十歳になりました
あれから四年が過ぎ、僕は十歳になっていた。
「ソーマ様!起きて下さいにゃ!朝ですにゃ!今日は冒険者ギルドに行ってクエストを受ける予定でしたにゃ!遅れますにゃ!」
「んぅ〜、おはよう...ソニア。今日も朝から元気だね」
「はいにゃ!旦那様も奥様もユリナ様も起きてますにゃ!お寝坊さんはソーマ様だけにゃ!」
ユリナは王都に行った翌年生まれた僕の妹で今は三歳だ。父様と母様は僕が留守の間に仲良くしていたらしいよ。ユリナは僕を見つけるとにぃ様、にぃ様と言っていつも後をついてくる。亜麻色の細くサラサラな髪をして、目がまんまるの可愛い妹だ。将来はかなりの美人さん間違いなしだと思う。決してシスコンでは無い!決してシスコンでは無いです。
大事なので二回言いました。
「そっ、そうなの?昨日はちょっと頑張り過ぎだからね。寝るのが遅かったんだ...」
「また、鍛治と付与術の勉強かにゃ?程々にしないとダメにゃよ!」
「はいはい、これからは気をつけるよ」
僕は王都から帰って来てから装備のメンテに鍛治屋のドルーフ爺とベルーナ婆ちゃんのところへいったのだか、元々僕は物作りに興味があったので二人に弟子入りした。そして今は前世の記憶を頼りにドワーフ爺達と色々作っているところだ。
「そうにゃ!ソーマ様がしっかりしてくれないと、私が師匠にダメ出しされるにゃよ。頼みますのにゃ」
ソニアはあの後ニーナさんに弟子入りし、メキメキとメイドスキルを習得し、僕付きのメイドとしてしっかり成長していた。
「うん。わかったよ、いつもありがとうね」
「なっ!なんだにゃ!いきなり何をいってるにゃ!ソーマ様付きとして当たり前の事だにゃ!そっ、それよりも、はっ、早く起きるだにゃ!」
ソニアは布団を僕から乱暴にめくり、真っ赤な顔でプンスカしている。でも僕には見えていた、ソニアの尻尾が激しく左右に揺れている事を。ネコ科も嬉しいとしっぽが揺れるらしい...。
「んじゃ、今日も頑張るかな」
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..
...
僕は一人で冒険者ギルドにやってきた。
"カラン♪"とギルドの扉が開く。
僕が冒険者ギルドに入ると一瞬、冒険者達に視線を向けられたがすぐに視線を逸らされた。
冒険者達はこそこそと話をし始める。
「(ボソッ)なぁ、あれって【瞬閃】だろ?」
「(ボソッ)あぁ。絶対に目を合わせるなよ、殺られるぞ。目が合った瞬間に首が体からはなれてるってよ...」
「(ボソッ)えっ?あれは【魔極】だろ?この前、難癖つけた魔法使いの阿保が見た事の無い魔法であっと言う間に失神させられたっていうぜ」
「(ボソッ)ど、どっちでもいいが!絶対に絡むなよ!俺はまだ死にたくねぇーよ」
「「「(おぅ...)」」」
僕は居た堪れなくなってすぐに受付へ向かう。すると、まるで海が割れるかの様に受付まで一本道が出来た。
何でこうなった...。
王都から戻った僕は次の日に父様と母様に王都で冒険者になったと告げた。父様と母様は"やっぱりな"と言う感じでだった。
「ソーマ、ブルーリーフには狩りに丁度良い森や湖があるんだ。ダンジョンもあるんだぞ」
「そうだわ!ソーマ。あなたこれからは魔物を狩って来て頂戴!美味しいのも沢山いるのよね〜♪」
そう言って両親は魔物狩りを僕に推奨してきたんだった。
そうして僕は冒険者ギルドにくるけど様になったのだけど、冒険者ギルドにくる子供は当然の様に絡まれる。
その都度、僕は丁寧にお引き取り願ったのだけど、いつの頃からか僕にちょっかいを出す冒険者は居なくなり、そして皆僕を避ける様になっていた。凄く悲しい...。
でも、ごく稀に初めて見る冒険者に絡まれた時はちょっと、ちょっとだけね、嬉しくなって、いつもより丁寧にお引き取り願うんだ。そんな時の僕は嬉しくて微笑みを浮かべているらしいんだけど、それが逆に怖いんだって。
でも僕の感覚では、ブルーリーフ領の冒険者ギルドを拠点にしている冒険者って皆な結構お高めの良い装備をしているが弱めな人が多いかな...。
まぁ、ブルーリーフ領の近場は弱い魔物しかいないからしょうがないか。
数で稼いでいるんだろうね、きっと。
高ランクの冒険者はもっと強い魔物の生息域の近場を拠点にするんだろうし。
そんな事を思いながら受付に行って、僕の受付担当のシャナさんに挨拶をする。
シャナさんは仕事できます!って感じの美人さんで、冒険者ギルドに通ってしばらくしたら、ギルドマスターのウォレスさんに、僕の専属受付になると言って紹介された。
ちなみにギルドマスターのウォレスさんは父様や母様と昔パーティを組んでいた仲間で、父様に聞いて僕の事は知っていたらしい。
「シャナさん、おはよう御座います。今日はクエストを受けたいんだけど何かオススメはありますか?」
「おはよう御座います、ソーマ様。いつも有り難う御座います。本日ソーマ様にお願いしたいクエストは...あっ、これなんかどうでしょう。深淵の森にグランディスドラゴンが出現したらしいのです。」
「あっ、あの大きなトカゲですね。良いですよ、美味しいですし、我が家の皆も大好物ですから」
「...。では受付させて頂きます。宜しくお願いします」
「はーい。行ってきまーす。」
そうして僕はトカゲ退治に深淵の森へ出かけた。
「おっ、おい!きっ、聞いたか?深淵の森にグランディスドラゴンが出現したみたいだな...」
「おっ、おう!グランディスドラゴンって言ったら危険度Sランクじゃなかったか?」
「いやっ!そもそも深淵の森って、この国最大の秘境だよな?」
「そうだぜ!深淵の森の奥には未開の土地が広がっていて、誰もまだ全容が分からないところだろ?」
「そうだよな...。何でも、噂じゃ此方と桁違いの魔物や邪神達の眷属がウジャウジャいるらしぞ。大昔の勇者ゃ大賢者だって、見てすぐに引き返したらしいしな」
「その為に、ブルーリーフ家が此処を拝領しているし、俺らみたいなBランク以上のパーティが集まる土地なんだよな。なんて言ってもここの魔物は最低でもCランク以上、平均でAマイナークラスだから単価高くて稼げるからよ...」
「まっ、まずはよ!グランディスドラゴンだろ!良いのか?俺達、こんなのんびりしていて...。普通、ギルド総出でレイドを組んで対処するよな?」
「それでも二割ぐらいのパーティが壊滅するぐらいだろ?それを幾らあの【瞬閃】だって無理じゃねーの?あいつソロだろ?」
「でっ、でもよ!あのシャナさんが当たり前の様に依頼していたぜ?」
「「そうだよなぁ...。」」
そんな冒険者達のざわめきをシャナも内心ドキドキしながらポーカーフェイスを崩さぬ様に聞いていた。
「本当ならギルド総出で対処してもかなり危険度が高い案件なのですが、ブルーリーフ家とギルドマスターから対処は特例でソーマ様に一任すべしとの命令です...。まぁ、ソーマ様なら大丈夫でしょうが。
ただ不思議なんですよね?ソーマ様がブルーリーフ領で魔物狩りを始めて四年が立ちますが、何度レベルを測定してもレベル249で止まってしまってるんですよね。その為、冒険者ランクもBランクで止まってますし。でも、AランクやSランクの冒険者に絡まれてもあっさり撃退しちゃうし、なぜでしょうか...。本当に不思議です...」
そんな事を言われているとも知らずにソーマは散歩に出かけるかの様に深淵の森へと向かうのだった。