失われた記憶 序
地獄だと思った。
少なくとも、8歳の子供が見ればこの光景は地獄だろう。
辺りには血の臭いが充満していて、地面には女性が二人倒れている。
片方の女性は俺の足を抱くように倒れており、何故か懐かしい感じがした気がしたが、それが誰なのかは分からなかった。
もう片方の女性は、少し離れたところで震えながら立っている雫の足元で倒れていた。
そして、俺たちの目の前には二人の父親が立っていた。
どちらも黒いスーツに身を包み、右手には銃を持っている。
二人はそれぞれ俺と雫の方へと歩みより、片方は俺を見下しながら、もう片方はしゃがんで雫の頭を撫でながら話かけてきた。
「和也、すぐに雫ちゃんを連れて逃げるんだ、いいな?」
俺は頷いたあと、雫の方を向いた。
「雫、和也くんに着いていきなさい、絶対に離れてはダメだぞ?」
雫の父親である雁継はそう言いながら微笑んだ。
「分かった」といい、雫は自分の父親の指示を果すために父の元から離れて俺の側へと寄ってきた。
「拓也くん、雫をよろしく頼むよ」
雁継が俺に真剣そうな表情をしながら言った。
「任せてください、雁継さん」
雁継は安心した表情をしながら頷いて、俺の父さんの方を向き、
「行けるかい、和哉?」
と、聞きながら2丁目の銃をホルスターから取り出した。
「当たり前だ。行くぞ、雁継」
父さんも返事をしながら銃を持っている方とは違う手でナイフを取り出し、雁継の方を向いた。
二人は見合ったあとに、玄関から走って外に出ていった。
俺はそれを見送ったあと、雫を連れてベランダから家を脱出した。




