初めての冒険
家から出た僕は、浮き足立って目的地であるアーバレス山に向かっていた。空は青く澄み渡っていて、これなら雨の心配はなさそうだ。
「楽しみだなぁ〜。武の神様から祝福されたら、村に在住している騎士様になりたいな〜。智の神様に祝福されるのもいいなぁ〜」
自分の将来について希望を含ませながら歩いていると前から、見知った顔が歩いてきた‥。村長の息子レイズだ。
「弱っちいお前が、武の神、智の神から祝福される?そんなわけないだろ!!」
どうやら独り言を聞かれていたらしい。レイズは武の神から祝福を受けた。将来はみんなから、王都で騎士や傭兵、冒険者として活躍が見込まれている。そんなレイズは、僕を見下しながら笑っていた。
「どうなるかまだ決まったわけじゃないだろう」
「いや、お前は富の神から祝福されるのがせいぜいだね。まっずい、米でも作ってくれよ。俺は食わないけどなぁ!」
お前のようなクズが騎士になる?冗談も大概にした方がいい‥と口から出かけた言葉を飲み込む。ここでケンカになっても勝ち目はない。祝福を受ける前はそうでもなかったけど…。
それほどまでに祝福の有無は大きかった。なんでこんなやつに武の祝福を与えたのだろうか神様はよく分からないことをするもんだ‥‥。
「まあ、帰ったら楽しみにしているぜ!お前がどの神に祝福されたのかをよ!」
「‥‥…」
別れ際の言葉を無言で返し、村の正門へと向かった。今にやり取りですっかり、萎えてしまった。あいつはいつか目に物見せてやらないと気が済まない。
何も飾り気のない木で作られた柱がただ突き刺さっただけの正門に着いた。この正門の柱には小さな扉が付いていて、中には魔除けのお守りが入っている。これは王都で有数な聖職者が作ったお守りで魔物を退ける効果がある。この村の周辺では魔物は殆ど見かけないが、念のためというやつである。気品溢れる刺繍が施された袋の中に何か石のような固い感触がした。中が気になったがご利益が逃げそうなので開けなかったけど。
お守りをバックにしまうと後ろから誰かが近づいてきた。この村の村長ガスさんだ。
「そうか、レイ、今日でお前も10になるのか‥いやはや時が経つのは早いな。息子とは仲良くやっているか?」
「もちろんですよ」
「だといいんだがな‥。祝福を受けたレイズはどこか調子に乗っている感じがする。迷惑をかけているかもしれんが嫌わないで欲しい」
「わかりました」
村長の前では決して仲が悪いだなんて言えなかった。村長はなんでこんなに立派な人だというのにレイズはあんなにも意地悪い性格になってしまったのだろうか?昔はあんなに遊んだのに。
「長くなっては申し訳ないからね。ここは魔物は魔物が殆ど出ないし、お守りもある。だけど油断してはいけない。魔物をもし見かけたら、すぐ逃げんだぞ。では健闘を祈る」
「はい。頑張ります」
ガスさんに見送られ、僕は村を後にした。そうして、僕の初めての冒険が始まった。
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僕は10になるまで一度も村を出たことがない。それは村に住む多くの子供達にも当てはまる。神様から祝福を受ける。この祝福の儀と呼ばれるこの日に初めて村の外に出るのである。
今までは柵に囲われた村の正門から見る景色だけが外の世界だった。そして、目の前には僕の知らない世界が広がっている。少し恐ろしくもあるが、感動を覚えられずにはいられなかった。
「うわ〜。なんて世界は広いんだろう‥」
村からあんなに近いと思ってた、アーバレス山があんなにも遠くにあるだなんて思いもしなかった。距離にして8kmくらいだろうか?
行く道の途中は草原が広がっていた。道に迷うこともないだろう。あるとしたら、狼に襲われることだろうか?
「少し気合い入れないとね!」
見たことない植物や動物に目を奪われながらも、僕は確実に山に近づいて行ったのであった。
半分ぐらい進んだだろうか?徐々に周りの風景は変わり、目の前には川が林が見えていた。
「時間が惜しいけど、少し休憩しようかな‥」
ちょうどいい大きさの岩を見つけるとゆっくり座り込み、ある事を自覚する。
‥‥‥ちょっと体力が無いんじゃないかと。
「いや、確かに家で毎日本を読んでばかりだったけど‥‥…。これほど体力が無いなんて思わなかった。明日までに帰ってこれなかったら、レイズに馬鹿にされるな…」
バッグから水筒を取り出し、水を二口ほど飲み空を見上げる。何処までも続く空‥‥それだけはいつも見ている景色と変わらないような気がした。