プロローグ「 夢 」
俺は、暗闇の中にいた。
目を開いても、映るのはただの黒。
何も無い、何も見えない。
無重力の中に放り投げられているように浮いていて。
けれど何も無い冷たいそこは酷く恐怖を掻き立てる。
呆然と、何も出来ずにその暗闇の一点を見つめていると唐突に、前触れもなく光が差し込んだ。
その光を視界に入れて はた と気付く。
―――これは、いつもの”夢”だと―――
そう気付けば恐怖はどこかへ引っ込んで、なにをする訳でもなく、いつもの様にその光を酷く眩しく感じながらも見つめる。
その先もいつもと一緒だ。
光の中に、キレイな女がいるんだ。
とても綺麗なブロンドの髪を靡かせて、
優しい笑みを浮かべて、
俺に手を差し出すんだ。
「_____」
そうして、俺の名前を呼ぶ。
その言葉は聞き取れない。
女らしい澄んだ声で確かに俺を呼んでいる。俺の名前を。
それはわかるのに、聞き取れない。どうしても、わからない。
自分の名前だと言うのに。
ずっとずっと、ずぅっと、俺は手を取ろうともしないのに、手を差し出し続けるんだ。
優しい、キレイな微笑みをこちらに向け続けるんだ。
そうしてそこに、
いてくれる……
その女、彼女こそ、聖女と呼ばれた、オルレアンの乙女。
――――――ジャンヌ・ダルク―――――