前世の影響のようです
前世で男性として過ごしていた記憶、経験は非常に色濃く、この世界でまだ七年間しか生きていない私を塗りつぶし書き換えてしまうには十分すぎるものでした。例として挙げれば、平民は貴族の思い通りに使える駒で下賤なもの、言ってしまえば奴隷だなんて過激な思想を以前までの私は持っていました。しかし今は貴族は偉そうで嫌な奴でむしろ平民に好意を持てるだなんて以前までの私だったら絶対に思わないことをそれがまるで当たり前であるかのように普通に考えてしまっています。それ以外にも食べ物の好みや趣味までもなんとなくですが、前世の自分のものに変えられてしまっている気がします。そうして私の様々な思想や価値観を捻じ曲げた前世の記憶は私…いえ、女性としては致命的なものまで変えてしまいました。
…それは好みです。ええ、鍛えている人がとか文才に恵まれた人とかそういう好みです。この好みまで前世の、男・性・で・あ・っ・た・時・の・記・憶・に変えられてしまいました。つまり今の私は同性である女性にその、好意を抱いてしまう状態ということですね、、、
「はあ…」
何とも言えない境遇の自分に思わずため息を漏らしてしまう。このことに気付いたのは目覚めてすぐでした。
「モナさん、とても可愛いものね」
目を覚ましたら突然目の前に前世では見たこともない可愛い女の子が自分を心配そうな目で見つめてきて…表向きは平然を装っていたつもりですが、同性なためか仕えている主なためかどこか無防備で、良い香りとかも……いやいや、何を考えているのでしょうか私は!と、とにかく内心ドキドキが止まりませんでした。彼女、モナはお父様が私の身の回りのお世話をさせるために雇った専属のメイド。年は確か今年で十七、世界が世界なら花の女子高生……女子高生ってなにかしら。
「…もうこれは生まれ変わったと言っても相違ないわね」
新しい知識に思想、価値観、ついでに好みも変わり、昨日までここに存在していた傲慢で我儘なベルフォート公爵家長女クローディア・ベルフォートは一度死んでしまった。今ここにいるのはまったく別の、思想・考え方を持って生まれ変わったクローディア・ベルフォートです。そう思ってしまえば途端に今までごちゃごちゃしていた頭の中はすーっと綺麗になったような気分になる。深く考えたところで何か解決策が見つかるわけでもないですし、開き直ってしまいましょう。
「どのみちこのまま生きていたらそう遠くないうちに終わってしまっていた気もするし、前向きに考えることにしましょう」
ほとんど直感ですけど。