冒険者と魔物
あれから数日。
今僕は、イリスと共に馬車に揺られている。
お共に父様がつけてくれたのは、クールビューティーなメイドのニーナさんと陽気な御者のダルさんの二人、それと護衛のB級冒険者パーティー《風雷》の二人だ。
《風雷》の二人は馬車に乗らず、馬で並走している。二人は夫婦らしく旦那さんはポーターさんと言う魔導士でいつもニコニコしている。奥さんはキャリーさんと言う軽剣士だ。ビキニアーマーを装備していて目のやり場に困るんだけど...。
「姫様、若様。大丈夫かい?馬車の長旅で具合悪くなってないかい?もう少ししたら休憩だからね。」
キャリーさんが気にかけてくれる。
「大丈夫だよ、キャリーさん。それと僕の事は、ソーマで良いよ。キャリーさんもポーターさんも気にしてくれてありがとう。」
ニコッと笑いかけるとキャリーさんが可愛いっ!て言いうと、こういう子が欲しいってポーターさんへ言っている。
「私の事もイリスで良いわよ。」
「さっ、さすがにそれは...。」
冷や汗をかきながらポーターさんが慌てている。
さすがに姫君の事を愛称で呼ぶのは厳しいらしい。まぁ姫様と言うか女神様だししょうがないよ。イリスさん...。
しばらく行くと、休憩場所に到着した。
「お疲れさん。宿がある村まで後半分くらいだから、少し休んだら出発するよ。それまでしっかりと休みなよ。」
キャリーさんがみんなへと声をかける。
「ふぅ。ちょっとお尻が痛くなったね。イリスは平気?」
日陰で水を渡す。
「うん。平気だよ。天気も良いし、道も整ってるから。」
僕も水を飲み、風を感じる。
そして、このどこまでも続く雄大な大地を眺める。この世界には、イリノイヤ公国のある大陸の他に六大陸があり、色んな種族がいるらしい。まだ見ぬ大地に想いを馳せる。
「若様、そろそろ出発します。馬車へお乗りください。」
ニーナさんが僕達を呼ぶ。
「ちょっとお待ち下さい。」
ポーターさんが、少し緊張しながら辺りを見回す。そしてキャリーさんへ視線を向けると、お互いにうなずき合う。
「姫様、ソーマくん。どうやらかなりの数の魔物が急激に近づいてきているようです。この数では逃げても囲まれる恐れがあるので、僕らで迎え撃ちます。此処らは余り強い魔物は居ないはずですが、お二人は馬車の中へお戻り下さい。」
そう言って、ポーターさんはキャリーさんと戦闘の準備を始める。僕達は馬車へと急ぎ戻る。
「来た!あんた、いくよ!」
いち早く魔物を見つけたキャリーさんが走り出す。わかっていたかの様にポーターさんがすぐさま補助魔法をキャリーさんにかける。するとキャリーさんがさらに加速する。
そして、キャリーさんの向かう行先に砂埃が立ち始めた。
すぐ様、ポーターさんが詠唱を始める。
「暗天より墜つる光は数多を滅す、降り注げ『豪雷』!」
「ドゥーン!バリィ!バリィッ!」
キャリーさんが接敵する直前、数多の槍の様な雷が砂埃に降り注いだ。その後すぐにキャリーさんが突っ込んだ。
ポーターさんはその後もサンダーアローやエアロナイフを放ち魔物達を倒していく。そんな中でもキャリーさんのフォローも忘れていない。キャリーさんもポーターさんのフォローを信じ魔物の群れの中を動き回り切り捨てていく。
「ちぃ!数が多すぎよ!」
「焦るな!後少しのはずだ!」
かなりの数を倒しても、なかなか数が減らない魔物に二人は少し焦りを感じているようだ、少しづつ馬車から離れていく。
そんな時、馬車の上空から飛来する大きい魔物の影が見えた。僕はすぐさま馬車の屋根に飛び乗り腰の刀を抜き放つ。
魔物を見ても余り恐怖も感じず、緊張もしなかった。そして魔物を見上げ集中する。
...ゆっくりだった。上空から迫る魔物はゆるやかな動作で爪を使い僕を引っ掻こうとしているらしい。余りの遅さに待ち切れず僕は跳び、空いている首を薙いだ...。
「ビュッ!!、スーッ。」
ん?手ごたえがない、確かに首を薙いだ筈だ。
何もせず横を擦り抜ける魔物。
「ドォゴォーン!!」
そして魔物は地面に衝突した。
小さなクレーターの中で首の無い魔物は少しの間、暴れた後、静かになる。
動かなくなった魔物から魔素が溢れてでて僕の中に吸収された。
胸が少し熱くなる。僕の中の魔素の器が少し大きくなったようだ。
そして辺りを警戒しているとキャリーさん達が魔物を倒し終えて戻ってきた。
「ソーマくん!ごめん!数が多すぎて少し離れすぎた。ん?」
首の無い魔物をみつめる。
「えっ?なんで此処に首の無いワイバーンがいるの?なっ?なんで?」
唖然として口がひらきっぱなしの《風雷》の二人...。
「あっ!さっき馬車の上空から急に降りてきたから危ないと思って首斬っといたよ。」
さらに困惑する二人???
「斬っておいたって、ソーマくんが?だって君、まだ六歳のはずよね??」
「うん。でもこの魔物、すごくゆっくり動いてたから、こうやって刀で「ビュッ。」って首切ったよ。手ごたえなかったから斬れたかわかんなかったけど、斬れてて良かった♪」
ニコニコしながら話すと二人は更に空いた口が大きくなる。
「だっ、だって!ワイバーンだよ?ワイバーンって言ったらワイバーンだよ??A級でも単独討伐は面倒なんだよ???そっ、それを六歳児が一振りで?首を斬った...?」
口を開けて呆ける二人は二人共仲良く心が旅行中...。
しばらくして正気を取り戻した二人はというと、僕がワイバーンの死体を異次元倉庫に入れるとまた旅行に行っちゃった...。
「うん!さすが《剣聖》と《魔導姫》の息子だね!ソーマくんは規格外!そう思う事にする!そうでも考えないとやってらんないし...。でも、もうちょっと大きくなる迄は余り力を周りに知られないようにね。色んな悪い人がいるからね。」
ポーターさんに言われました。
でも、父様も母様もこの位余裕の筈だし、だれでも出来るんじゃないの?解せぬ...。
道すがら聞いたけど、さっきの魔物の群れは僕の切ったワイバーンに追いかけられていたみたい。たまたま逃げた先に僕達がいたみたいだ。ワイバーンがいなくなって群れは散り散りになって森へ逃げていったんだって。