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第2話 異世界人生ゲームのはじまりです

「エリザベス様、そろそろお戻りになられる時間です」


一番高い位置にあった太陽がいつのまにか低くなっていた。新緑がさわやかに色づく庭園の奥、木々に囲まれたこの場所にテーブルとイスが用意されているのは私がお気に入りの場所だから。本当はイスなんてなくてもよかった。草むらの上に直接座って本を読みたかったのだから。


「ありがとう」


立ち上がると、侍女のアニーは私の身の回りの物を片付け始める。


「お兄様は?」

「それが……。今日はお戻りが遅くなられるとのことで、できればエリザベス様に対応していただきたいとのことですがいかがいたしましょうか?」

「……ほんとうに?」


歯切れ悪く答えるアニーを横目に見ながら庭園を出る。アニーは私のガイド役らしい。私エリザベスはフォンティーヌ王国で第二の生を受けた。王都に近い領地をもつデュポンドルール伯爵家の令嬢で、優しい両親とちょっぴり過保護な4歳年上の兄、そして甘えたがりな2歳年下の弟がいる。


「ドレスの用意もしなくてはなりませんね。」


アニーはテキパキと近くにいる侍女にドレスやアクセサリーを用意させる。


「強制イベントなのね」


そっと呟いた言葉は静かに部屋の中へ消えていった。アニーは私にいくつかの選択肢を与える。私の選択によってストーリーが変わっていくのかもしれない。でも今日みたいに私に選択権を与えずに発生してしまうイベントがときどきある。これを強制イベントと呼ぶらしい。


◇◇◇


私がはじめて前世というものに気がついたのは15歳の春の訪れを祝う国王主催のガーデンパーティ。お父様に連れられて参加したけれど、初めてのあいさつ回りは私のお披露目の場でもありいろいろな方にひっきりなしにお会いして疲れてしまったので、花壇に見えるたくさんの花の蕾をぼんやりと眺めているときだった。


「エリザベス嬢、庭園ははじめてですか?」


お兄様が親しくされているサミュエル様に声をかけられた。サミュエル様はお兄様と同い年で同じ王立学園を卒業されている。サミュエル様は宰相補佐として父君について学んでおり、お兄様も王太子の側近なので今も顔を合わせる機会が多く屋敷に遊びに来ることが多い。


「見頃の花があるのでよろしければ一緒に見に行きませんか?」

「よろこんで」


差し出された手をとると、ゆっくりと庭園の奥へ歩いていった。


「サミュエル様はこの庭園に詳しいのですか?」

「登城したときはよくここで休憩をしているのですよ」


ふんわりと香る方向に視線を向けると、視界一面にミモザの花が舞っていた。視界いっぱいに黄色い花が広がり眩い光があたり一面に広がった。


「私、ミモザの花が好きよ」


懐かしい声が響いた。





「○×△◇○×▽□」

「そこがかわいいでしょ?」

「×▽◇×……」



「エリザベス嬢?」

「……っ」


名前を呼ばれてブルっと体を震わせた。頬を冷たいものが伝っているのを感じた。


「ごめんなさい……。あまりにもミモザの花が綺麗で……」


黄色い花から目を逸らすことができない。胸が切なくなるようなキュウっと締め付けるような、言葉にしがたい思いで締めつけられる。次から次へと懐かしい声が頭の中に響くのに何と話しているのか内容まではわからない。もやもやとした形のない思いで息苦しくなってきたとき、ふわっと柔らかい空気を感じると同時に額に温かいものが触れた。


「!!!!」

「感受性豊かなんですね。リズ」


見上げたすぐ近くにあるサミュエル様のお顔を《《マジマジ》》とみてしまった。


「かわいらしい瞳がまんまるになっていますよ」

「なまえ……。」


涙のあとをなぞるサミュエル様の手がとても冷たくて気持ちがいい。


「……リズ。涙、止まりましたね」



心の臓が止まった。



◇◇◇



私はときどき懐かしい声が聞こえるようになった。あのミモザの花を見た日から、サミュエル様は私のことをリズと呼ぶようになり、お兄様に会いに来たときに少し会話を交わすようになった。サミュエル様と会った後に、同じような夢を見るようになった。


-----ゲームのようなハッピーエンドを見せてほしい

-----ここは"異世界"の人生ゲームだ

-----ゲームはまだはじまっていないよ


真っ白な世界で繰り返しこの人生はゲームだと聞く。そして目の前にある大きなスクリーンには見たこともない風景が広がる。空に届きそうなほど高い建物、おいしそうな料理、見たこともない服。そして必ず最後に同じ女性と男性の姿がぼんやりと映る。


エリザベス16歳。サミュエル様は時々私に会いにくるようになっていた。私が好きそうなお菓子をお土産に。大好きなバタークッキーや紅茶の茶葉が入ったクッキーをお茶会で用意することが多かったからお菓子好きだって知っていたのかもしれない。


-----ゲームはもうすぐはじまりそうだね

-----君の侍女が案内役だ

-----大丈夫、ただ君の生を全うすればいいだけだ


17歳の誕生日、サミュエル様にミモザのような淡い黄色のドレスと真っ白なヒールの靴をいただいた。


今、私は黄色のドレスを着せられている。アニーに促されて玄関ホールへ向かうと、ちょうどサミュエル様が到着されたようだ。


「エリザベス様、異世界人生ゲームのはじまりですよ」

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