夏祭りの金魚には、たぶん注意が必要だ
「おまつりー」「おまつりだー」
見分けのつかないチビたちを連れ、賑やかな境内を歩く。
夏祭りってのも悪くない。
「きんぎょー」「きんぎょだー」
金魚すくい、と書かれた屋台へ飛んでいく。
金魚で大喜びできるなんて無邪気なもんだ、なんて水槽をのぞき込み……
仰天した。
とんでもないのがいた。
1匹だけ。
目は大きいのが1つ。
ドリルみたいに長くねじれた角が1本。
何だか判らない。
けど断言できる。
少なくとも、金魚じゃない。
「きんぎょとってー」「とってー」
恐ろしいことを言う。
捕れるのか?
そもそも捕って大丈夫か?
「ねー」「ねー」
同じ顔が迫る。
どうしよう。
☆
まさか捕れるとは。
「やったー」「きんぎょー」
ビニールに入った謎生物を見ながら大喜びするチビたち。
大丈夫なんだろうか、本当にこれ。
翌朝。
それは3倍近くに成長していた。
大丈夫じゃない。
3日後。
怪生物は、大型犬ほどのサイズになっていた。
水槽から浴槽へ移されたものの、すぐに不要となった。
空を飛び始めたのだ。
たまに火を吹く。
絶対に金魚じゃない。
☆
1週間が過ぎ──
自動車ほどの巨大さと化したそれは、庭で飼うにも難しくなっていた。
自然に還すべきだ。
当然の結論だった。
チビたちと山へと向かう。
とは言えどこに放していいものやら。
迷いながら時間ばかりが過ぎ、辺りが暗くなり始めた頃。
そいつは、光を放ち始めた。
「ぴかぴか一」「ぴかぴかだ一」
変化していく。
さらに謎めいた巨大な何かへと。
『──ありがとう人間たち』
それが穏やかに口を開いた。
語り始める。
自分は何者なのか。何故このような姿をしていたのか──
だけど。
まったく頭に入ってこなかった。
情報量が多すぎる。
要するに。
こいつは何か神様的な代物で、何やら力を封じられていて、
あのままだとあるいは大変なことに……みたいな話。
『──残念ながら行かねば』
神様らしきものは言った。
礼がしたいと言う。
「いぬー」「いぬがいいー」
チビたちが即答する。
『さらばだ──』
神様はゆったりと上昇していくと、大きく光を放ち──
姿を消した。
「ばいばーい」「ばいばーい」
何だったんだ結局。
まぁ、でもとにかく。
良いことをしたのだと思う。たぶん。
よく判らないけど、チビたちはあれを助けたのである。
命を救ったのである。
──あぁなるほど。
そう言や書いてあったじゃないか。
「金魚すくい」って。
☆
後日。
チビたちのもとには、子犬が届けられたそうだ。
目が3つあるとか。
どうなることやら。