第4話「 慣れない日常 」
あれから、結局ジャンヌはうちに留まる事となった。
”戻る方法を探す”と去ろうとした彼女を引き留めたのは自分だった。何故か行こうとする彼女の背を見て寂しさを覚えたからか、衝動的に止めてしまった。ハッとしてから後悔したが、彼女が目に映る場所にいる事にどことなく安堵を覚えている自分がいて少し頭を抱えた。やはり何度考えても目の前のジャンヌが結局幻覚だと自分の頭は認めないらしいから考えるのをやめた。
どうして彼女を引き留めたのかを思って、それも疲れそうだから思考を放棄した。大体彼女はどこに戻ると言うのだろうか、とうの昔に死んだ存在のくせに。
いや、
やっぱり考えるのをやめよう。
「おかえりなさい」
「……ただいま、」
自分の部屋のノブを捻って中に入れば、微笑む彼女に必死に無表情を保って言葉を返す。
彼女が現れてから1週間。ジャンヌがいる事に慣れを感じ始めたけれど、自分は相変わらずどこか気まずい感覚は拭えなかった。そのせいか、ジャンヌがいつも通り平然としているのが少し腹が立つ。
自分の帰りを迎える彼女、昔であっても有り得なかった事だろう。どちらかというといつも押し掛けてきたのは彼女の方だったし……いや、妄想に浸るのはやめようか。
ジャンヌの事になると勝手にグルグルとまわる思考回路を無理矢理停止させて、持っていたコンビニ袋を彼女に差し出した。
「ん」
「ありがとうございます」
渡したのはコンビニ弁当。食べなくとも空腹感等は感じないらしいが何も食べさせないのは何となく罪悪感が浮かんだため1日2食程度働き先で自腹を切って弁当を買ってきている。時たま優しい先輩が持っていけという時はこっそり貰った廃棄弁当だったりもする。聖女にそんな物を食べさせるのは申し訳ないが如何せんこちらも金銭不足は否めない。勘弁して欲しい。まぁ彼女はそれを聞いても平然と”腐ってもいないし食べられる”と、”おいしい”と気にしていなかったが、いやまぁ、自分の罪悪感には目を瞑ろう。
そもそも俺以外の人には彼女は見えないが、色々と物を触ったり動かしたりは出来るらしい、食べたり飲んだりも。人に触れる事も……少なくとも俺とは握手できた。
袋から弁当を取り出して食べ始める彼女を横目にパソコンの電源を入れた。
起動待ちの最中、ふと思う。彼女はこうして平然としているが、そういえばこの一週間この部屋に閉じ込めているも同然だと。外に出るなと言ったわけでも勿論強制したわけでもないが、この部屋から出ている姿を見たことが無い。俺がいないうちに出てるのか?……排泄や睡眠も必要ない様だとは言っていたが、1箇所にずっと居続けるのは辛くはないのだろうか。
「…………」
「?どうしたのですか?」
「え、あ…い、いや……」
つい振り返って彼女の様子を見つめてしまい、それに当然気付いたジャンヌに首を傾げられた。
思わず歯切れ悪く”なんでもない”と目を逸らして、どうしたらいいのかわからなくなった。
単刀直入に言えばいいと思うだろうがそれはなんか癪だった。どうしてかって?知るか。なんだか俺が彼女を気遣っているとでも思われたら、なんか、そうだ、うん。負けたみたいな、そんな気がして。
”子供かよ”なんて言うな。言わないでくれ。自分でもそう思うから。
でも何も言わないのも、何もしないのもまた罪悪感が渦巻きそうで。
結局
「、なぁ、そ、の…散歩でも、行くか……。」
「え……?」
「…………こんな時間だけど」
掻き消えそうな言葉を吐き出すと同時に、パソコンの起動音が鳴った。
あと、ジャンヌのほっぺに米粒がついてる。