第10話 新たな目的
魔王が討伐されてたことが否定しようのない事実であると判明。目的を失い悩む屑達、地獄行きは免れないかと絶望そこに新たな希望が⁉
そこにはクガ達がいた。クガは全身赤くなった包帯でグルグル巻きにされ、横たわっていた。
「なんだお前らもこの馬車なのか?」
俺たちに気づいたイシダは、振り返り言った。
「当たり前だ。これは俺たちの乗る馬車だ。お前らがいるほうがおかしいんだよ」
俺は休めると思っていたのに面倒くさいのが乗っていて、つい不機嫌そうに言ってしまった。
「仕方ないだろ。ギルドの手違いで馬車の数が一つ足りないんだから」
「……そんなことなら行く時言えよ」
面倒くさそうに頭を掻いて俺はため息交じりに答えた。
それにしてもギルド側の馬車が足りないって、今回のはよほど大規模なダンジョンだったんだな。
「そんなことより迷宮のラビリンスの終焉の間には辿り着けたのか?」
横たわっているクガかが目を覚まして尋ねてきた。
面倒くさい言い換えだな、流石は中二病だ!
「たどり着いたわよ。財宝は手に入らなかったけど。」
これ以上質問されないように詩織は、簡潔かつ的確に答えた。
「それでは出発いたします」
前に座っている御者の声が聞こえ、馬車が揺れ始めた。
「それよりクガさんの怪我って大丈夫なんですか?」
相変わらずレベッカは優しいな。こいつの怪我ってカッコつけて走って、階段で躓き転がり落ちただけなのに。俺としては正直どうでもいい。
「大丈夫だ。あの後俺達は迷宮のラビリンスから出たんだけど正体不明のバイオウイルスで僧侶が帰ってたのだ。仕方ないから俺の溢れんばかりの魔力を抑えるために、この封魔の布で俺を封印したのだ。」
やはり中二病はいちいち分かりにくい言い換えを使って説明した。
あーもう面倒くさい!どうして普通に言えないんだ!
「そんなことより、魔……」
「しっ!聞くな、和」
半歩前に出て、和の顔の前に腕を伸ばして発言を制止した。
「どうせ馬鹿にされるか、面倒くさい言い回しで説明してくるだけだから聞くな。屋敷でレベッカに聞こう。」
クガに聞こえないよう彼に耳打ちで伝えた。彼も同意したらしく、静かに頷いた。
「そうだっ!お前らには吾輩の命を救ってもらった恩がある。是非うちの屋敷に来てくれ。謝礼を払いたい。」
俺たちに救ってもらったことを思い出したのか、起き上がって突然の提案をしてきた。
「え?何?お金くれるの?あんた良いやつじゃいのよ。」
ついさっきまで俺たちと同じくクガのことを面倒くさがっていた詩織は、金に目が眩んだらしく、華麗な手の平返しを披露してくれた。
「いや、結構だ。冒険者として当然のことをしたまでだ。」
クガと金に目が眩んだバカの話に割って入り提案を却下した。
「何でよ?」
「おい屑、くれるって言ってるんだから貰うんだよ。」
詩織は眉間に皴をくっきりと寄せて質問してきた。ここまでは想定内だった、しかし和まで乗り気だったのは想定外だった。
「おい、耳貸せ。いいかお金くれるって言ったってあいつが大した額くれる訳ない。クガの家なんて行く面倒くささとお金絶対に釣り合わない、何なら損するかもしれないぞ。」
クガに聞こえないよう、二人に小声で伝えた。二人は俺の言葉を聞き、二本の指で顎を掴み、目を閉じて考えた。二人の姿は鏡写しになっているようだった。
「……確かにその通りね、私たちは当然のことをしたまでだから謝礼は結構よ」
「俺も謝礼は結構だ」
二人は俺の考えを理解してくれたようだ。
なんかちょっとクガ可哀そうだな……まあいいか!
「着きましたよ」
馬車の揺れが止まり前から御者の声がした。どうやら馬車は街に入り、ギルドの前に到着したらしい。
やっと着いた……。
「さらばだ、貴様ら次会う時はお互い敵同士だ。」
またしても面倒くさい一言を残し、クガ達は一足先に馬車を下りた。
最初から最後までよく分からないやつだったな。次あったら本当に敵らしいし、一人のところを見つけてボコボコにしてやる!
嘆息を吐きつつ、俺達も馬車を下りた。そしてギルドに入り報酬の5万ギラを受け取り、歩いて屋敷に帰った。道中疲れていたので会話を一切せず無言のまま帰った。
屋敷に着くと、体の奥底から疲れが一気押し寄せてきた。俺達の四人はその場に倒れた。
「ああああああああああああああ!」
疲労が限界に達したのか、一番に詩織が叫んだ。
どうした?やっぱりお酒で頭がやられてたのか、可哀想に。
「どうしたんだ?」
扉の奥から声がした。
「ダンジョンボス倒したのに!あのクソ悪魔のせいで大金がぁ!」
和も限界に達していたのか、それともダンジョンの財宝を持ち帰れなかったことが相当悔しいのか叫んだ。
「おまけに魔王討伐されてたし、俺たちは何のためにここに来て命の危険ある冒険者やってんだ!?あのクソ女神が!絶対に奴隷にしてやる!」
かくいう俺も限界に達しており叫んだ。
あのクソ女神が、また死んだらあいつだけには仕返ししてやる!!
「というかさっき屋敷の中から声がしなかったか?」
まだ気づいてなかったのかよ……てっきり聞いたうえでスルーしたのかと思ってた。早いうちに言っちまうか。
「こっちきて自己紹介しろー」
扉が開き一人の男の姿が現れた。
「おう、この屋敷の家事担当をするダズだ。よろしく」
扉の奥から現れた男は、卑怯な手を使ってレベッカからペンダントを騙し取った男。
そして俺達に完敗してこの屋敷を奪われた哀れな男。
そう現れた男はダズだった。
「え⁉ダズさん⁉」
「何だダズか」
「まあでしょうね」
目を丸くして驚いていたレベッカに対して和と詩織は全然驚いている様子は無かった。
あれ?想像より反応がつまらない。
「え?え?お二人は驚かないんですか?ダズさんですよ?」
倒れている状態で左右をキョロキョロと確認しているその様子はとても忙しそうだ。
これだよ、こんな反応を期待してたんだよ!
「驚かないわよ、どうせ屑が連れて来たんでしょ。このままダズを放置したら悪い噂が立つから」
俺を何だと思ってんだ?
「それもそうだがちょっと違う。お前と和の家事能力が低すぎるからだ。それでちょうど街で死んだ目で徘徊しているダズを見つけたから連れて来たんだ」
「そういう訳だ、この前は悪かったなレベッカ」
深々とダズが頭を下げて謝った。
「頭が高いな、俺達より高いってどうなってるんだ?」
俺に謝られているわけではないがちょっと面白そうなのでいびってみた。
そう言われて彼は膝と手を地に着いた。
「すまなかったレベッカ」
そして頭を地に着けた。見事な土下座を俺達は顎で立って見ていた。初めて見る大人の土下座に社会の厳しさを感じた。まあ俺がさせてるんだけどね!
「もう大丈夫です。ダズさんも心を入れ替えてるのは伝わりました。」
良いシーンなのだろうが、如何せん土下座をしている人間以外が寝転がっているのであまり感動できないな。
「そうだ魔王が討伐されたってどういうことなんだ?レベッカ?」
和がふと起き上がり、レベッカの顔を見て尋ねた。
こいつ感動的なシーンだったってのに、こいつ空気読めないな。
いつもいつも肝心な時だというのに空気が読めない彼に少し呆れてしまった。そして気持ちをそのままに大きなため息を吐いた。
「魔王は討伐されたんですよ、一週間前に。」
その言葉を聞いて疲れていたはずの俺達だったが勢いよく目が開いた。驚きを隠せぬほどにあまりに大きな情報だった。別に魔王が討伐されていたこと自体は知っていた、がしかし一週間前ということに驚いた。俺達が転生してきたのが三日前ほどのことだった、つまり転生の四日前に魔王が討伐されたということだ。この事実から俺は少しばかり怒りを覚えた。
一週間前⁉俺たちがこの世界に来る数日前じゃないか。絶対あの女神魔王が討伐されたことあの時知らなくて俺達を転生させただろ、許せねぇ。
「誰が魔王を討伐したんだ?」
彼の目は沸々と燃え滾っていた。それはギラついたその視線は最早怒りを超えており、殺意すら感じさせるものだった。そこまで怒るものなのだろうか?俺は正直異世界に転生して、日本じゃ味わえないような楽しいことを経験した。だから間違えて転生させたのだと知った今、奴隷にしてやるとしか思ってないが和は違うようだ。
「和少し冷静になれよ、目が危ないぞ」
「あ、そうだな。」
和が怒るのも分かるし、理解できる。手違いで危険な異世界にぶち込まれたんだ。だが、その視線を関係のないレベッカに向けるのは違う。『年上は年下を守らないといけない』ということをこのバカはりかいしていないようだ。
ハァーこいつは、変態な上に大人としての義務も知らないのか……。
呆れてため息を吐いた。今日はため息をはくことばかりだ。
「誰かは分かりませんが職業が勇者の方と言われています。討伐した方が魔王の首を王宮に運び、討伐が発覚しました。」
静かに動いた口から出た言葉は俺達の思考を破壊した。俺達は職業を女神のところで選んだ。そのとき女神は職業に勇者というものがあるということを教えてもらってない。普通、魔王を倒すの何て勇者の仕事なのに、俺達は勇者という職業の存在を教えてもらってない。
大切なことなので三度目を言わせてもらう、俺達は勇者という職業を女神から教えてもらっていない。
あのクソ女神は俺達に魔王討伐何て無理だと決めつけていたのか、既に魔王が討伐されていることを知ったうえで転生させたから面倒くさくて教えなかったのか、どっちにしろあのクソ女神には復讐してやる!
「魔王ってどのくらい強かったんだ?」
好奇心にかられ、胸を躍らせて質問した。昔から魔王がどのくらい強いのかは気になっていた。
「魔王は、この世界の人間全員が協力して戦っても勝てない程強いと言われてました。」
小さな口から語られた返答は驚愕の事実。この世界の人間総がかりでも勝てない程強い。そして思い知らされた、『女神への復讐のために、魔王を討伐して一つだけ叶えられる願い事で女神を奴隷にしてやろう』と、思っていたのは思い上がりであったということを。これで女神への復讐は次死んで女神と再会したそのときに、思いっきり一発殴ってやる!
「じゃあ、勇者はどうやって勝ったんだ?」
「勇者様は魔王の寝込みを襲って勝ったそうです。」
メッチャ卑怯‼信じられない、勇者が伝説の力に目覚めて~とか、勇者の剣を引き抜いて~とか、かと思っていたら寝込みを襲って討伐。これなら俺達でも魔王を討伐できたのではなかろうか?何ならやはり女神を奴隷にする復讐もできたのでは?クソ勇者が邪魔しやがって、見つけたらそいつにも復讐してやる……。
「そんな勇者もいるのか」
何故か和は感心したかのように、頷きながら言った。そんなゴミみたいな勇者に感心するな。こいつの思考回路はどうなってんだ?理解に苦しんだ。そして俺は手を額に当て、やれやれと、言わんばかりに首を振った。
「何故皆さんは自分たちで魔王を討伐することに固執しているのですか?」
不思議そうに首を傾げているレベッカが質問してきた。その質問を聞き、俺は目線を落として考え込んだ。
さてさて、レベッカの言いたいことは分かる。普通、魔王が討伐されたなら喜ぶべきなのに俺達は悲しんでいる。はっきり言って異常だ。このままバカ二人みたいに異常者扱いされるのは嫌だ、転生したことは別に隠しておくようなことじゃないし言うか。
「俺達は前世の行いが悪かったから地獄に行く予定だったんだが、あの世で女神に出会って地獄に行きたくないなら転生して魔王を討伐しろと言われたんだ。」
真面目な顔をして答えた。だというのに、彼女の顔は半分開いた口に、蔑むような見下す目線で見てきた。おかしい、俺は別に嘘は言ってない。それなのに、この目線はおかしい、ちゃんと話を聞いていたのだろうか?
俺は少し不安を感じた。
「そうなんだ。それに加えて魔王を討伐したら天国に行けるんだ」
和の説明に、彼女は一歩背後にたじろいだ。
これは完全に勘違いされているな、さっきからあのゴミを見るような目線、明らかに理解してもらえてない。まあ別にいいか……。
「それなのに、どっかのアホに魔王が討伐されてしまってて、私たちは今どうしようってなってる訳なの」
詩織の一言で彼女の目は、人殺しの目のように冷たくなり、ジロリとこちらを見てきた。
彼女は俺たちの説明を聞いても、口を開こうとせず、その場に重厚な空気が流れた。
やはり明らかに疑われているな。まあ仕方ないか、いきなりこんな話をされて信じる奴の方がおかしい。
重厚な空気を破ってレベッカが口を開いた。
「……分かりました。皆さんはクガさんと同じ種類の人間なんですね」
彼女の冷めた声が、屋敷の中に静かに響いた。
は……?
「違う!あんなバカとは全然違う。信じて欲しい、俺は嘘をついてない」
俺は必死になって無実を証明しようとした。
別に、嘘つきだと思われることはどうでもいいが、あのバカと同じだと思われるのは嫌だ。
きっとあの中二病バカと同じだと思われても良い人間なんてこの世にいない。そう断言できるほど、俺はあのバカと同じにされるのが嫌だ。
「違うわ、あんなアホとは全然違うわ。私は中二病でもないし、虚言癖でもないわ!」
「俺も違う、クガみたいなマヌケとは全然違う。」
和と詩織もレベッカに足元にしがみ付いた。かく言う俺もあの中二病と一緒に見られるのは嫌なので、彼女の足元にしがみ付いた。
その光景を第三者として俯瞰して見ていたダズからするとすごい光景だっただろう。
十七歳の少女の足元に必死になって三人の大人がしがみついているのだから。
はっきり言って狂気だ。現代日本では到底見れない光景だろう。
そんな異常事態が発生するほど俺達の考えは合致していた。
「分かりましたよ、分かりましたから。違います、違いますから!」
予想外の展開にテンパっていた。そして離れてくださいと、両手を前後に振っていた。
俺は彼女の言葉を聞いてすんなりと離れた。
しかし、残りの二人の変態は一切離れるそぶりを見せなかった。
きっと『折角足にしがみついたんだ、絶対離れるものか』と思っているのだろう。
何故このバカ共は学習しないんだろうか……。
「分かってくれたならいいのよ」
レベッカの太ももに顔を埋めていた詩織が答えた。更に詩織は隣でしがみついている和を殴って引き剥がした。
ここからは想像通り、殴られて正常に戻った和がレベッカから詩織を引き剥がした。
「それより前世の行いが悪いから地獄行きになったのでしたら今回は沢山徳を積めば良いのではないですか?」
「あ……」
レベッカの発言に俺は、思わず口から声が漏れた。
確かに、何でこんな簡単な方法を思いつかなかったのだろうか?
天国に行くには魔王を倒すしかないと思い込んでいた。
が、それは勘違いだったということだ。
コンコンと屋敷内にノック音が響いた。
誰だ?俺達に来客何て初めてだな。
「俺が行ってくる」
俺はどうやって徳を積むか考えながら屋敷の玄関に向かい、扉を開けた。
「どちら様です……か?」
目を疑うような来客の人数、姿に言葉がつっかえた。
そこいたのは沢山の鎧甲冑を着た人、
彼らの先頭には日本の警察官によく似た服をビシッと着こなした女性がいた。
え……?何だこれ?もしかして、詩織か和のバカが何かしでかしたのか?
可能性としては到底捨てきれない可能性に俺は不安を感じた。
「あなたがダンジョン破壊犯の一人、東条屑さんですね。あなた方パーティーには審問所まで来てもらいます。」
その言葉で、言葉を失い顔が青く興ざめた。
さきほど徳を積もうと考えたのに、その作戦は一瞬で無に帰した。
地獄に行かないために徳を積むどころの話じゃなくなってきた。だって俺たち犯罪者なったのだからこれでは前世より悪人だ。これはきっと来世も地獄行きだな、もうどうでもいいや。
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