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プロローグ〜人嫌いの鍛冶屋の息子

はじめまして。読んでくれてありがとうございます。

 あるところに人間の夫と女神の妻が森で暮らしていました。


 ふたりは仲良く暮らしていましたが不老不死である女神と違い、人間の生命は有限であったため、やがてふたりに別れのときがやってきました。


「今生も一緒にいてくれてありがとう。暫く一人で寂しい思いをさせてしまうが来世も必ず戻ってくるから僕を待っていて」


 女神にとって夫の死はこれが初めてではありません。彼女の夫は一度寿命で亡くなって生まれ変わっていたのです。


 夫が最初の人生の終わりに何度生まれ変わっても女神とまた夫婦になりたいと願ったのを彼女が叶えたおかげで、彼は前世の記憶を持ったまま前世と同じ姿で生まれ変わっていたのです。


 今生の夫は鍛冶屋の息子として生まれ、18の歳になり大人になってから森にやってきて、前世と同じように彼女と穏やかで幸せな日々を過ごしたのです。


「はい、待っていますね」


 女神は前と同じように夫の手を握って言ったのですが、夫は前のように、それに声のない相槌を打ちつつ亡くなったりはしませんでした。


「今生も幸せな人生だった。……だけど、もしも叶うのなら次の生のせいでは少しでもいいから背が高く生まれたいものだなぁ」


「背が高く?どうしてですか?」


 首をかしげる女神に夫は言いました。


「一度目の人生でも二度目の人生でも、僕の生まれ育った場所では背が高い男の方が女にモテたんだ。ほら、僕は君よりも背がうんと低いだろう?……僕はね、ずっと背が高くなりたかった。君だって背の高い男の方がいいだろう?」


「いいえ。私は見た目には拘りがありません。私の好みは愛する者に誠実な者なのです。あなたは私に出会ったときに約束してくれた通り、最初の人生でも二度目の人生でも一途に私を愛してくれました。私は一途に愛してくれるあなたを愛しているから、あなたの背はそのままでいいです」


 夫は最初の人生で木こりをしていて、この森に一人で住んでいました。そして森の奥にある泉に女神が降り立った瞬間にたまたま居合わせた彼は女神に一目惚れをし、求婚したのです。


 どうか僕と夫婦になってほしいと懇願する彼に、女神は私だけを一途に愛すると約束するならと夫婦になることを了承したのでした。


 女神の言葉を聞いて夫は苦笑しました。


「ハハ……。君はそういうと思っていたよ。最期の最後に愚痴ってごめん。女神の君と夫婦になれたというのに、未だに僕は自分に自信がないし、君の夫になったという実感が持てないままなんだ。君に相応しい背の高さが僕にあれば、僕は自分に自信が持てただろうし、そうすればきっと僕は真実を君に言えただろうに……」


 夫の言葉の後半部分は声が掠れていて、女神は彼が何と言ったのかがわかりませんでした。


「ごめんなさい、上手く聞き取れなかったわ。何と言ったの?」


「いや……。この姿のまま生まれ変わった方が、直ぐに僕だと君にわかってもらえるから、その方がいいんだろうね……。ずっと背が低い僕のままで……」


 そう言ったきり、黙り込んでしまった夫に女神は気遣うように言いました。


「そんなにもあなたは自分の姿が好きではないのね。……いいわ、あなたが背が高くなりたいと願うのなら背が高く生まれ変われるようにしてあげてもいいわよ」


「え?いいのかい?君は僕が願ったことを叶えたせいで森から出られなくなったというのに、また僕の願い事を叶えてくれるなんて……。本当にありがとう。僕には君だけだ。ずっと君を愛してる。来世ではもっと君を大事にするからね」


 神々の王の一番末の娘であった女神は年若く、とても未熟でした。


 夫婦になることで神の力を人間に悪用されないかと危惧する父から婚姻の許しを得るために、女神は人間の夫に対して彼女が神の力を使う場合に限り、彼女自身に関する何かを代償にするという制約を交わしていたのです。


 なので女神は夫の二度目の願いを叶えるときに夫が前世の記憶と姿を持って生まれ変わる代償に神の世界に戻れなくなり、森からも出られなくなってしまいましたが、彼女は一途に自分を愛する夫が望むならと今回もまた力を使うことに躊躇はしませんでした。




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