祝福の儀
とりあえず休憩小屋から出て、辺りを見渡すが‥やはり祠らしきものは見当たらない。湖は視界に入りきらないほどでかい。もしかして、見えないが休憩小屋の対極に位置しているのだろうか?
「休憩小屋の近くに立っていればいいのに‥」
誰かに聞かれてはいけないであろう愚痴をこぼして、この巨大な湖の沿岸を歩き始めることにした。今の気持ちは自分が祝福を受け将来のことを想像し、ワクワクする気持ちが大半を占める中、不謹慎ながら早く終わらせて寝たいという気持ちが少々といったとこだろうか。
「そういえば、祝福の儀は一体何をすればいいのかな?聞くの忘れてたよ‥」
早く行きたいという気持ちが先行しすぎて何をするのかを村長から聞き忘れていた。手を合わせて祈ればいいのだろうか?僕にできるのはせいぜいそれくらいしか無い。
「それにしても、ここは何かとても寂しいとこだな‥」
来る道中で見た光の玉も見当たらないし、虫も、草木も、やはり湖にも生物らしき影が見当たらなかった。何というか‥この場所はとても空虚だな‥。
しばらくして、300mほど先に祠?見たいな構造物を発見することができた。
「何とも無いように見えるけどそういうものなのかな?」
材質はただの石のようだ。そして、祠の中にはまるで夜の星空を切り取ったかのような輝きを持つ宝珠が鎮座されていた。
もしかして、この宝珠を通して神様から祝福を授かるのだろうか。多分、そうに違いない。常人には感じられない神秘があるに違いない。
「こうかな?」
僕は目を閉じ少しうつむき、手を宝珠にかざした。そうして僕は祈りを捧げた。
———神様どうか、みんなを守る力を僕にください———
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
自宅のテラスにて、母リーアはアルバス山の方を眺めていた。
「おや?リーアさん、こんな夜遅くどうしたんですか?息子さんのことが心配ですか?」
「あら、村長さん。夜の見回りご苦労様です。レイのことは特に心配してませんよ。」
「そうですか。リーアさんの息子さんは賢いですからね。きっと智の神に祝福されていることでしょう。早く、ネイラさんに見てもらいたいですね」
「ええ、レイならきっとどんな困難でも乗り越えて見せますわ」
なんか、ちょっとズレた回答だがいつものことだ。むしろ、彼女の美しさと夜景のせいだろうか?その何気ない一言がとても不思議に感じたガスであった。
——この村の子供達には知らないことがある。それは10歳になると神から祝福を授かることだ。祝福を授かること自体は嘘ではない。人は生まれながらにして祝福を受けている。祝福—その一端を見せ始めるのが10歳ぐらいだ。人によって違うが、何らかのキッカケで劇的に発現するということが分かっている。この村で生まれた者はだいたいこの祝福の儀で目覚しい成長を見せつけてくれた。
祝福——主に神を信仰する人の間で使われるこの力は本当に神が与えてくれたものか定かではない。神を信仰しない地域では他の呼び方があるらしい。この村では特に神を信仰している訳ではない。この国、イディシアには数多くの神の存在を示すような遺跡、遺物が見つかっている。そのため帝都やいたるとこに教会が存在している。そのためこの村も合わせて使っているにすぎない。変に目をつけられるリスクは避けたかった。
もともとこの村の住人は20人程度であったが、国以外から来た者、他の村で迫害を受けた者、引退した冒険者、騎士、他国から移住してきたりと100人程の規模になった。この村では神の信仰について特に定めていない。いざこざを避けるためだ。この村で住む人はどんな境遇であっても対等であって欲しいと思っている。
「さて、彼はどんな成長を見せてくれるかな?楽しみだ」
明日には彼の祝福が分かることだろう。彼の成長が息子にとって良い刺激になることを願っている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれからの僕は夜遅かったということもあり、休憩小屋に着いたらすぐ寝てしまった。特に体に変化はないが‥最初はこういうものなのだろうか?
外はすっかり朝になっていた。帰る準備をしなくては!僕は保存食にあった乾燥果物と干し肉を食べると保存食の中から数品布に包みバッグにしまう。
「よし、必要なものはちゃんとそろっているな。いこう‥」