好きなアイツは超クール 振井明人のホワイトデー
続いて振井明人編です。
ホワイトデーのお返しにキャンディをチョイスした明人。その真意とは……?
インターホンの返事からドアが開くまでの時間。
あぁ心臓が破裂しそう。
落ち着け。深呼吸だ。あくまで義理へのお返しだ。
「よ」
「おはよ。どしたの? こんな日曜の朝から」
あぁ、ラフな格好の澪も可愛い!
ふわっとしたパステルカラーのパーカーとグレーのハーフパンツ。
部屋着ベストアワードはこれで決まりだ。
「これ澪に」
「何?」
手が震えないように気合を込める! 何度もシミュレーションしたんだ! 大丈夫!
「バレンタインのお返し」
「あぁ、わざわざありがとう。別に良かったのに」
「そういう訳にもいかないだろ。美味かったしな」
「そりゃどうも」
受け取ってくれた! いらないとか言われたらどうしようかと思ってた!
「開けてもいい?」
「あぁ」
え、ここで開けるの!? で、できれば一人の時にって思うけど、そうも言えないよな……。
「わ、阿甘亭の宝石どろっぷじゃない」
「それなら手作りと何とか釣り合うだろ」
「何か気ぃ遣わせちゃって悪かったね」
「別に、土産物とかで遣ったり取ったりなんて今更だろ」
「それもそっか」
とんでもないよ! あの手作りチョコの価値に比べたら、一個250円の宝石どろっぷですら安いわ!
「うん、この上品な甘み、好きだわ」
「そっか」
あぁ喜んでくれてる! ありがとう阿甘亭! 一生ひいきにするからな!
「ねぇ、ホワイトデーのお返しの意味、知ってる?」
「は? バレンタインのお返しだろ?」
とぼけてはみたが、当然知ってる! だからこそ宝石どろっぷを選んだんだ!
「渡すお菓子に色々意味があるのよ。マシュマロは『実は嫌い』、クッキーは『友達でいよう』、チョコレートは『君の気持ちには応えられない』、そしてキャンディは……」
「キャンディは、何だよ?」
もし澪から「キャンディは好きって意味だよ」って言われたら、その時こそ俺は……!
「……何だっけ」
「忘れてんのかよ」
「ごめんごめん。ど忘れした」
「自信満々に言っておいて、何だそりゃ」
「お詫びとして一つ分けてあげよう」
がっくりと力が抜ける。やっぱりこんな遠回しなのじゃダメか……。生かしきれなかった懺悔を込めて、どろっぷを口に入れる。
「サンキュー。……ん、やっぱりこれ美味いわ」
「ありがとね。大事に食べるわ」
「おう。じゃあな」
とりあえず今日は、バレンタインの恩返しができた事だけで満足しておこう……。
「また明日。学校でね」
「あぁ。また明日」
そう。まだ明日があるんだ。逃げの言葉かも知れないけど、その言葉に救いを感じながら、俺は真梨家を後にした。
そういや口の中のどろっぷ。今澪と同じ味を感じてるのか……。そう思ったらめちゃくちゃ嬉し恥ずかしくなってきた! あー! あそこで気付かなくて良かったー!
読了ありがとうございます。
実に日本人的な遠回しな表現。
こうかは いまひとつの ようだ。
しかし澪の視点から見ると……?
真梨澪編、引き続きお楽しみください。




