修業その一
公王様にせっかく王都に呼ばれて来たのにすぐ帰るのはもったいないと、これから一か月程は王都に滞在する事にした。
剣の師匠になってくれたグレイさんにもっと稽古をつけて貰いたいし、冒険者にもなったからクエストも受けたいしね。そしてイリスが城を抜け出してくるだろうから...。
まぁしばらくは午前は剣と魔法の稽古をして午後はクエストをこなしてみようかな。
さて、今日はグレイさんに稽古をつけてもらおっか。午後はギルドへ行ってみよう。
「グレイさんは居る?」
独り言の様に呟くと
「はい、若様。此方に。」
グレイさんは何処からともなく僕の背後に現れる。
「今日の午前中、剣の稽古をしてもらえる?」
「わかりました。」
「僕のこの前の稽古でグレイさんがやった"ビュッ"と一瞬で懐に入り込む踏み込みを身につけたいんだけど、覚えれるかな?」
「瞬歩ですね。若様ならすぐお出来になると思います。何なら残歩迄進められます」
「なになに?残歩って!凄い気になる!」
「瞬歩の進化系で連続で瞬歩を重ね、残像を残す歩法です。これは残像にて敵をかく乱し、回避し易くしたりフェイントにもなりますので急所を狙い易くもなります。若様の武器と相性が宜しいでしょう」
「そうなんだ!凄い楽しみだよ、グレイさん。
すぐ稽古したい!」
「それでは早速お稽古しましょう」
「はい!よろしくお願いします。師匠!」
そして僕はグレイさんと稽古を始めた。
基本の瞬歩は先ず相手の意識の隙間を見極めて、
僕への意識が途切れた瞬間に間合いを詰める事らしい。意識の隙間とは呼吸の繋ぎ目や緊張の途切れ、瞬きなどの動作や集中の切れ間の事。
そうした意識の隙間に動けば相手に認識されないので相手からすると急に目の前に現れた様に感じるらしい。
残歩は瞬歩を繰り返す中で一瞬の間に相手にわざと認識させる。すると相手の意識がその場に残るので
僕が複数いる様な錯覚をさせるものらしい。
所謂、分身の術だね。
更に上位になるとそもそも相手に認識され無くなるらしい。これは無影と言うんだって。
普段グレイさんが急に現れるのは無影を使っているからかな?
最初の一歩の瞬歩から習いますか。
「若様、瞬歩とは相手を良く観察する事が重要です。相手の意識と無意識、動作や感情をよく見て感じて下さい。さすれば習得できます」
「グレイさん、理屈はわかるんだけど、グレイさんみたいな人だと隙がないっていうか、仕掛ける事が出来ないんだけど」
「それで良いのです。今若様は瞬歩を仕掛けられない事にお気付きになられております。その後はご自身の動きにより、相手ね意識をコントロールして隙間を作るので"ビュッ"す!うっ!」
僕はグレイさんが説明に意識が行っている事を感じ、踏み込んで首筋に模擬刀を寄せた。
「おっ...お見事...。」
やったね!初めてグレイさんから一本取れた。
「うん!こういう事でしょ!」
「左様にございます。さすが若様、もう習得されるとは。それでは次です」
そうして僕は2体の残像を出せる迄になったか、
グレイさんには通用しなかった。
だって本気も本気、かなりマジだったもん...。
そして午前中の稽古も終わった。
それじゃ午後はクエストを受けに行きますか。