるのではないですか……?」

 レベッカは消えそうな声で呟くように提案した。

「それは無理だ。俺達には戸籍がない、だから適当に裁判して適当に死刑になるに違いない。だから逃げるぞ」

 俺は躊躇っているレベッカに手を伸ばした。

 そう俺達は転生者だ、戸籍がない。みんなに優しいでお馴染みこの東条屑さんでも、戸籍がないテロリストの話を信じないのに、あの怖い人達が俺達を信じてくれるわけない。 

「戸籍が……無い?……分かりました。」

 レベッカは戸籍が無いことに戸惑ったが、ゆっくりと俺の手を掴んだ。

 よく戸籍が無いことに驚かないな……。

 もしかして、またクガと同レベルだと思われてるのか⁉って今はそれどころじゃない。

「よし、テレポート」

 先ず即死刑は免れた……これからどうしたものか……。

 ……は?……え?

「あれ?移動できない、何で……?」

 目の前の光景が変わらず、俺は困惑した。

 何でだ?魔力は全然残ってるのに移動できない。どういうことだ?早くしないとニーナさんが来る、急がねば……。

 扉の向こうからドカドカと大きな足音が近付いてける。

 段々と俺の鼓動が早くなるのを感じた脈打つ鼓動に体が揺れる。

「やばい!!こっちに来る!死刑は嫌だ、死刑は嫌だ、死刑は嫌だ!!」

 両手で頭を抱え振り回した。

 死にたくない!こんなところで死にたくない!

 もう天国は諦めてるから徳を積めてないとか、魔王討伐してないとか、そんなことが理由じゃない!ただ死にたくない!

「ねぇ屑、早くして!私まだ死にたくないんだけど!!」

「やってるよ!!やってるけど、移動できないんだよ!!バカ!!」

「え!?屑どういうことだ⁉」

「テレポートできねぇって言ってんだよ!同じこと二度も言わせんな、バカ!」

 レベッカはこの状況を止めようにもタイミングが分からず、発言者を目で追って首を左右に振っていた。

 死にたくないのは俺も同じだってのに、こんな時まで責めてくるんだ、このバカは!

「待って!落ち着いて和、ここは一緒に屑を審問官に突き出しましょ?ダンジョンを破壊したのも、計画したのも、全部屑一人なんだから!」

 は!?

 こいつまさか俺を裏切る気か⁉俺でもそこまでしないぞ……。

「ふざけんな!その俺がいたから今お前らは生きてるんだろ!」

「うるさいわね!レベッカちゃんが言ってたでしょ?私なら悪魔ぐらい倒せるって、だから屑がいなくても生きられたわよ!」

「もういい詩織、早く屑を取り押さえよう!」

 二人は、俺の手足を取り押さえた。そのせいで俺は体勢を崩し、その場に倒れた。

 それでも俺は、陸に上がった海老のように体を振り必死に抵抗した。

 こいつら、地獄で必ず復讐してやる!

「今は疲労でバフを使えないから無理だけど、死刑の日には私が武力行使で助けてあげるから!」

 この言葉は恐らく嘘じゃない。何故ならこいつも俺と同じで中途半端だから、俺がダズを見捨てきれずに助けたように、詩織も俺を助けに来る。だが問題がある。詩織が本当に俺を助けられるのか?ということだ。正直怪しい、詩織はバフを使ったときの強さは知ってるが、あれは三分だけ……ちょっと絶望的だな。

「早くしろ!!この愚図野郎がぁ‼」

 ヒールが扉を蹴破った。

 は?

 一人の女が居間に侵入してきた。

 ニーナさんだ。

 うわぁぁぁ!!死ぬ、死ぬ、殺される!!こうなったら……。

「ダンジョンを破壊の実行犯はこの二人です。今俺に、濡れ衣を着せようとしています。助けてください!!」

 最後の力を振り絞り、ニーナさんに必死に訴えかけた。

 詩織が俺を助けるより、テレポートやスティックの絡め手が使える俺が助けた方が確実だ。

「うるせえ、ボケ!!御託はいいんだよ!!オラ!!来い!!」

「ゴハッ!」

 彼女は床に取り押さえられている俺の顔を蹴った。

 え………?何で俺蹴られたの?

 辺りに鼻血が飛び散った。

「連れて来い!!」

 そう言い残してUターンした。煌びやかなロングの髪の毛と共に良い匂いが舞った。

 すると後からゾロゾロと鎧甲冑の男達が居間の中に入り俺達を担いで屋敷の外に運び出した。

 屋敷の外に出ると、ニーナさんが馬に乗って待っていた。

 馬?馬車で移動するのか?でも荷台がない、それに馬が一匹しかいない、どういうことだ……?

「遅えんだよ、この愚図共が‼次私を待たせたら極刑だ、いいな!?」

 ニーナさんは相変わらず、顎を突き出してしかめっ面。

 ニーナさんにとっては怒っているのがデフォルトなのか⁉

 というかパワハラだ!これは完全にパワハラだ!この世界だとこれほどのパワハラも許されているのか!?

「ハイッ‼」

 鎧甲冑の男たちは息を揃えて敬礼した。

「それでは行くぞ、急いでついて来い!!」

 彼女は馬にムチを打ち、走り出した。

 急げって言ったって、馬がいない、どうするんだ?

「あの俺達は?」

「任せろ」

 鎧甲冑の人はそう一言だけ答えた。

 任せろって何を⁉意味が分からん!これから移動です、急ぎなさい、俺達はどうしたら?、で任せろ⁉この人たちも会話が成立しない人たちなのか?

「キャプチャー」

 何故か鎧甲冑の男は、俺と自身を縄で縛った。

 縄で縛られた鎧甲冑の男は体勢を崩し、その場に倒れた。

 え?自分で縛って、倒れるってバカすぎないか?何がしたいんだこの人は?

 いや待て、さっきから会話が成立しなかったし、この人もやばい人なのでは?

 あの圧倒的パワハラ上司ニーナさんの下で働いてるんだ、やばくなってもおかしくない。

 可哀そうにこの人も被害者なんだ。

 先に馬に乗って走り出していたニーナさんがこちらに戻ってきた。

 良かった……、馬車か馬でも取りに行っていたの……か?いや違う!ニーナさん一人だ!

「おいこの鎧を着たノロマ共とっととしやがれ!愚図!無理なら言え、この馬で引きずって行ってやる!」

「ええー⁉俺達のために馬車を迎えに行ってくれたわけじゃないの⁉」

「うるせえ‼贅沢言う、ボケ!!」

 彼女の視線はどこか殺気を感じさせるものだった。

 子供があの視線で睨まれていたのなら、きっとその子はお漏らしして母親に泣きついているだろう。

 おかしい、怒り過ぎだろ!人間そこまで怒るものか⁉絶対俺達には関係ない日頃のストレスとか俺達にぶつけてきてるだろ。

「この私を引きずり回してください!」

 俺を縄で縛った張本人が敬礼して言った。

 気が付くと目を丸くしてその人の顔を見ていた。

 信じられない、まさかこいつニーナさんに引きずり回されたいからって縄で縛ったのか?

 そう考えると合点がいく。

「待て、なら誰か別の人が俺を担いでくれ」

 縛られた状態で暴れるが故に体がクネクネとうねった。

 冗談じゃない。この変態の性癖のせいで馬に引きずり回されるなんて嫌だ!

 どうにかしないと!

「良いだろう、縄を私に寄越せ‼」

 変態は俺と自身を縛っていた縄を解き、足だけ縄で縛ってニーナさんに渡した。

「待てー!待ってくれ!そうだ!俺も走る!」

 俺は必死にその場で藻掻いて訴えかけた。

 変態のために死ぬなんて嫌だ!どうにかして逃げないと。

 嫌だ、死刑が確定する前に死刑が執行されるようなものじゃねぇか!他の三人は安全に運ばれるのに、何で俺だけ……!

「黙れ‼そうやって逃げる気だろ!このボケ‼」

「ぶひ……すまんな。ぶひ……でも我慢できないんだ。」

 何故か変態は顔を赤くして、ハァハァと息が荒くなっていた。

「嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ」

 俺が訴えを最後まで聞くことなく、女性は馬を走らせた。

 馬のスピードで俺の体は言葉を置き去りにした。

 死ぬ、死ぬ!レンガのざらざらのせいで、顔がすりおろされるように痛い!

「どうだぶひ?最高ぶひ?君死ぬ前に良い思いが出来て良かったぶひな。」

 目がイッてて、こちらを向いているのに目が合わない。

 この変態が!今、馬に引っ張られてるのはこの変態のせいだ、俺が死んだら恨むリストに入れてやる!

 馬車に引きずられて視界が揺れる中で変態を睨んだ。

 このときの俺は明確な怒りを感じていた。

 馬は猛スピードで走っているため、引きずられている俺は頭に石がぶつかると衝撃で頭は跳ね上がる。そこから三十分ほど走ってようやく馬が止まった。

「はぁ……はぁ……助かった、生きてる……」

 体中を触って、生まれて初めて生の実感を味わった。

 生まれて初めて生きてるとはどういうことなのか?ということを理解した。

 良かった生きてる……。

 そして隣の鎧甲冑の男も起き上がった。

「ぶひ、気持ちよかったぶひ」

 余韻に浸っているのか、随分と幸せそうな顔で空を眺めていた。

 ちょっと待て!変態が鎧着てて俺が鎧着てないなんておかしいだろ!俺が死刑になったらこいつだけは道ずれにしてやる!

 さきほどまで生を実感していた静かな心が再び怒りに燃えた。

「オラァ!ノロマ共!早く走れ、ボケ!」

 馬から降りたかと思うと来た道に向かって暴言を吐き散らかした。

 何でニーナさんはこんなにも怒ってるんだ⁉ダンジョンが壊れて何か被害にでもあったのか?

 俺が余計な詮索をしている間に、屋敷から出発した全員がこの場に集合した。集合するや否や鎧甲冑の男たちは横に並びニーナさんに敬礼した。

「遅い!この愚図野郎共が‼この私を何分待たせたと思っている⁉」

 狂気だ、馬に比べれば人間の走る速度が遅いのは当たり前だと言うのに、そんなこともお構いなしに憤慨している。

 この人にとっては『何故か』という理由は関係なく、『どうなったか』という結果にのみが大事なのだろう。

「何怒ってるんだ?せいぜい十分かそこらだろ。」

 普段より人相が悪くなっている和が言った。

 彼はお腹を押さえており、きっと担がれている間に何度もぶつけたのだろう。きっと人相が悪くなっているのもそれが原因なのだろう。

「黙れ‼誰が喋っていいと言った‼このボケ‼」

「誰がって……グハッ!」

「二度も同じこと言わせるな、ボケ‼」

 ニーナさんの右拳は的確に和のみぞおちを突き上げた。

 殴られた彼はその場に崩れ落ち、両手でお腹を抱えて藻掻いた。

 フハハハハ!ざまあみろ、バカ!これは俺に助けてもらった恩を仇で返した天罰だ!

 さきほど屋敷にいた時裏切られていたときの復讐心が一気に消えて行くのを感じた。

「素晴らしい一撃でした。」

 俺の口は思わず感謝の一言を漏らした。

 更には両手で拍手を送っていた。

「黙れ!」

「グハッ!」

 ニーナさんは俺の両肩を掴み、お腹に膝蹴りをした。

 俺も和と同じく崩れ落ち、両手でお腹を抱えて藻掻いた。

 膝蹴りの衝撃は体を突き抜けていった、それなのに痛みだけが体の中にズンと残っていた。

 イッテー‼このイカレ女め、絶対に復讐してやる!

 先ほど消えたばかりだというのに、再び復讐心が心の中に芽生えた。

「ちょっとあんた、私の身代わり人形に何してくれてんのよ。」

 ニーナさんを指差して詩織が批判した。

 庇ってくれたことには感謝する。だが、身代わり人形という言葉が気になった。

 詩織からしたら俺達は身代わり人形、こいつのことを味方だと思ってもいいのだろうか?どちらかと言うと敵なのでは?

「この私に指差すんじゃねぇ‼」

 ニーナさんの拳は再び硬くなった。拳は半歩分後ろに下がって溜めを作り、詩織に向かって飛び出した。

 がしかし、詩織は片手でそれを簡単に払いのけた。

 まさかこんなところで勝負になるなど思っていなかったので、俺は目を丸くして驚いた。

 そんなことしたら俺達の印象が悪くなって死刑に近づくから今すぐにやめろ!

 俺は不安で不安でしょうがなかった。テロリスト容疑を掛けられた人間が抵抗する、これは誰の目から見ても確信犯だと思われてしまう。

「フンッ!貴様は見込みがあるな。全員ついて来い!」

 彼女はUターンして、目の前の石材で出来た大きな中世ヨーロッパ感あふれる建物の中に入った。

 どうやら詩織の反抗を気に留めていないようで良かった。

 あんなバカのせいで死刑になるなんてごめんだ、というか誰のせいでも死刑にされるのはごめんだ。

 立ち止まっていた俺達だったが、後ろから鎧甲冑の男たちに背を押されて、石造りで出来た建物に入った。

 ニーナさんは奥の部屋の前で突然立ち止まり振り返った。

「おい!まずは貴様だ、来い!」

 暴君な彼女は和の胸ぐらを引っ張り部屋の中に連れ込んだ。

 そして勢いよく開かれた扉は、『バタン!!』と大きな音を立てて閉まった。

 取り調べか?あの人の取り調べは怖いな別の人に頼みたいところだ。そもそもあの人に取り調べなんて出来ないだろ、拷問になるだけだろ。

 五分ほどして扉が開き頭から血が噴水のように吹き出している和が出てきた。

「ぎ……ぎを……じゅけろ」

 和は俺にその一言を残して倒れた。

 その光景を目にした俺達三人は絶句していた。絶望した俺達の表情は影が強く、昼間日の当たる場所にいるとは思えないものだった。

 え……?死んだ?一体あの部屋の中で何が……、もしかして俺も、死ぬのか?嫌だ、死にたくない!

「次は貴様だ!早く来い。」

 ドアの向こうから伸びてきた悪魔の手は、俺の胸ぐらを引っ張り部屋の中に連れ込まれた。

 再び扉は大きな音を立てて閉まる。

 部屋の中に入るとそこには机と向かい合って配置された椅子、ただそれだけがあった。

「座れ」

 ニーナさんに指示されるがまま暴君彼女と向かい合って座った。

「おい貴様がダンジョンこわしったてのは本当か?」

 単刀直入だな……。

「それはそうだが……グハッ!」

 ニーナさんは突如として俺の右頬を殴った。

 痛い。え?なんで?なんで殴られたんだ?

 痛みと共に送られてくる情報に頭が混乱した。言葉がまとまらない。何も考えられない。

「おい!私の質問には『はい』か『いいえ』で答えろ!それ以外は殴る!」

「は?」

 俺は突如として殴られて理解が追い付かなかず、口から言葉が漏れだした。そして再び俺は殴られた。

 『殴る』ってなに?やっぱり取り調べじゃねぇ、拷問だ!

「さっきの質問に早く答えろ!」

「はい!」

 気が付くと俺は答えていた。

 暴力は本当に恐ろしい、まるで洗脳だ。脳より先に口が働く感覚。

 冷静になったとき初めて理解した。

「えっ?血?」

 俺の頭から血が流れていた。

「何が『エッチ』だ!この変態がぁ!」

 彼女は俺の髪の毛を掴んで机に叩きつけた。

「グハッ!」

 机に叩きつけられた鼻先が痛い。顔を上げるとポタポタと鼻血が垂れる。

 そうだけどそうじゃないのに!変態はお前の部下だろ、バカ!

 暴力による洗脳が解け、沸々と怒りが込み上がってくるのを感じた。

 こいつはもう許せねえ、俺が死刑になったらあんたも道ずれにしてやる!

「では次の質問だ。貴様はダンジョンを悪意を持って破壊したのか?」

「いいえ」

 またしても俺は無意識的に答えていた。

 解けたはずの洗脳は解けていなかったようだ。色濃く脳裏に残る暴力は俺の怒りを絶望に塗り替えるには十分なものだった。

「グハッ!」

 今度は左頬を殴られた。

 しっかり答えていたのになぜだ……?まだニーナさんなりのルールがあるのか?初めに全て説明しろよ!

「嘘をつくな!嘘をついても殴る。」

 理不尽な命令、『嘘をつくな』その嘘の基準はなんなのか?

 本来であれば事実と異なることを嘘というのだ。

「俺は嘘なんてついてない」




「『はい』か『いいえ』以外で答えるなと言っただろうが!」

 ニーナさんの怒りの籠った拳は再び、俺の頬を直撃した。

 意味が分からねえ!俺は本当に嘘をついていないのに……もうニーナさんにとって都合のいい返答をしろ、ということなのだろう。

「ば……い」

 痛みで声が霞む中、苦々しくだが俺は、濡れ衣を被ることにした。

「この極悪人がぁ!」

「グハッ」

 理不尽だ、その一言が喉元にまで登ってきたが、何とか食い止めた。そんなことを言えば更なる理不尽に襲われると思ったからだ。怪訝そうに顔を歪ませて静かに耐えた。

「もういい、行け!そして次の者を呼んで来い!」

 聞きたいこと、というか言わせたいことを言わせ終えたのか、ニーナさんは威圧的に顎で指示してきた。

「あ゙……い゙」

 震える足で立ち上がり、震える手で椅子を戻す。

 レベッカを呼ぶのは可愛そうだな、まずは詩織を呼ぶか……。

 そんなことを考えながら俺は、取調室を後にした。するとすぐにレベッカが近寄ってきた。

 それは心配している様子だったが、目の奥には静かな怒りが感じられた。

「大丈夫ですか?何があったんですか?」

「あ゙……」

 俺は必死に危険を伝えようとしたが、ダメージの蓄積で声が出なかった。

 その姿は言葉よりも多くの情報を伝えてくれたようで、レベッカは意を決した。

「次は私が行きます――」

「待ってレベッカちゃん私が行って時間稼いでくるからそのうちに逃げて」

 ドアノブを握ったレベッカの前に、詩織が手を伸ばして止めた。どうやら最低人間でお馴染みの詩織でも愛するレベッカのためなら身代わりとなって頑張れるようだ。ロリコンの鏡だ。

「いえ覚悟はできてます。そこで待っていてください。」

 レベッカは自らの前に伸ばされた手を優しく握り、振り返って詩織のお腹の前に返して言った。

 そうして綺麗な金髪の髪の毛を翻して取調室の中に入って行った。 

 レベッカもこのままだとニーナさんの被害に遭ってしまう。どうにか助けてあげないと……。

 そんなことを考えているとガチャ…と、静かに扉が開く音がした。すぐに俺達三人は扉の方を向いた。

 無傷なレベッカの姿を見て俺達は、深く安堵してホッ…と、息を吐いた。そのまま軽い足取りで俺の横に並んだ。

「皆さん先ほどは不敬な行い大変申し訳ありませんでした。もう取り調べは不要です。……」

 レベッカの後に続いてニーナさんも取調室から出て来た。

 その顔は、口から魂が漏れ出て顔から生気を感じられず、つい先ほどまで理不尽な暴力を振舞っていた人のものとは思えないものだった。

「なあレベッカ何があったんだ?」

 この状況、主にニーナさんの様子に疑問を感じた俺は、眉間に皴を寄せて問うた。

「それはですね、入ってすぐあなたの取り調べは違法なのであなたの上司に報告しますよと脅しをかけたのですよ。するとすぐに今のように大人しくなりましたよ」

 笑顔のまま人を脅迫したことを優しい口調で物語るレベッカに、俺は感心した。というのもレベッカが俺達のパーティーに入った理由は、騙されたことが嫌で俺達のようになりたいから、というものだったのだ。そして今レベッカは審問官を脅せるほどに成長している。

 しかしながら、俺の感情は感心だけでは無かった。何故自身の取り調べの時にそれを思いつけなかったんだ……と、強い後悔をして、俺は額に手を被せて、大きな嘆息を吐いた。

「では今回の皆様の処遇ですが、審判の結果よりあなた達は投獄免除で四十億ギラの賠償命令です。」

「四十億ギラー⁉」

 ニーナさんの言葉に、俺達は同じ言葉を口にした。重なった言葉は審問所の廊下中に鳴り響いた。

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