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8 神は祈りで形を得て、私は神に与えられる

 神の像は随分控えめに作ってあるらしい。


 私は見惚れて、しばらく何も言えないまま、じっとその美しい顔を見ていた。薄く微笑んだ彼は、私のその視線を青い瞳で受け止めている。


「初めまして、アナスタシア。君が、僕のお嫁さんだね?」


「は、い……、そう、らしいです。聖女らしいので」


「ふふ、綺麗なお嫁さんで嬉しいな。——安心して、アナスタシア。君は僕の奥さんだから、君の望む事は僕が全部叶えるよ」


「…………では、最初に一つお願いがあるのですが」


「何かな? あ、神って皆同じ姿なんだけどね。僕は生まれたばかりの神だから、君が最初で最後のお嫁さんだよ。大事にするからね」


 確かに、言動は少し子供っぽい。


 だけどその言葉も姿も、私にはとても安心できるものだった。そして、目の前で行われた奇跡の所業や私に与えられた不思議な水。何より、ずっと胸の中から聞こえてきていた温かい声。


「僕は君がここで祈ることで形を得られる。神ってね、本来は意識が無いんだよ。ふわっとした力の塊みたいな物で、たまたま、その力の中に興味の種が生まれる事がある。それは弾けて消えてしまうこともあるんだけど、今回は違った。僕は、アナスタシアに会いたかったし、アナスタシアをお嫁さんにしたかった。僕に選ばれたのは嫌かな?」


「いいえ。……私は、あなたの声を聞いていました。とても、とてもあんしんできる、あなたの声を……それを頼りに生きていました」


「声が聞こえていたの? それはよかった。僕らはきっといい夫婦になれる。——さて、それでお願いって?」


 私の気がいよいよ狂って都合のいい幻覚を見ているならそれでもいい。


 でもこれは現実な気もする。それを確認するためにも、私は神と名乗ったこの綺麗な男性にお願い事をした。


「私、部屋が欲しいんです。壁があって屋根があって、ベッドに布団があって、あの……お風呂とお手洗いのある、部屋が」


「いいよ。不便だよね、ここ。必要で当然だよ、君は肉体があるんだから。それに、プライバシーって大事だよね。——はい、できた。気に入ってくれたらいいけど」


 話している間にできたらしい。目の前に、木目の扉が地面から生えた。扉だけで、裏も表もただの扉。


 そこを開くと、私が言ったような……そして、私が実家で体面用に用意された部屋より遥かに立派な部屋があった。


「……ここ、使っていいのですか?」


「いいよ。着替えもあるからね。お嫁さんに不自由させたりしないよ、今は眠りたいんでしょう? ぐっすり寝て、気が済んだら出ておいで。僕は何年でも待てるからね、神だから」


「ふふ、ありがとうございます。こんなによくしてもらえたの、初めてなので……、でも、今はお言葉に甘えさせてもらいます。神様」


「あーだめ! 神様じゃなくて、旦那様、がいいな。アナスタシア、目が覚めたら僕のお願いも聞いてくれる?」


「えぇ、もちろん。私にできることでしたら。……おやすみなさい、旦那様」


「おやすみ、アナスタシア」


 私は部屋に入ると、中を一通り見て周り、綺麗にしてもらったとはいえ、お風呂に入って寝巻きに着替え、清潔で大きくてフカフカのお布団で目を閉じた。


 気持ちがいい。……こんなに、安心して眠れるのは、初めてかもしれないと思いながら。

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