新しいメイドのようです
「クローディア、入ってもいいかな」
短いノックとともに扉の向こうから声がした。この声はお兄様?
「ええ、どうぞ」
外で待機をしていたモナさんが扉を開き、お兄様を招き入れる。お兄様はベルフォート家の長男でまだ九歳であるにも関わらず既に当主であるお父様の職務の補佐をしている。わがまま放題で周囲に呆れられている私とは正反対に、お兄様がいればベルフォート家は安泰だとまで言われているほど。その類い稀なる才能と優しい性格から縁談の話は絶えない。
ちなみにこんな私でも見た目だけは良く家格も申し分ないため縁談の話はお兄様程ではないにしても来ているとモナさんが前に話していた。と言っても、私のところまで直接縁談の話が来たことはないから恐らくモナさんが私に気を遣っているのでしょう。モナさんも嘘を吐いてまで私のご機嫌取りをしないといけないなんて大変だったでしょうに。
「体調はもういいのか」
「はい、お陰さまですっかり良くなりました。心配をおかけして申し訳ございませんでした」
「………」
私の言葉を聞いて微かにその整った顔をしかめるお兄様。何かおかしいことを言ったかしら私。あれ、よく見たらモナも少し顔色が悪いような…
「お兄様、どうしました」
「ああ…いや、大丈夫だ。それよりも体調が良くなったのなら父上の執務室へ向かってくれ。父上がクローディアに用があると」
「お父様が?」
お兄様は私に何か言いたそうな顔をしていたけれど、どうしたのかしら。言いたいことがあるならきちんと言葉にしてくれないとわからないのに。
とにかくお兄様のことはいったんおいて、お父様のところに行こう。モナさんの話だとお父様にも心配をかけてしまったようですし、元気になった姿を見せよう。
◇
「お父様、クローディアです」
「入れ」
了承を得て、お父様の書斎へと入る。
「失礼いたします。お父様、この度はご心配をお掛けして申し訳ございませんでした」
「………」
先手必勝と今回の件でお父様にも心配をかけてしまったことを謝るが、それを聞いたお父様は何故か無言になってしまった。
「お父様?」
先程のお兄様と同じようにこちらを見たまま固まってしまうお父様。
「……大丈夫だ。とにかく無事なようで安心した。ユーセリアもお前が目を覚まさないことで色々と危なかった」
「はい?」
聞き間違いでなければ今危なかったと。私の状態はそこまで危険な状態だったのでしょうか。
「いや、こちらの話だ。それと例の件は周囲にいた者達より事情を伺い、クローディアがいつ目を覚ましても良いようにこちらで進めておいた」
「例の件…ですか?」
お父様の言う『例の件』とは何のことでしょう。心当たりがないのですが。
「ああ、入ってきていいぞ」
「し、失礼します」
私の疑問にお父様は答えず、外から聞こえてきたノックの主へ入室を許可する。そうして入ってきたのはメイド服に身を包んだ銀髪の少女、、、あれ、この娘どこかで見たような気がします。
「ほ、本日よりクローディア様の専属メイドになりましたセリア・イシュルードと言います!ど、どうか家族だけは許してください」
とても自己紹介とは思えない物騒な言葉を彼女、セリアさんは放つ。それに彼女の言動に私は引っかかるものがあった。
「私の専属メイド?」
専属メイドと言っても、私には既にモナさんがいる。彼女はこんな私に長年耐え忍んで仕えていたこともあり非常に優秀。彼女一人だけでも十分私のお世話係は足りている程には。
「そうだ、お前がイシュルード家の令嬢を専属メイドにしたいと言っていたと聞いてな。ち・ょ・う・ど・よ・く・彼女がこの屋敷に赴いたためお願いしたのだ」
「ひぃっ」
お父様、セリアさんが怯えていますのでそんなに凄まないでください。私までちょっと怖いです。それにしても、私はいつそんなことを言ったのでしょうか。
『…私にこのような仕打ちをしておいて許してもらえるとでも。私を三大公爵家のひとつ、ベルフォート公爵家の長女クローディア・ベルフォートと知っての行いかしら』
『私、上辺だけの謝罪になんて興味ありませんの。あなたには後ほどたっぷりと行動で示してもらいますので楽しみにしていてくださいね』
……あっ、言っていました。