表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/120

#40 ~ 意外な弱点

「マジで美味かった……」


 あのエビは一体ナニモノなのだ……。

 超でかい上に異常にうまいロブスター。あれだけでもぜひまた食いたい……。

 それ以外も本当に美味かった。マンガ肉かと思ってしまうほどにデカい肉が出てきたときは、思わず目が離せなかったよ。


 あと俺の好みを知っている伯爵さまが、まさかの寿司まで用意してくれた。前世でもなかなか食えないレベルに美味い寿司だった。

 この国にも和食の店はあるが、寿司の店はほぼない、あっても超絶高くて俺には手が出ない。マジで神かよ伯爵さま。


「先生、それじゃ私たちはこれで」


「え? 車に乗って帰らないの?」


 イリアさんの言葉に首を傾げると、彼女は「帰りに全員でカフェに行こうという話に……」と苦笑していた。

 明日の作戦会議らしく、俺も参加すべきかと思ったが、疲れているだろうからと断られた。まあ学生だけでっていうのは大切だよな。


「そうなのか。じゃあ俺は車で――」


「おーい、ユキト!」


 聞き覚えのある野太い声。目線を向けると、駐車場の出口でイカつい顔をした巨漢が手を振っていた。


「あれ、グラフィオスさん? シルトさんも」


「おう、久しぶりだな!」


「どうも」


 歩み寄ってくるハンターの二人に首を傾げる。

 学生たちから「マジか、暴獣(ベヒモス)!?」「あれってA級の……」という声が聞こえる。暴獣(ベヒモス)ってなんだと思ったが、間違いなくグラフィオスさんのことだなと直感で理解した。


「おい、何か失礼なことを言われた気がするぞ」


「気のせいッス。それで、どうしてここに?」


「おう! 飲みにいこうぜ! 明日は試合ないだろ」


「お断りします」


 超即答で断ると、あれっ、とばかりにグラフィオスさんは意外そうな顔をした。


「いや明日は生徒の試合があるし、第一、早く帰ってクロに飯をあげないと」


「……ああ、まあ会場に犬は連れて入れないか」


 そうなのだ。そのせいで今日もクロはお留守番である。

 最近、クロはほぼお留守番であり、連れ出せるのは伯爵邸に行く時とか、毎朝の散歩の時ぐらいのものだ。


 この国は動物に優しくないと思う。動物愛護団体さんが攻めてきてもしらんぞ!


「それなら犬も一緒でいいぞ。奢ってやる」


「マジですか? 行きます」


「おい……お前結構稼いでるだろ……」


「俺の今のところの目標は一軒家を買うことなので」


 ホテル暮らしではクロも住みづらいだろう。

 クロは何の文句も言わないが……できれば庭つきで、修行できるぐらいのスペースがあるとベストです。


「まあいい。んじゃ行くか。ちょっと会わせたいヤツもいるしなぁ」


「会わせたいヤツ……?」


 変なやつはやめてくれよ……。

 ともかくクロを迎えに行くべく、俺たちはホテルに向かうのだった。



 グラフィオスさんに案内されて入った店は、路地裏にある小じんまりとした居酒屋だった。

 宿が併設された個人経営の店みたいで、いわゆる異世界転生モノに出て来そうな店であった。

 店主は俺たち、というより俺が連れたクロに目線を送り、そしてじろりとグラフィオスさんを睨んだ。


「犬は聞いてねぇぞ」


「いいじゃねぇか、おやっさん。コイツは何でも食うから、犬用の食事なんていらねぇからよ」


「はあ……まあいい。適当に座りな」


 追い出されないかと少し心配したが――大抵のレストランではそうなる――問題ないらしい。


 俺は席につくと、クロ用に取り置いていたホテルのディナーを床に置くと、クロは嬉しそうにがっつきはじめる。

 グラフィオスさんがクロの豪華な晩餐に羨ましそうな顔をしたが、やらねぇぞとばかりに俺はしっしと手を振った。


「注文は」


「俺はビール、あと適当に。お前らもそれでいいか?」


「俺は未成年ですよ。普通に酒を飲ませようとしないでください」


「ああん? 十八だろ?」


 え、もしかして酒飲んでいい年齢ちがうの?


 横に座るシルトさんに聞くと、いわく、この国での飲酒可能年齢は十八歳かららしい。つまり俺も飲んで良いそうだ。

 ただし学生は除く。学生は卒業するまで飲酒はできない。あくまでも校則による縛りではあるが。


 ……いや俺が本当に十八歳かは分からないけどな。戸籍を登録するときに、とりあえずそのぐらいって登録しただけだし。


「っていうことでビール三つ!」


 俺が驚いているうちにオーダーが終わり、あれよあれよといううちに、銅のジョッキに入ったビールが運ばれてくる。


(ビール……)


 やっぱり異世界にもあったか……。


 ジョッキに触れると、とてもよく冷えていた。

 これ、日本のビールとほぼ同じじゃないか。


 前世では何かにつけて呑んでいたものだ。接待に飲み会に、帰宅してからのひとり呑み。

 ごくり、と唾をのむ。

 

「それじゃ、予選お疲れってことで」


 乾杯、とジョッキを合わせ、おそるおそるビールに口をつける。

 一口、二口。ごくり、ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ――。


「ぷはぁ」


「お、いける口じゃねぇか!」


 しまった! 一気飲みしてしまった!

 シルトさんが苦笑して「初めてですよね? 無理しないでください」と言っているが、まったく初めてではないです。


 その後、グラフィオスさんが注文するつまみを口にしつつも杯を重ねて、しばらく。


「うわっ、何この状況」


 店の入り口から聞こえてきた女性の声。そこにいたのは――


「あっ、実況席にいたおねーさんじゃん!」


「うぇっ!?」


 解説してた美人のおねーさんだ!

 わーいとばかりに絡む俺の頭をぱしんと叩くと、彼女は頭を抱えて、


「ちょっと……グラフィオス?」


「すまん、飲ませすぎたかも」


「かもじゃないわよ! どう見ても酔っ払いじゃない!」


 よっぱらい?


「しょんなわけがにゃい! よってないにょ」


「いやどう見てもダメです、ユキトさん」


 しょんなばかな!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ