旧友との再会
旧友との再会
お盆休み、私は久しぶりに地元に帰った。
十年ぶりぐらいだろうか。
駅前の見慣れた景色の中に、知らない建物がいくつか建っている。
それでも昔の雰囲気は変わらない。
ほっとした私に、前から来た男が、探るような目つきを向けてきた。
男 「お前って・・」
失礼な男の顔を見て、私もすぐに同じ言葉を発してしまった。
私 「お前って」
男 「小林か?」
私 「山下か」
その瞬間に、あの時に帰る。
同じクラスだった友人だ。
久しく連絡は取ってなかったが、いつも一緒に遊んでいた旧友だ。
私が地元を離れてから会うのは初めてだ。
まさに偶然だ。
私 「久しぶり。元気そうだな。あいつは、どうしてる?」
私は山下に聞いた。
山下「いやぁ、俺も連絡取ってねえから」
私 「そうか。斉藤もいりゃ、前と同じなんだがな」
私は、いつもツルんでいた斉藤の名前を出した。
私 「あいつがいれば、いつもの所へ行って、ダベるんだけどな」
山下「噂をすれば影って言うから、案外、近くにいるかも知れないぜ」
私 「そうだ。あいつ金ないくせに、いつもついてきて俺たちに払わせていたからな」
山下「お、懐かしいな。そう言えばそうだったな」
そんな話をしていると、横から男が一人、声をかけてきた。
男 「小林と山下じゃね?」
まさに今話していた斉藤だった。
私 「うおっ、マジかよ」
私たちは再会を喜んだ。
私 「なぁ、時間あるか? いつもンとこ行こうぜ」
私は懐かしさもあって、二人を誘った。
山下・斉藤「いいぜ」
私たちは学生の頃に戻り、連れ立ってよく通ったファミレスに向かった。
店に入ると、いつも座っていた席が運良く空いていて、みんな当たり前のようにそこに腰を落ち着けた。
斉藤「なぁ、覚えてるか?」
斉藤が切り出した。
斉藤「俺さ、ゲーセンの格闘ゲームで一回も山下に勝てなかったんだよ。あれ、悔しくてさ。お前、どっかで練習してたのか?」
山下「いや、別に。あれは単純にお前が弱かったんだって。攻めるパターンが大体分かるから、それさえ読めば良かったんだよ」
斉藤「マジかよ。そんなクセあったんか。気付かんかったわ」
私は二人の話に入った。
私 「斉藤って、動きの早いキャラ使ってたよな」
斉藤「いや。女キャラは山下で、俺はレスラーキャラだよ」
山下「斉藤、それ違うぜ。女キャラは小林で、俺は動きの早い男キャラだ」
斉藤「あれ、そうだったか? まー、昔の事だし、どっちでもいいんだけどな」
しかし、大の大人がファミレスで思い出話とは、学生の頃に戻ったとは言え、少し幼い気がしたが楽しかった。
斉藤「そうだ。卒業式の日、パチンコ行ったの覚えてるか?」
山下「あぁ、行った行った」
斉藤「山下がパチンコで三千円勝って、おごらせたっけ」
私は、訂正を入れた。
私 「ちょっと違うぜ。山下はスロットで勝って、勝った分をパチンコでスってさ、ひどいもんだったよ」
斉藤「あ、そうか。えっ、じゃあ勝ったのは小林か?」
私 「いや、俺は勝ってはいないが、トントンだった覚えだけど」
山下「そうだな、あんま覚えてないな。行った事は覚えてるんだが」
小林「だいぶ、記憶が怪しいんじゃないか? 若年性のアレか?」
山下「知るかよ」
私たちは一斉に笑った。
みんなどこかしら記憶がズレているのが、おかしかった。
私 「それじゃあさ、お前、鈴木に告白したよな。フラれたけど」
私は斉藤に言った。
これは間違いのない事で、山下も知っている事だった。
斉藤「ばっ、ばか。何言ってんだ」
斉藤は否定した。
私 「おいおい、何言ってんだは、こっちのセリフだ。今さらごまかすことでもないだろう」
斉藤「違うって、俺が告白したのは、森田だよ」
私 「え? そうだったか?」
山下が怪訝そうな顔で、言った。
山下「斉藤が告白したのは、飯田じゃね?」
斉藤「違うって。本人が森田って言ってんだろ」
斉藤がむっとしたように言うので、空気が微妙によどんだ。
私 「ん、まあ、本人がそう言うならそうか。鈴木と飯田と森田の三人に告白したって事はないよな」
斉藤「当たり前だ。俺は森田に告白するだけで精一杯だったし、フラれたダメージがでかかったんだよ」
私も山下も苦笑いをした。
どうも三人の記憶がズレるので、私はさぐりを入れてみた。
私 「そう言えば、担任の若松先生って今、どこにいるか知ってるか?」
斉藤「若松って二年の時の担任の?」
斉藤が聞いた。
『違う。二年じゃなくて、三年だ』
私はそう思ったが、否定せずにうなずいた。
すると山下が
山下「若松先生って、下の名前、和幸だったよな」
と言うと、斉藤が
斉藤「いや、一雄じゃなかったか?」
と答えた。
本当は『行伸』だ。
山下「和幸だったはずだぜ」
斉藤「いや、一雄だと思うんだけどな」
『山下も斉藤も気が付いてないのか?』
私は重さを増してくる空気に、苦しくなってきた。
山下も何か感じたのか、わざとらしいほど明るく言った。
山下「そうだ、俺、思い出した。体育館脇にクラブハウスあっただろ。俺ら三人で夏の夕方にあそこの裏の木に登って、女子更衣室覗いてたら若松に見つかって、めっちゃしかられたな」
山下は一人で笑った。
斉藤が真剣な顔になった。
斉藤「山下、何言ってんだ。クラブハウスはグラウンド横で体育館脇は倉庫だぞ」
山下は驚いた様子で、真顔になった。
だが二人以上に真顔だったのは、私かも知れなかった。
『違う。女子更衣室を覗いたのは校舎の屋上で、双眼鏡で見ていた時に見つかったんだ』
私 「あのさ、変なこと一つ聞くけど、俺らって三年間、同じクラスだったよな?」
斉藤と山下は、疑うような顔で小さく首を横に振った。
私 「なら、三年のクラス何組だったか言えるか?」
斉藤も山下も、目つきが変わっていた。
積み重なる沈黙が、私たちを引き離して行く。
私 「三年の時は、俺ら一緒だっただろ?」
二人は探るように、ゆっくりと頷く。
私 「何組だった?」
私はもう一度聞いたが、私自身、何組だったか言うのが怖かった。
斉藤「二組だ」
山下「E組だ」
私 「A組だろ?」
三人の間の空気が、固まった。
互いに知っている顔のはずだ。
だが、目の前にいる人物は昔の友達なのか。
山下も斉藤も、私も同時に言った。
「なあ、お前ら誰だ?」