舞踏会のようです。
あの一件から数日が経ち、同じようなことが起きないようにと家庭教師を雇い、魔法に関する教育を一から行うことになりました。またそれと同時に今までしてこなかったマナーやダンスなど貴族としての最低限の教育も再開することに。こちらはまだ私が私ではなかった頃、勉強はしたくないと家庭教師を皆首にしてしまったことで止まっていたようで。それにしてもここまで我儘放題に振る舞っていてよくお父様達は見捨てなかったですね。優しすぎて逆に心配になります…
私があの時気を失ってしまったのは碌に魔法を使用したことがないにも関わらず、いきなり上位魔法を詠唱したことで所有する魔力以上の魔力量を要求され生命力を無理やり魔力に変換。結果魔力切れを起こして倒れたということでかなり危険な状態であったと魔法を教えてくださる講師の方から厳重に注意されました。その上で初級から改めて習い、魔力保持量を徐々に増やしていくことに。上位魔法を使用したことで魔法のコツのようなものを掴めたのか今度はスムーズに詠唱することに成功し、今は徐々に使用できる魔法を増やしています。
マナーやダンスについても元々この身体のスペックが高かったようで、水を吸うスポンジのように知識を習得。人前にでても恥ずかしくないレベルになんとかなりました。
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私が記憶を取り戻してから五年の月日が流れた十二歳の秋。それは来た。
「私に手紙?」
「はい、こちらです」
「ありがとうセリア」
日課になりつつある魔法の開発を終えて自室へ戻るとセリアが一通の手紙を差し出してきた。ん、この紋章どこかで見たことが。
「えっ」
「クローディア様、どうかされましたか」
「この紋章、王家のものだわ」
「ふぁい?」
思い出した。前に一度だけこのお屋敷へ来ていた王家の馬車の紋章と同じものだ。結局何の用事でここへ来たのかお父様は教えてくださらなかったけど、妙にお父様もお母様も機嫌が悪そうにしていたのが印象的だった。本当に何をしにきたのですか王家の人達は。
「クローディア様、今度は何を?」
ちょっとセリア、確かに魔法が使えるようになってから色々とやりすぎた自覚はあるけれどさすがに王城へ招待されるほどのことはしてないわよ?
「特に王家と関わるような心当たりはないのだけど、何が書いてあるのかしらね」
丁寧に手紙の封を切る。手紙の中には便箋が一枚と何かのチケットのようなものが入っていた。
「えーっと、『クローディア・ベルフォート 貴女を一週間後の舞踏会へ招待いたします』舞踏会ですって凄いわね、、、へ?」
「王城、舞踏会、招待、、、ふぇぇぇ…」
自分で言った言葉が信じられずもう一度手紙を読み直す。しかし何度読み直しても手紙の内容は同じ。一週間後に王城で催される舞踏会への招待状だった。
「どういうことよ、舞踏会ってなによ」
突然のことに混乱してしまう。今までもお茶会の招待を受けたことは何回かあるけれどそんな本格的なのじゃなく少数で集まってお話しするだけだったのよ。いきなり王城で舞踏会、踊るってことよね?えっ、どうすれば…
「と、とにかく、何かの間違いかもしれないわ。お父様に聞いてみるわね」
その後、お父様に確認をするも、お父様はどうやら私よりも先に舞踏会のことを知っていたようで手紙を見せるとドレスや装飾品などの準備が始まった。あと舞踏会のことを知っていたのなら私にも教えてください。心臓に悪いです。
数日後、私個人としてはあまり気分が乗りませんでしたが王族からの招待を断れるはずもなく、私は舞踏会へと参加するため王城へと向かいました。お父様、お母様、学園を卒業してお父様の下で領主見習いをしているお兄様、そして私のお付きとしてモナとセリア、護衛のみなさんとの移動です。ちなみにクロエはお屋敷の方でお留守番です。一人だけおいて行かれるということでかなり不満そうにしていましたが、こればかりは仕方がありませんね。
道中、何度か盗賊に襲われるなどのハプニングが起きたものの領兵であり護衛であるみなさんが優秀なこともあって事なきを得ました。
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王城へと到着した私はお父様、お母様と一旦別れてエスコート役のお兄様と会場へと入場する。途端なぜか会場内のざわめきが一層大きくなった。
「見かけない顔だがどこの令嬢だ」
「あの奇抜な髪形はもしやベルフォート家の令嬢か」
「馬鹿、確かにおも…変わった髪形だが、この話が聞こえていたら何をされるかわからないぞ。いや、しかし、噂では我儘放題の傲慢な娘という話だったはずだが」
「私が聞いた噂では優秀な魔法の使い手という話だったぞ」
「そんなはずはないだろう。あの我儘娘が魔法など使えるはずがない」
申し訳ないのですけれど、全部魔法で強化された聴覚のお蔭で聞こえていますよ。伊達にここ何年間魔法を開発してませんからね。別にどうこうするつもりはないですけど、顔は覚えましたからね。特にこの金髪ドリルを馬鹿にしたあのおじさん達は絶対忘れませんわ。私だって好きで金髪ドリルにしているわけじゃありませんのに。
決して少なくない視線に晒されながら会場の中心へと進む私には、魔法によって強化された聴覚のお蔭で私のことを話す貴族達の会話がすべて聞こえてくる。しかし決して遠くない位置で俯き、ぶつぶつと呟く彼女の存在には気付くことができなかった。