#02 ~ いざ、帝都へ
色々とあった――本当に色々とだ――夏休みが、終わりを迎えた。
ということは、だ。
ついに、やってくるのだ。
帝都で行われる……戦技大会本戦が。
「お待たせしました」
職員室の扉を開き、中に踏み入れたユキトが頭を下げる。
その部屋の中には、十人近い人物がいた。その全員、ヴィスキネル士官学院の教官たちである。
「ユキト先生、お疲れ様です」
「すみません、お待たせして……」
「いえいえ。この時期ですから、指導に熱が入るのも当然です」
そう言って笑うのは、ダニエル・レーゼマン教官。ユキトの前任、前剣技教官であり、一部にはユキトとの不仲説も流れる人物である。それも当然で、彼はユキトによってその座を追われたとも言えるからだ。
だが実際のところ、ユキトと彼の仲は良好だった。
からりとした性格もそうだが、ある意味軍人らしいと言うべきか、ユキトの武にもっとも敬意を払ってくれている。
「揃いましたね。それでは始めましょうか」
居並ぶ教官たちを前にそう言ったのは、ミレーユ学長だ。
長い耳をした、いわゆるエルフなのだが……そういえば今日まで彼女以外のエルフを見たことがないな……。
「来る戦技大会本戦、そして修学旅行について――」
学長はそう言って、紙の冊子を掲げた。
帝都で行われる戦技大会は、双月祭の中で行われる。
双月祭は、帝国における最大のイベントである。前夜祭も含めれば一か月間お祭り騒ぎというのだから、その規模も窺い知れるというものだ。
戦技大会本戦への出場と同時に、応援もかねて修学旅行もやってしまおう……という学院の判断は、なるほど納得のいくことだった。
「――と、いうわけで」
士官学院、練武場。そのホールで、八名の生徒たちを前にユキトは告げた。
「今配った冊子が、帝都でのスケジュールになる」
「先生、少しいいですか?」
真っ先に手を挙げたのは、金髪を短く刈った男子生徒。戦技大会予選、剣術部門の優勝者、シグルド・ユグノールである。
生真面目が服を着て歩いているのではないかと言われるほどで、俺の印象もそれに近い。
「班についてなんですが――」
「ああ。そのしおりにある通り、大会本戦出場組は、前もって帝都に向かう。本戦に向けての練習場の確保や、機材の搬入、諸々の手続きのためにね」
「それじゃあ、もしかして修学旅行は?」
「それは安心してくれ。観光のスケジュールは取ってある。ただ、祭りを楽しんでリフレッシュするのもいいが、調子は万全にしておくこと」
横合いから口を挟んだ女子生徒が、ほっと息を吐いた。
大会に身を入れるのは当然だが、双月祭だって楽しみたい。まだ若いんだから、そう思うのは当然だろう。
「では、ここにある班長というのは……?」
「それは俺が指名した」
シグルドの言葉に、ユキトは視線を向けた。
そう。この九人の班長は、彼だ。
「今回、この班の引率は俺がすることになった。正直、納得がいかない者もいるかもしれないが……」
「いえ、そこはむしろ納得しかありません」
そうか? と他の生徒にも目線を向けるが、全員が頷きを返す。
もしかしたら、そこに一番納得がいっていないのは俺自身なのだろうか。俺は剣はともかく、教師としては半人前以下だ。不安がないといえば嘘になる。
だが彼らがそう言うのなら、俺は自分の役目を果たすべきだろう。
「ともかく。その上で、この班の班長は誰かと言われれば、俺は君しかないと思った」
「はあ……」
「俺も本戦には出場するし、帝都では皆だけで行動することも多いだろう。その時に班員が困っていたら助けてやってくれ。君なら何の問題もないさ」
「……了解しました!」
背筋を伸ばし敬礼する彼に、俺は小さく苦笑する。
なるほど生真面目だ。いや、軍人らしいというべきなのだろうか。
「出発は一週間後。それまで、各自準備を整えてくれ。以上!」
『了解!』




