風呂場の電気が消えた
突然風呂場の電気が消えた。俺が頭をワシャワシャと洗っていると唐突にだ。
停電かと思ったがどうにも様子がおかしい。停電なら家中が真っ暗になるはずだが、脱衣所は電気がついている。本当に風呂場だけが暗闇に包まれていた。
「おかしいな……」
家には俺以外誰も住んでないし、動物だって飼っちゃいない。第一電気を消すには脱衣所にあるスイッチを押さなきゃいけないので俺が気づかないわけがない。
どこからともなく這い寄る不安感に鼓動が早まっていくのが分かる。とにかく電気をつけようと、磨りガラスのはめ込まれた扉を開き脱衣所に脚を伸ばす
「え……?」
脱衣所に脚がつかない。透明な壁があるわけではないのだが、俺の体が行くのを拒否しているようだった。
きっと慣れない停電で脳が対処できていないのだろう、と無理矢理結論付けて風呂場の椅子に座って冷静になろうとする。
しかし、どれだけ待っても鼓動は収まらないし原因も分からない。必死に頭を回転させていると今日の会社での出来事を思い出した。
『おいお前、また書類にミスがあったぞ』
『す、すみません』
『困るんだよね、いつまでも無能のままでいられてもさ』
『……』
『もういいよ、迷惑だからデスクに戻って』
『……はい』
何でこんなときに思い出しまったんだ。余計なことを考えないよう首を振り、風呂場の電気について必死に頭を使う。
『あんたさ、勉強できないんだからせめて迷惑は掛けないでよ』
『ごめんなさい……』
『はぁ…… 何でこんなに役立たずなのかしら』
ダメだダメだダメだ。今考えることじゃない忘れろ。何とか顔を上げるが、周りを見るとやはり、風呂場の電気だけが世界から切り離されたかのように消えていた。
そうか。この風呂場は俺だ。周りを必死に輝いている人間達の心を陰らせる邪魔物だ。
そりゃ明るいところに行く資格なんかないよな。もう俺は誰にも迷惑なんか掛けたくない。ならいっそのこと……
『腐臭がするって通報があった場所ってこの辺…… うわっ!?』
『これは酷いですね……かなり痩せ細ってますし栄養失調ですかね?』
『何で風呂場で栄養失調になってんだ? 自殺なのか? それとも監禁とかか?』
『……難しいですね』
『はあ……これはかなり時間かかるぞ』
『正直迷惑ですよね、こういう死に方。』
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