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心無き少年は悲劇を謳う  作者: 西村暗夜
序章 始まりの歌
7/29

失われた記憶 急

「「おい、俺(僕)たちの息子(娘)に手を出すんじゃねえ」」

二人はそう言いながら、業鬼の前に立った。

二人はなぜか右腕の全体に黒い包帯を巻いていたが、怪我をしていると言う訳では無さそうだった。

父さんと雁継さんは銃の引き金を引く。

すると二人の銃から発せられた2度の轟音が響く。

「グギャッ!?」

2発の弾丸は共に業鬼の腹に大きな穴を開ける。

業鬼は腹の大部分を無くしたことにより、体を支えられなくなり、倒れこんだ。

そして、父さんが業鬼の前に歩いていき、口を開く。

「そいつは特別製の弾丸だ、そいつには業鬼から抽出された細胞が刷り込まれている。

それに、俺達自身も……」

父さんは言いながら、腕に巻き付けてある包帯を外した。

続けて雁継さんも包帯を外し、父さんの隣に立った。

「僕達自身も、もう業鬼になりかけているからね」

外した包帯の中から出てきたのは、俺達の見知っている手ではなく、他の業鬼のような黒い腕であった。

「僕達の腕はもう業鬼に侵食されているんだ。けど、だからこそ僕達はお前らから大切な物を守れるようになった。まぁ、回数制限はあるけどね?」

雁継さんはそう言いながら、業鬼へと銃口を向ける。

「その回数を越えてしまえば、俺達はお前等と同じような化け物に成り下がる。けれど…」

父さんも雁継さんの一歩前の位置で、銃ではなくナイフを両手に3本ずつ指に挟むようにして持っていた。

そして二人は、一度それぞれの子供の方を見たあと、業鬼を睨み付けて言った。

「「それが子供達を守ることになるならば…」」

二人の視線がより鋭くなり、業鬼を威圧する。

業鬼は二人の視線に当てられて動けなくなっていた。

そこに二人は止めとばかりに、力を振り絞り叫んだ。

「「たとえお前たちのような存在になるとしても、あいつらだけは守り抜く、それが、父親としての願いだ!!」」

そう、それは単なる願い。

親として持つ、ごく普通の願いだ。

けど、だからこそ、それは、決して折れない決意だった。

「キシャァァァ!!」

威圧を払いのけるかのように、業鬼は叫ぶ。

すると業鬼の体が巨大化し始め、最初の姿の三倍くらいの大きさへと変わり、人としての原型はとどめてなくなっていた。

業鬼は二人めがけて跳ねるように飛んで行き、腕で二人を鷲掴みにする。

そして俺にしたように二人を壁へと投げる姿勢へと入った。

だが、投げる前に業鬼は両腕は、()()()()()()

「グギャァァ!!!!」

業鬼の腕が無くなったことにより、二人は空中へと投げ出される。

二人は空中で体制を整えて着地して、唸る業鬼へと、()()()()()()()()()()()()()()()|。

「ナンダ、ナンナンダソノウデハァ!」

叫ぶ業鬼を無視して、二人は業鬼を切り裂く。

「この腕は、俺たちの罪だよ」

業鬼は叫ぶのことも出来ずに、闇に飲まれて行った。

それを見届けた後、父さんは俺の方へと、雁継さんは雫の方へと足を運んだ。

「大丈夫か、拓也?」

父さんが俺に手を差し伸べてくる。

俺は頷いたあと、父さんの手を握って立ち上がった。

俺は父さんと、走って雫の元へと向かった。

「おい、しっかりしろ!雫、雫!」

そこには、倒れた雫の肩を叫びながら揺さぶる雁継さんと、何も反応を示さなくなり、目が虚ろになった雫がいた。

「チッ、心を持っていかれたか…」

父さんが一度、雫の顔を見たあとにそんなことを言った。

「助け、られないのか?」

俺が父さんに恐る恐る聞く。

「あるにはあるが、危険すぎるな…」

父さんは顔を伏せて言う。

「でも、もしかすると助かるんだろ!?

だったらやるべきだ!」

俺が強く言うと、父さんは少し考えたあと、

「そこまで言うならば、やるとしよう」

といい、俺の肩を握る。

「この方法は。他人の心を移し変えるものだ。

しかし俺と雁継はもう心が業鬼の力に侵食され始めている、だから俺たちのを使うと、雫ちゃんが業鬼になってしまうかもしれない。

だから、お前の心を使うしかないんだ。

お前に、その覚悟があるか?

心を失う覚悟が…」

父さんは肩を握る力を強めながら言った。

その顔には、悔しさを秘めていた。

俺は父さんの顔を一度見たあと、笑顔を作って言った。

「ああ、出来てる。

だって、あいつと一緒にいたときが一番楽しかった。

あいつは俺に、笑顔をくれた。

一人で居た俺に、話しかけてくれた。

あいつは俺を救ってくれた。

だから次は、俺が救う番だ」

いまだ反応を示さない雫を見ながら俺が言うと、父さんは少し悲しそうな顔をしたあと、納得したように頷き言った。

「そこまで言うならば、貫き通せよ?」

父さんはそう言って、雁継さんに相談を始めた。

「雁継、退いておいてくれ。今から、雫ちゃんを救う」

救えるのが俺しかいないことは理解していたのだろう。

父さんが言うと、雁継さんは驚いたように俺の方を見た。

「いいのかい?心を移すと言うことは、君は――」

と、雁継さんが言ったところで、俺は言葉を遮るように、

「いいんです、俺は雫を救いたいだけですから」

と、笑顔で言った。

すると、雁継さんは安心した様子で、

「そう、か。ありがとう拓也くん。

本当に、ありがとう…」

と、涙を溢しながら言った。

「それじゃあ始めてくれ、父さん」

俺は父さんの前に立ってそう言った。

父さんは俺の目を見たあと、頷いて、俺の胸に黒い腕を置いた。

「始めるぞ」

父さんが言うと、俺の胸が淡い光を放ち始める。

そして、父さんの黒い腕は俺の胸の中へと入って行った。

「ッ!!!」

胸に激痛が走る、痛すぎて叫ぶことも出来ない。

父さんは胸に突っ込んだ腕を一気に引っこ抜き、すぐに俺を床に寝かせた。

父さんの腕には、光を帯びた球体が握られている。

そして、すぐにその玉を雫の口の中に入れて、飲み込ませた。

しばらくすると、虚ろだった雫の目に光が点り始める。

「…ここ、どこ?」

雫が掠れた声で言うと、雁継さんは雫に抱きつき、

「良かった、本当に良かった…!」

と、涙を溢して言った。

「なんか、すごく眠いから、寝てもいい?」

雫が目を擦りながら言う。

「ああ、眠ってもいいぞ。

お父さんが側にいるから」

雁継さんがそう言うと、雫はすぐに目を閉じて、安らかな呼吸を始めた。

雁継さんは肩を撫で下ろして、父さんの方へと近づいた。

だが、すぐにその安堵は消え失せた。

「「グァッ!?」」

二人は腕を押さえながら唸り始める。

「駄目だ、もう限界らしいな…」

雁継さんが父さんの方へと言う。

「そうらしいな…

よし、なら最後の一仕事だ、子供たちのことを最後まで見てやれないのが悔いだが…

出来るな、雁継?」

父さんが腕を剣のような状態にして言うと、雁継さんも、

「出来るに決まってるだろう?」

と言い、腕を剣のような状態にした。

そして二人は互いの胸に腕を向けて、同時に心臓を刺した。

二人は崩れるようにして倒れて、動かなくなった。

それと同時に、俺と雫の体に異常が現れ始める。

雫の体が、消えた。

俺の記憶の殆どが、消えた。

産みの親である両親が居なくなったことにより、雫の生まれたと言う前提が消え失せた。

育ての親である両親が居なくなったことにより、俺の成長したと言う前提が消え失せた。

けれども、俺は消えていない。

心は失ったままだけども。

まだ俺は目を覚ませてはいないけれど。

雫が側に居ることだけは、分かっていた。


失われた記憶 end

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