命の瞬き
今回は短め更新ですすいません。
頭の中で振り子が揺れるようだ。失われた体のバランスを取り戻そうと努める。
チカチカと点滅する視界で見上げる空が、自分がいかに無様な姿かを教えてくれた。
瞬殺にもほどがあるだろ......。
三年の月日か、それとも天からの才か、もしかしたらその両方か。ここまでの差が開いてるとは......。
目の前で父ヘブルと打ち合うウィアの眼は、先ほどとは打って変わって真剣そのものだ。
あの眼を自分に向けさせられる日がいつか来るのだろうか。
傍に転がる木剣を眺めてため息を漏らす。俺とウィアの差は、単なる剣術だけではなかった。
根本的な生命力、生きる力、命への執着心。
眼には見えない生物の根源的強さ。
生きようと思う、こころの力。
そういった技術や力云々以前の歴然とした差があった。
そしてそれらの力は、生物の強さに大きく影響を与えることが分かった。
前世から俺は命の存在を感じることができた。人の体内で燃ゆる命の存在を、肌で感じることが出来たのだ。
しかしあの夜から俺は命をハッキリと眼で見れるようになった。
前方で激しく打ち合う父と友に眼を凝らす。
次第に世界がサーモグラフィーの様に色を変え、青く、暗くなっていく。 深海にいるような、不思議な感覚だ。
そして光を失った世界の中で、2人の体内に輝きを放つ炎の様な物が見える。
これが命だ。
命の炎の大きさは人それぞれで、その色や形にも個性がある。
村の人達一人一人を取ってもその色は十人十色。しかし炎の大きさはほとんどが心臓部に収まる程度だ。 それがきっと平均的な生命力の強さなのだろう。
この力を使えばその生物がどれだけ生きることに長けているかが分かる。
父へブルの炎は赤く力強い。 そしてその大きさは体全体を覆うほどだ。 おそらく彼の騎士として鍛えられた単純な戦闘力が炎の大きさに表れているのだろう。
ウィアの炎は蒼く美しい。 だいたい大きさは上半身を覆うくらい。 父には劣るがやはり相当なものだ。 村の人間ならウィア一人でほとんど皆殺しにできるだろう……。
しかし面白いことにこの炎が表すのは生命力であって決して戦闘力ではない。
母スールの炎がウィアとほとんど同じサイズであることからそのことに気付いた。
生命力とは生きる力だ。 胸にナイフを刺された時、その場で息絶えるものと、地を這ってでも生きようともがく者。 頸動脈に魔物の牙が突き立てられた時、ただ泣き叫び他者の救いにすがるものと、腕を失おうとも魔物を殴り殺し生き延びようとするもの。
この差こそが生命力の差。 追い詰められた草食動物がライオンに一矢を報いるほどの力を発揮することがある。 まさしく生命力の力だ。
この力を使えば俺とウィアの差がはっきりと分かった。
道のりは長い。 だけど時間ならある。
彼がこの村を立つその日まで、その炎が放つ光を目印に走り続けよう。