初めての死
シミ一つない真っ白な天井。
ひどい虚無感に襲われ寝返りをうつ。
窓の外には灰色の空と、決して僕と混じわることのない日常が広がっている。
今日もまた一つ命が枯れる音を聞いた。
ひどく乾いたその音を聞くたびに、無駄だと分かりつつも考えてしまう。
魂の存在。
人は死ぬときに21gの質量を失う。
現代の科学者は眼に見えぬその質量に、魂と名前をつけた。
死んだ人間の魂はどこに行くのか。
輪廻転生なんてものを信じちゃいないが、必ず失われた21gが辿り着く場所がある。
もし僕が死んだら、その魂はどこに向かうのだろうか。
考えても仕方がないと分かっていても、いつか来るその日を思い今日も空想にふける。
腕に刺さった管から得体も知れない液体が流れ込んで来る。
僕は今日もこの小さな病院で命を枯らしていく。
未来に希望などない。
どれだけ長生きしようとも、この小さな檻の中では僕の生きた証など残しようがなかった。
今日もまた意味のない手術。
魂の存在に疑いはない。
だからこそ、いっそさっさと死んで魂の行方を知る方が有意義なように思える。
手術の後は必ず夢をみる。
僕に体の一部をくれた誰かの夢を。
見たこともない景色を、見たこともない人達を。
きっと僕の中に迷い込んだ魂が、彼らの想いを伝えているのだ。
僕の中にはいったい、どれだけの魂が宿っているのだろう。
僕は生かされている。
どこの誰かも分からない人達に。
どこの誰かも分からない死者に。
僕は生かされている。
積み重なった死体の上に。
僕は生かされている。
死者の丘の上に。
今日も命の枯れる音を聞いた。
それは僕の中で響き続けた。