初クエスト
真っ青な晴天の午後、僕は冒険者ギルドに来ていた。ギルド内は閑散としている。僕は先ずクエストボードを見てみたが余りクエストが無い。他の冒険者が既に受注を受けてる様だ。しょうがない、受付に行って聞いてみよう。
「こんにちは、アリアさん。何か良いクエストはありますか?出来れば討伐系で」
「あ、ソーマくん。こんにちは。えーと、討伐系のクエストね。あっ、これなんかはどうかな?」
クエスト一覧らしきファイルを見ながら"クレイジーボア討伐"を薦めてきた。クレイジーボアは猪そのものだ。森にいる魔物で森沿いの街道を歩いている行商人が通りかかると突進してくるらしく常設で討伐対象になっていた。
不思議な事にファイルの中クレイジーボアのイラストを見るとなんだか見た事がある感じがした。
ん〜。どっかで...。あっ!『ナニカ』だ!
このシルエットはそう!前世の僕を襲ってきた『ナニカ』の内の一体だ。
「アリアさん!他の魔物のイラストも見せて!」
僕はアリアさんが見ているファイルを奪い、パラパラとページをめくる。
やっぱり!前世で見た事のあるシルエットに重なる魔物が多数載っていた。
中にはAランク討伐推奨の魔物もいた。
「あっ!ソーマくん!だっ、駄目だよ!ギルドの秘匿情報も載ってるんだから!」
アリアさんが慌てて僕から奪い返した。
「ソーマくん。駄目だよ。勝手に見たら。今回は多目に見るけど、本当は懲罰ものだよ。」
園児を叱る保育士の様な視線を向けている。
「ご、ごめんなさい...。好奇心に抗えなくて...。見ちゃった。」
叱られた仔犬の様に上目遣いで謝る。
「かっ、可愛い!可愛いは正義...。つ、次からは気をつけてね」
そう言ってアリアさんは許してくれた。
「そっ、そういえばソーマくん、君今のレベルはいくつ?」
ん?今なんて言いました?
「レベルってなぁに?」
「えっ?レベルを知らないの?レベルって言うのはね、魔物を倒すと魔物の魔素が吸収されるわよね。そして吸収された魔素が一定量溜まるとレベルが上がるの。レベルが上がると自信の能力も上がっていくのよ。ただ、上がり方は個人の資質に寄って違って、体力が上がり易かったり、魔力が上がり易かったりするわ。こればかりは個人の感覚が強いから詳しくは分からないんだけど、レベルだけ魔道具で確認出来るのよ、だからレベルが分かればだいたいの強さの指標になる訳」
そうなんだ...。知らなかった。
レベルって魔素の器の大きさを数値化したものみたいだな。
僕は感覚的に人の魔素の器の大きさを知る事が出来るし、父様や母様の魔素の器が僕より大き過ぎて、大人は皆んな大きいんだろうと父様と母様位しか知ろうとしなかった。余り気にした事なかったな。そういえば、母様の魔素の器は父様よりかなり大きかった様な...我が家のヒエラルキーは母様が頂点らしい...。僕は今体育館位だからまだまだだね。
ん?アリアさんはどうなんだろう?ちょっと気になって感じて見るとバスタブ位だった。
ん〜、極端に魔素の器が小さいから安全なギルドの受付を仕事にしてるんだろうな。
でも、数値化出来るなら一度見てみたいな。
「アリアさん、レベルがわかる魔道具ってどこにあるの?」
「だいたいの魔道具屋に置いてあるわよ、大体小金貨2枚位するけどね。でもレベルによっては冒険者ランクにも影響する場合もあるから一度見てみたらいいんじゃないかな。」
「うん、わかった。一度確認してみるね。それじゃクレージーボアの討伐をして魔道具買いに行ってくるから」
「そう。気をつけていくのよ」
「はーい」
.
..
...
王都を出る時、冒険者用の門を抜け様としたが、最初、門番のおじさんが6歳の僕を迷子だと思って少し騒ぎになってしまった。
僕はギルドカードを提示したが6歳児がCランクのカードを持っている事が不自然だった様で、結局、冒険者ギルドからアリアさんが駆けつけてくれて説明し証明してくれた。最後に門番さんにグリーンリーフを名乗るとかなり青ざめた表情で、"この事はお母様には内密に"と懇願された。少し気の毒になる。何か母様絡みでトラウトを持っているのだろうか...。
そして今僕は王都の西の森へ来ている。
森はまだ人の手が入っていない深い森で基本的に薄暗くジメッとしている。僕は獣道を見つけて歩きクレージーボアを探していた。
「えーと、クレージーボアは猪に似てるから泥浴びが好きかも知れない。水場近くにいる可能性があるかな?」
僕は川に向かう獣道を探し出して気配を探りながらしばらく歩くと、
「いた。やっぱり水辺の水溜りで泥浴びしてる。結構大きいな」
体長2mぐらいはあろうか、魔法で焼くか刀で斬るか。ここは、折角覚えた瞬歩を試して見ますか。
泥浴びをしているクレージーボアの正面に小刀に手をかけつつ相対した。
僕に気付いたクレージーボアは気持ちの良い遊びを邪魔されたからか鼻息を荒くし、周りの木枝も気にせず突進して来た。''フッ!フッ!フギィー!バキバキバキ!"
突進してくるクレージーボアを冷静に観察し、瞬歩を仕掛ける。
「瞬歩」
瞬歩により、あっという間に間合いを詰めてクレージーボアの横へとならび、小刀を鞘走りさせ加速しながら居合一閃で首を斬りつけた。
「ビュッ!スッー。」
クレージーボアは首がズレるが、斬られた感覚がないのか、そのまま僕の横を通り過ぎて太い大樹に激突した。首の無いクレージーボアはそのまま動かなくなり、魔素が抜けて僕に吸収された。
瞬歩凄い!全然魔物に攻撃されずに討伐が出来る!瞬歩と居合のコンボは気持ちいい!
でも死体を見ると身体に突進で樹々に擦れたのかところどころ小傷が付いていた。
「あー。これじゃ良い値がつかないじゃん」
僕は残念に思いながら異次元倉庫にしまい込んだ。
巨体がこの森で暴れたら樹々の枝で獲物の
皮膚に傷が出来るしなぁ。
んー、どうしよう。買取で高く買い取って貰いたいし、何かいい方法はと考えていた。
なかなか良いアイデアが浮かば無いので、深呼吸をする。
ん?僕は今深呼吸したよね?やはりこの世界も生き物は呼吸をしてるよね...。それじゃ、これは有効だよね?
僕は次のクレージーボアを見つけた。さっきより一回り大きい。そしてやつの周辺を魔力で囲む。良し、やつは泥遊びに夢中で気がついていない。そして囲んだ空間から魔力のフィルターで酸素のみを少しづつ抜き始めた。だんだん酸素を抜いていくとそれまで泥遊びをしていたクレージーボアが何回も欠伸をする。更に抜いていくと段々ボーッとしてきたのか足元がフラつき始め、急に"どさっ"と横倒しに倒れた。
倒れたクレージーボアから魔素が抜け僕へと吸収される。
僕はクレージーボアに近づき異次元倉庫へと収納した。
「やったー、成功!」
こうしてクレージーボアを無傷で討伐できた。買取価格が楽しみだね。
その後も森を彷徨い魔物を見つけては無酸素魔法で
で討伐した。
段々と日が落ちてきたのでそろそろ帰ろう。
王都の門に近づくと門番のおじさんが心配してくれていた様で喜んでくれた。
「あっ!若様。無事に帰ってきたみたいですな。さすがに獲物は取れませんでしたか。まぁ命があるだけマシでしょう。また頑張ってください」
「ありがとう、門番のおじさん。大丈夫だよ、なかなかの収穫だったよ」
「あはは、若様も冗談が上手い。さては見えない位の獲物ですな。ちなみに私の名前はバッツと言います。こう見えてもまだ25歳ですよ。おじさんはまだ早いんじゃないかと...。」
「そっか。おじ・・お兄さんはバッツさんだね。よろしくね。お昼の事は母様には内緒ね」
「あっ!お母様にだけはくれぐれも内緒で」
バッツさん、また顔色が青ざめ始めた。意地悪しすぎたかな。
「バッツさん、これ。心配かけたみたいだから、門番のお仲間と食べてね。僕からの差し入れと言う事は内緒ね。これで僕たちは秘密を持ち合う仲間だよ」
僕は異次元倉庫から首を斬りつけ倒したクレージーボアを出し、バッツさんにあげた。
「なっ!なぁにぃぃ!どっから出したんですか!しかもクレージーボアだと!なんだこれ首を一太刀じゃないですか!」
かなり引き気味のバッツさんだった。
「さっ、さすがはグリーンリーフ家の御曹司と言う事か...。お気遣いありがとうございます。ありがたく皆んなと頂きます。クレージーボアの焼肉は上手いですから皆んな喜びます」
「うん!バッツさん。沢山食べね」
そうして僕は冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは今日のクエストを終えた冒険者達でごった返していてめちゃ混みだったので明日またくる事にして、その日は家へ帰った。
異次元倉庫は時間の経過がないので獲物も腐る心配がなくて楽ちんだね。
家に帰った僕はグレイさんとニーナさんに今日の出来事を教えて楽しく会話した。無酸素魔法のところでニーナさんがかなり食い付きを見せるので明日の討伐クエストは一緒に行く事にした。
「若様、私、明日が楽しみです。デートみたいですね」
なんて言うから僕は少し恥ずかしくなって
「ぼっ、僕。疲れたから、もう寝るね」
と言って部屋に戻る事にした。
あー疲れた。また明日頑張ろ!
...あっ魔道具屋に行くの忘れてた...。