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滴る月光  作者: 利壱
1/1

災難



「君かっこいいね!どう?アイドルなんか目指してみない?」

「すみません。興味ないんで。」

若松壱矢は今日何回目かのスカウトを丁寧に断っていた。

日本人には珍しいブルーの瞳と銀色に光る長めの髪は英国人の母譲り。スラリとしなやかな体をシャツとジーンズでラフに着こなした姿は大人っぽく、とても高校生には見えない。

道行く人々が彼の美貌に目を奪われた。


(やばいっ遅刻だっ)

そんな事を知るよしもない壱矢は足早に目的地へと向かった。




「若松君遅いよっ」

「わっすみません」

ドアを開けた瞬間店長の怒声が響き渡る。

「もうっ忙しいんだら早く来てよねっ。ほら、さっさと着替えて手伝って」

「は、はいっ」

手早く制服に着替え店内へと急ぐ。


ここ、カフェ

「リーゼ」は俺のバイト先。店の内装がおしゃれでメニューもどれもおいしいから今や超人気のカフェとなっている。

「お!遅かったな若松」

この人は俺の同僚で先輩の志藤樹さん。モデルなみにかっこよくて、世話好きで優しい俺の憧れの先輩だ。

「早速店長に叱られちゃいましたよ」

「ははっ怖えーよなあ...おっと」

志藤さんの視線の先を追ってみると、すごい形相でこっちを睨んでいる店長が。

「お、俺料理運んできますね」

そそくさとその場を離れる。

「お待たせしました」

「きゃあっ若松さんよ」

「今日もかっこいい〜」

「...ありがとうございます」

お客さんはきっと俺の事をからかって言ってるんだろうけど、対応に困るよなあ。

「ねえ!私達も若松ファンクラブに入ろうよ!」

「あ!それいいね」

その黄色い声は壱矢の耳に届いていなかった。



---


「お疲れさまでしたー」

秋になったばかりの夕暮れはまだ蒸し暑く、ぬるい風が頬を撫でる。

「今日は何作ろっかな」

父さんまだ帰って来ないよなぁ?

壱矢の両親は中学生のときに離婚し、父親のほうに引き取られた。大手企業の社長で、外国に行くことが多いから家に帰って来るのは年に数回くらいだ。

ま、1人暮らしも気楽でいいけどね。

適当な食材を買ってスーパーを後にする。


「...ん?」

マンションの前に止まっている真黒なリムジンに目が止まる。

あの車って....

「壱矢あああっ!!!」

勢いよくドアを開け、険しい顔で飛び出してきた人物は

「うわっ父さん!??」

「急げっ今すぐ出発だ!!!」

「へぁ???」

「説明は後だっ早く乗れっ」

「ちょっちょっと!!!」

訳も分からず車に押し込まれた。

「出してくれ」

ものすごいスピードで道路を走りぬける。

「父さんっ一体何なんだよっ?」

「今からロギンス財閥の御曹司に会うんだ」

「ロギンス財閥??」

あの世界的有名な??

「それと俺になんの関係があるんだよ?」

「...............」

「父さん?」

いきなり黙り込んだ父さんに違和感を覚える。

「すまない壱矢っ」

「むぐっ!?」

父さんが俺の顔に布を押し当ててくる。

「な...に」

だんだん意識が遠のいていく。

「すまない、すまない壱矢」

情けない表情で謝り続ける父さんを最後に、俺はプッツリと意識を失ってしまった。




---



冷たい指先が頬をなでる感触がする。

「...ん」

夢か?

次に、唇にフニュっと柔らかいものが押し当てられ、俺は反射的に身を起こした。

「...誰っ!??」

俺の上に乗っかっているその人を凝視する。

なんて.........

綺麗な人だろう。

スッと切れ長に伸びた意志の強そうなエメラルド色の瞳。

高く整った上品な鼻梁。

色素の薄い艶めいた唇。

少し癖のある金色に輝く髪。

まるで西洋の王子様みたいで、俺は陶然とその人に見とれてしまった。

「私はノア・ロギンス」

どう見ても外国人なのに、流暢な日本語で少し驚く。

「ロギンス?」

そういえば、さっき父さんがロギンス財閥がどーとかって...

考えているうちにハっとする。

「ここどこ!?...とっ父さんは!?一体、何がどーなってんの!??」

その瞬間信じられない言葉に耳を疑った。

「ここはロサンゼルス。若松氏はある交換条件と引き換えにお前を私にくれた。今日からここで暮らすことになる。異論はないな?」

「.......」

異論はない

訳ないじゃんっ!!!!!

「わっ」

いきなり肩を強くつかまれ、柔らかいソファへと押し戻される。

「なななな何っ!?」

「お前、名前は?」

「...壱矢」

って、名のんな俺っ!

「壱矢...」

ロギンスは俺の名前を甘く囁く。

同時に潤んだ瞳で甘く見つめられて、俺は体が硬直してしまう。

「この日をずっと待っていた」

「へ?」

「やっと手に入れた」

吐息が頬をくすぐる。

やばい!そう思った時には遅く、俺は熱く口づけられてしまったのだった。
































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