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5 神殿で神学を学んでいます、そして、いじめも

「ちょっといつまで寝てるつもり? 早く起きて仕事なさいよ」

「そうよ、お嬢様気分で聖女になろうなんて、神様だって嫌に決まってるわ」

「ほら、お着替えを手伝ってあげるわよ? 聖女様!」


 神官ともあろう女性たちの言葉と声とは思えない、とても攻撃的な態度で、ノックもなしに人の部屋に入っていった彼女たち。


 おかしいと思った、貴族の令嬢をいきなり一人で放り出して、何も出来ないままな所をいびろうとしていたなんて。残念ながら私は慣れていた、質素な部屋にも、早寝早起きにも。


 もぬけのからの部屋を見て唖然としているところに、後ろから声をかけた。


 またか、という気持ちが大きい。家族だけじゃなく、神殿でも私はこう扱われるのか、と。


「おはようございます。大聖堂の火を灯してきました。次は何をすればよろしいですか?」


 私の底冷えのするような、何もかもを諦め切った声に、彼女たちはゆっくりと振り向いた。


 恥をかかせてやろうとしたのに、逆に恥をかいたのは彼女たち。満面に怒りをのせて、私の肩に肩をぶつけて出ていった。痛かったが、鞭で打たれるほどでは無い。


 私は何も知らされず、この後どうすべきなのかも教えられてもいないので、部屋でぼうっとしていた。そこに年嵩の、大神官が呼びにきた。昨日、私を案内してくれた人だ。


「聖女様、何をなさっているのです? 朝食の時間です。世話係を申し付けた3人はどうしました?」


 どこか私を咎めるような声ではあったが、私の無機質な表情を見て彼女も怯んだ。


 咎めるのなら世話係の方だろう。何も世話をせず、私をいびろうとし、私に何も教えず出て行った。


「時間より遅くにきて、私が仕事を終えて戻った時にはノックもなく部屋に押し入り、後の指示も出さずに去っていった彼女たちが世話係ですか? 私は朝食の時間も場所も知らされていません。このままでは立ち行かないのですが」


「……申し訳ございません。必ず叱りつけておきます。食堂に案内するので、こちらへ」


 大神官は弁えているようだった。彼女は私に神学を教える教師でもあるらしい。彼女とならうまくやれそうだ。私に、申し訳ございません、なんて言う人はそういない。


 20人ほどいる食堂の末席に座る。私は一番の新参者だから当たり前だ。誰も食事に手をつけていないあたりは神官らしい気もするが、食事内容にはうんざりした。


 野菜と卵のスープとパン。それは構わない。なぜ、私のスープには卵のかけらも屑野菜も何一つ無く、パンは他の人の5分の1の厚さなのだろうか。聖女なんて飢えて死ねばいいという現れかな? 上座の大神官からも見えているだろうに、何も言わない。うまくやれる、なんてのはすぐに消し飛んだ。


 祈りの言葉を述べて、全員が手をつけてから私も食事に手をつけた。野菜が浮かんでいないどころか、スープも水で薄められている。殆ど味のしない冷めたスープとパンを綺麗に食べて、私は先の大神官と図書室に向かった。


 神学の勉強をするために、私は神殿にいる。その間、仕事は朝の蝋燭を灯すことと、最後の沐浴の後の浴場の掃除。他の神官はそれぞれ仕事と奉仕があるらしいので、静かなものだ。


 勉強は穏やかで楽しかった。知らない事を学ぶのは楽しい。鞭で叩かれることもないし、癒しの力や恵みの力、神への祈りの作法、作法による効果の違い、かなりの詰め込み授業だったが、私にはちょうどいい。余計なことを考えずに済むから。


 神学の勉強以外は、日々嫌がらせは続いた。入浴後には何故か寝巻きがびしょ濡れになっていて下着で眠る日もあったし、私の食事はずっと変わらなかった。誰よりも貧相で、微かな塩気のあるスープ。水分と塩があれば生きてはいける。だが、私はまだ人の範疇で暮らしている。


 身体が痩せ細っていくのを教師の大神官も見ていただろうに、何も言わない。叱りつけたと言ったあと、あの3人が世話に来ることもない。


 この神学とやらも本来は一年かけて学ぶものらしいと知ったのは、後のこと。私が躓かないのが面白くなくて、どんどん難解にしていっているらしいと、通り掛かりに聞こえた陰口で知った。


 ただ、ろくな栄養も睡眠もなく、日々悪意に曝され続ける生活は、私の精神をも削っていった。胸の内の温かい声だけが私の拠り所で、それが無ければ私は熟睡も叶わなかっただろう。この部屋に鍵はない。寝ている間にどんな嫌がらせをされるかと怯えなければならなかったと思う。


 家は最低だったが、体裁というものが私をまだ人たらしめてくれていた。ここにはそれがない。秘された、女だけの場所。誰も見にくることはない、彼女たちは病めるものや貧しいものには優しいのだから。


 私は神殿でも嫌われている。


 好きで、聖女になったわけではないのに。

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[一言] ひぃいつらいぃぃ 早く幸せよきたれぇぇ
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