魔法の練習のようです、
「形になってきたわね」
「ありがとうございます、クローディア様」
セリアをメイドとして迎え入れて数日が経ち、最初は箒を見たことすらない完璧お嬢様だった彼女もモナの手ほどきを受け、ようやくぎこちないながらも家事をこなせるようになった。まだまだモナとは比べ物にならないけど頑張ってほしい。ついでに私自身も記憶が戻ったショックから立ち直り完全復活です。
そうそう、この数日の間にお母様と妹のクロエにも顔を見せに行きました。結果、お母様には娘がようやくまともになったと泣きつかれ、クロエには妙にキラキラした目で見られました。お二人にも今まで迷惑をかけてしまったようで申し訳ない気持ちでいっぱいです…
「それでお嬢様、本当にするおつもりなのですか」
「なにか問題でもあるのかしら」
「いえ、問題はないのですが」
あまり気乗りしないといった様子のモナ。
「大丈夫、もしかしたらという程度よ。別にできなかったからと言って怒鳴り散らしたり当たったりはしないわ」
「心配しているのはそこではなく、、、お嬢様が落ち込んでしまったりしたら」
モナがなにか呟いているようだけど声が小さくて後半がよく聞き取れなかった。
「それで準備はできているのかしら」
「はい、訓練場でしたら今日は一日中空いていますのでいつでも大丈夫です」
「そう、よかったわ。善は急げ、早く向かいましょう」
◇
この世界の文明は妙に進んでいる。馬車の通る道はきちんと舗装されているし、紙も安値とまではいかなくても庶民でも買える料金設定で本なども嗜好品の域は越えないものの普通に売っているようです。
そしてなによりこの世界には魔法があります。ええ、物語でしか存在しなかった魔法がこの世界では普通に存在しているのです。これは使わない手はないでしょう。
魔力自体は生き物であれば多かれ少なかれ持っているのだけど何故かその魔力を魔法に変換できる者は本当に少なく、魔法を使える人は千人に一人レベルで小さな種火を作る程度の魔法でも使えれば引く手は数多らしい。
記憶が戻る前のクローディアは残念ながら魔法の適性がなく使えなかったようだけど、記憶が戻った今ならもしかして、、、私はそう考え、普段ベルフォート家の私兵が使っている訓練場を無理を言って訓練がない日に貸して頂きました。まだ私の変化を知っているのは家族とモナ、セリアの二人、そして彼女達とつながりのあるベルフォート家に仕える従者だけだから周囲にはまたいつもの我儘と思われているでしょうね。
訓練場へ着くとさっそく私は魔法の詠唱を始める。
「暗闇を照らせ、照光」
この魔法は暗い場所を照らせる程度の光の球体を生み出すというものなのだけど、何も起こらない。
「次ね。熱よ生まれろ、種火」
これはたき火を起こせる程度の小さな火を作る魔法なのだけどやはり何も起こらない。
「それならこれは。水よ湧き出ろ、流水」
これも不発。どうやら記憶が戻っても魔法は使えないようね。うーん、残念だけど諦めるしかないかしら。
「お嬢様、魔法が使えなくてもお嬢様は十分魅力的ですから!きっと良い人が見つかります」
「そうですよ、モナ先輩の言う通りです!魔法なんてお嬢様には必要ないです。だってお嬢様は今のままでも、///」
私が黙り込んでいたのを見て怒っていると勘違いしたのかモナとセリアが一生懸命おだててくる。心なしかセリアの顔が赤く見えるけど大丈夫かしら。
「大丈夫よ、さっきも言ったけれど少し気になることがあったから試してみただけよ」
さて、魔法が使えないことも確認できたことだし自室に戻ろうかしら。
■
自室に戻ろうとしたけれど、もう一つ魔法について試してみたいことがあったことを思い出した私はもう少しだけ訓練場にいることにした。
私が今よりも小さい頃、お父様が言っていた気がする。魔法はイメージが大切って。今まで私が詠唱したのはイメージするのが難しい光や抽象的な火や水の表現ばかり。もっとわかりやすい、イメージのしやすいものを対象にした魔法なら…!
「燃え盛れ!炎の渦よ、炎嵐」
「お嬢様、、、それは上位魔法ではありませんか」
上位魔法とは魔法が使える者の中でも特に魔力が高く、才能に恵まれたごく一部の者にしか使えないとされる魔法。比較的イメージのしやすいものが適していると思って万物すべてを巻き込み燃やし尽くす炎の竜巻を生み出すこの魔法にしてみたのだけれど。
「やっぱり不発みたいね。魔法は諦めま…!」
諦めましょう。そう言葉を紡ごうとした瞬間、私の中から何かがごっそりと抜き取られるような感覚に襲われた。そして次の瞬間強烈な熱風と爆音が私を襲った。
「「お嬢様!?」」
その熱風に吹き飛ばされた私は勢いよく壁に叩きつかれて意識を失った。
結果的に魔法が使えるようになりましたが、本当によかったのでしょうか。