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10 まずは生家からお願いしてみました

 旦那様のやる事はよく分かりませんが、私のあの汚い鬱憤を飲み込んで何をするのか。というかあんな物飲まないで。


 とはいえ、神のする事に私が口を挟むわけにもいかない。彼は私に先程の鏡を覗き込むように指差しました。


 そこには家のリビングで寛ぐ3人の……私の元家族がいた。まるで、はじめから3人しかいなかったかのように、ほのぼのとした空気が流れている。


 やるせない気持ちと、今となってはこの中に自分がいなくてよかったという気持ちがある。私は、とっくの昔に家族だった人たちに無関心で、ただ、生きていくのに素直にされるがままにされていただけだった。


「やはりヴェロニカこそが王室に入るのに相応しいな」


「えぇ、本当。私たち、一度は不和でしたけど……全部アナスタシアのせいですからね。聖女となっていなくなって、その分私たちにお金も地位もくれる。飼っておいてよかったわ」


「わざとお姉様が聞いているところでお父様たちにお願いしてたのにね。あのドレスも宝飾品もお姉様の為に王室から支給された予算で買ったものだけれど、全部私のサイズにして毎年私が着ていたのなんて知らないの。笑ってしまいますわ」


 家族だった人たちの言葉は聞くに耐えない。笑いながら私を飼っていたと言う母、騙していた妹……私の事を金蔓としか思っていない人たち。飼っていた、と明言して誰もそれを咎めない。


 そして、あの無駄に豪華なドレスや装飾品。あれらは王宮から支給された予算で買い揃え、時がきたら妹が直して着ていた。それならば両親だった人たちの懐も大して痛まない。何というか、あまりにもせこいというか……呆れてしまった。


 本当に同じ血が流れているのだろうか。母だったこの人はお腹を痛めて私を産みながら、それを忘れて家畜としてしか私をみていない。父だった人も、妹だった人も。


 目を逸らしそうになるのを、旦那様が、見てて、とばかりに笑って指をさす。


「たしかこの男は君を鞭で打ったり、他人に鞭で打たせたりしていたんだよね。かなり長い間。そして、その傷を治療もしなかった。そんな人には同じ痛みを味わって貰わないとね」


 旦那様が父の上に指を置く。不思議だった、特にそこに何か不自然なこと……超自然的なことがあった訳ではない。が、鏡の中には顕著な変化があった。


 まずは父だった。急に首を押さえて苦しみ出したと思うと、泡を吹いて倒れる。白目を剥いて七転八倒しているが、意識も呼吸もあるようだ。


 母と妹の絹を裂くような悲鳴が響いた。なのに、使用人たちは、何故か誰も部屋に入ってこない。聖女となった私の悪口を言っていたから、そこに誰も控えていなかったのも災いした。


「だ、誰か?! 誰かお医者様を!」


「ちょっと! 何で誰も来ないの?! お父様?! お父様!!」


 混乱しながら自分たちで誰かを呼びに行こうとはしない母と妹。不思議だ、せめて廊下に出る位はしてもいいのに。


「人間って混乱すると動けなくなるからね。特に、この人たちは自分ではなんにもやってこなかった」


 明らかに旦那様が多少の仕掛けを施したのはわかる。少し意地悪に笑いながら、旦那様は父だった人の醜態を見守っている。


「父に何を……?」


「これ? この人がアナスタシアにぶつけてきた鬱憤を返してあげたんだよ。18年……お腹の中にいた時からだから19年? この人がアナスタシアを見下して当たってきた物をいっぺんに。——いろんな神経が一気に切れたと思うよ、鞭打ち千回以上の痛みが一気に襲う。もはや毒みたいな物だからね」


 でも、息はしている。今頃、私がこの父によって直に鞭打たれた分と、指示して鞭打たれた分の痛みを一身に受けて、気を失うことも叫ぶ事もできずに、自分で死んで楽になろうと気管を押さえながらも力が足りずにままならず、床をのたうち回っている。


 私の感想は、……醜い。それだけだった。


 私には鞭打たれても泣くな、騒ぐな、痛みは我慢しろ。傷が腫れて熱が出ても躾は緩めなかった。虐待していたのが明らかになった今、寸間も置かずに苦しんで転げ回っているのを見て、呆れた。父だった人に持っていた恐怖心など、どこかにいってしまったようだ。


 今はどうだろう、涙と鼻水を流し、荒い呼吸で、唾液まで垂らしてのたうち回っている。首を押さえていた手に鞭で打たれたような痕が浮かび上がる。


「これでも手加減したんだよ? 死んでしまわないように。君が受けた苦しみの5分の1くらいをちょっと返してあげただけなのにね。……次はお母さんと妹のどっちがいいかな? お母さんからにしようか」


 私の鞭打ちを指示したのは父に返ったが、母はどうなるのだろうか。


 私の中にあった恨みが、旦那様を止める声を止める。


 私は今、明確に、確実に、この人たちが嫌いだ。

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