エルフさん、狙われる
『エルフさん、総理大臣を目指す』の更新は、とにかく不定期でのんびりと進んでいます。
朝のニュース。
と言っても、私の住む『賢者の塔』にはテレビというものはない。
そもそも、電気や水道、ガスも通っていない。
全て魔法、そう、魔力で全てが補えるので、わざわざそのような無粋なものを引っ張る必要もない。
という事で、昨晩の襲撃事件の顛末を知るために、いつの間にか『賢者の庭』と呼ばれるようになっている私のテントからHTN社屋へと向かってみる。
「あの、アルカ・トラスですけど、何処かテレビのニュース見れる場所はないですか?」
「え? アルカさんの家はテレビはないのですか?」
「はい。電気などの……ええっと、ライフラインは全て魔法でゼロ円なので、アンテナ建てる必要もないですし……」
「そらでしたらロビーへどうぞ。うちの社長からは、アルカさんはHTNにフリーで入ってもらって構わないって言われていますから」
あ、そういえば、高橋さんから先日、guest passとか言うのを貰っていましたね。
「これで宜しいですか?」
空間収納からguest passを取り出して提示すると、受付のお嬢さんはにっこりと笑っている。
では、いざ、ロビーへ。
一般に公開されている一階ロビーでは無く、社員が使う大ロビーというのがあるそうで。
そこに向かってテレビを眺めていると、ちょうど朝のニュースが放送されている。
「……あれ? 昨日の銃撃事件は放送されていない? どうしたでしょうか?」
近くだ休んでいる社員に問いかけるが、如何やら映像が使えないらしい。
なんでも、『上からのお達し』とか言うものらしく、ことは政治的に重要な案件だそうで。
「成る程ねぇ。それじゃあ、近藤局長に新しい魔法のネタを放送できるか聞いてもらえるかな?」
「新しい魔法? それはどのようなものですか?」
「これは、報道関係者は喉から手が出るほど欲しいものよ?」
──ゴクッ
喉がなる音がしたかと思うと、若い社員は全力で社内を突っ走った。
その5分後には、私はいつも使わせてもらっている特設スタジオに案内された。
………
……
…
「アルカさん、昨日の事件の件については本当に申し訳ない。上からのお達しで、あの件はまだニュースで流さないようにと言われてね。映像も早朝にいきなり抑えられてしまったんだよ」
「と言うことは? ここにはもうあの映像データはないのですね?」
「そう言うこと。そんじゃ10時の特番で行きますか。昼まで待っていると他局がまたクレーム入れてきますからね」
──ON AIR
いつものように椅子に座って笑う私。
さて、映像がなくても何とかなるというのを、ここで皆さんにも知ってもらいましょう。
これ以上私に手を出すとどうなるか、どこの国なのか知りませんけれど、この放送でよく見てもらうことにします。
「本日は、アルカ・トラスさんの魔術講座です。それで、今日はどのような魔術ですか?」
『人の記憶を映像化します。例えば、何か犯罪を目撃した場合とか、犯人の顔を見たとか、そのようなときに、その人の見た光景を魔術によって呼び戻すことができます」
淡々と説明すると、私は大きめの水晶球を机の上に置く。そして静かに詠唱を始めると、水晶球に手を乗せる。
すると、水晶球には、昨日私が買い物に出ていた時の光景が浮かび上がる。
当然ながら私の視点であるけれど、はっきりと浮かび出している。
「こ、これはこれは……昨日の買い物はおにぎりと袋ラーメンでしたか」
「美味しいですよ? あのような保存食があるとダンジョン攻略の時も便利ですよね」
「いえいえ、私たちの世界にはダンジョンはありませんから。ちなみにこれは、大きめのモニターとかにも映し出すことはできるのですか?」
そりゃあもう。
水晶球を使ったのは、『透明な映像転送媒体』としてちょうど良かったから。
それ故に、大型モニターとやらにも転送はできるはず。
「後ろの大型モニターにも映せますよ。何でしたら音も再現しますか?」
「それは是非‼︎」
私がニイッと笑ったとき、奥で見ていた近藤局長も私が何をするのか理解したらしく、親指立ててサムズアップとか言う合図を送ってくれた。
「それではこちらをどうぞ‼︎」
モニターに浮かんだのは、先日の襲撃事件の映像。
しっかりと音声も全て入っている。
覆面姿の四人が、私の敷地内に侵入しようとしていた映像、そこから魔術による捕縛まで全て。
そして、どこかの国の言葉で何か呟いていた部分も、しっかりとボリュームを大きくして。
スタジオの奥では、近藤局長がお腹を抑えて笑いを堪えるのに必死。
高橋アナもようやく私が何をしたかったのか理解した。
「これは、何の映像です?」
「昨日の夜に、私の家に来た不審者ですね。どこの国の言葉かわからないのですが、このあと警察に捕まえてもらいましたよ。でも、今朝のニュースではどこも取り上げてくれないのです」
「どこの国の言葉でしょうね。アルカさん、その外国語の部分を再生できますか?」
「そりゃあもう‼︎」
にこやかに再生しましたよ。
目の前の小さなモニターでは、既に翻訳を終わらせたスタッフが字幕までつけてくれていますからもう大変。
『この件は、我が大使館を通じて抗議させてもらう。異世界の技術は日本ではなく、我々◯◯◯◯が得るべきであるからな‼︎』
◯◯◯◯の部分は翻訳でも国名は伏せたみたいですね。あの奇妙な漢字とも何ともつかない文字は、どこの国なのでしょう?
「これが、今日アルカさんが発表したかった魔法ですか」
「ええ。『視界転送』という魔法です。これは『魔法の眼』という魔法と併用すると、かのように遊べます」
──シュン
一瞬で、私の横に直径10cm程の大きさの目玉が浮かび上がる。
これをスタジオ内に自由に飛ばし、その目から見た光景を大型モニターに転送する。
「これは、ドローンですか。魔法でドローンを作り出すことができるのですね?」
「ドローン……ああ、そうね。でも違う点があって、『魔法の眼』にさまざまな魔法を施すことで、いろいろなことができるのです。あと、『魔法の眼』は魔法媒体で実態はあって無きが如し。つまり……」
──ス〜ッ
スタジオの壁に向かって飛んでいく『魔法の眼』。それは真っ直ぐに壁を透過して擦り抜けると、隣のスタジオの映像を映し出すことができた。
「……う、うわぁ……」
「そうなるよね。言葉がなくなるよね。因みに私の『魔法の眼』の最大射程は、大陸一つを横断できるレベル。しかも、追跡効果もあるのよ」
「追跡? それはどのように?」
「あ、私って、普段から人の魔力波長を見ることができてね。こっちの世界で言うなら指紋? 全ての人は異なる魔力波長を持っているのよ。その一つを指定して、『魔法の眼』に追跡をお願いするとね……」
ゆっくりと『魔法の眼』がスタジオの外に出る。
そしてHTN本社から外に出ると、一直線に中央区へと飛んでいった。
「あれは、何を追いかけているのですか?」
「昨日の襲撃者の一人。多分、警察署にいるのかな〜、何処でしょうね」
そう笑っていると、目の前にしゃがんでいるADさんが、カンニングペーパーを取り出した。
『当局から連絡あり、放送を中止します』
了解です。
「あ、もう時間ですか。それでは、この続きはまだ次回と言うことで……」
「はい、大変貴重なお時間を有難うございました、それでは次回をお楽しみに‼︎」
──フッ
カメラが止まる。
そしてスタッフ全員が大爆笑。
「近藤局長、やり過ぎましたかね?」
「いえいえ、私たちは別に何もしていませんからね。アルカさんの魔法の紹介をしていただけですから。これで関係各者も誰を相手に喧嘩を仕掛けたのか理解できるでしょうから。それでほ、あとは総務課でギャラを受け取ってくださいね、お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございます」
さて、今日は辛い袋ラーメンを買ってきましょう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……成る程ねぇ。これは一本取られたね」
北海道庁会議室では、行方知事を始めとする関係者が集まって会議を行なっていた。
「知事、笑い事ではありませんよ? これは由々しき事態です。一刻も早く、あのアルカを逮捕しなくては」
「逮捕? 何故?」
「あの女を捕らえるために、各国の特殊部隊が動いているのですぞ、他国の手に渡るぐらいなら、我が日本国で保護するのが当然では?」
「でも、今、逮捕って言ったよね? どう言う罪状で? あの方は何も罪を犯していないのに逮捕とはねぇ……」
事実、先日の某国によるアルカ捕獲作戦は完全に失敗し、あまつさえ襲撃時の映像と音声が公開されてしまった。
外交筋からは、事を荒立てる必要がないと襲撃という事実をもみ消すように連絡もあった。
まあ、土方知事としても、妥協点として先日の襲撃事件についての『放送局が所有する映像』を流さない事、ニュースとして取り上げないようにという通達は行った。
それ故に、アルカが自分の映像を実像化したものについてはどうこうする気はない。
「公安を動かすとかは? 国家騒乱罪、いや、人々を魔術などというまやかしで扇動しているので、そっちの線でも行けます、すぐに決断をお願いします」
「機動隊も動かせます、必要なら私が直接出向いても構いません」
「それでしたら、私が‼︎」
次々とアルカと接触する事を望む声が上がる。
彼らの心の中には、『そして可能ならば、我が派閥に招き入れて』『我がグループで保護する事で、利益を莫大に生み出すこともできる』というのが見え見えである。
「よし、今回のアルカさんの件については、何もなかった。私たちはやる事をやったので、あとはアルカさんがやらかした事実。それが法に触れるものではないので静観する、以上だ‼︎」
「「「「「 何ですと‼︎ 」」」」」
集まった人々の絶叫のような声の中、会議は終結する。
急ぎ手を回さないと、日本国政府もそろそろ本腰を入れて動き出すだろう。
あの『魔法の眼』は、諜報機関にとっては喉から手が出るほど欲しいのだろうから。
「それじゃあ、明日にでもいってきますか。日本国国民である、アルカ・トラスさんに説明にね」
知事室に届けられた封筒。
それには、アルカ・トラスの日本国国籍修得が終わったという書類が収められていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




