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心無き少年は悲劇を謳う  作者: 西村暗夜
1章 凱旋の二重奏
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罪の意識とその理由

美那里から様々な説明を受け、激しい運動などの制限も無いことを聞いた俺は、雫が待っているという客間に移動を始めていた。

部屋から出る際、美那里から「君の心に性欲とかそこら辺のものが出てきたら教えてくれると助かる」と言われたが、無視して来た。


…心が戻ったことは確かに喜ばしいことだ、雫が知れば確実に大騒ぎするだろう。

けれど、俺はそれを素直に喜べない。

喜びという感情が無い事も1つの理由だが、多分その感情があったとしても喜んではいないだろう。


心の中で何かがつっかえている。

何かを俺は忘れている。

多分それは大切なことなのだろう。

けど思い出せない。

もしかすると、俺は心を持ってはいけないのではないだろうか。


そういう考えが脳裏を過ぎる。

多分これが、不安という感情なのだろう。

それさえも、俺には分からない。

そんな事を考えているうちに、俺は雫の待つ客間の前に立っていた。

俺は余計な事を考えるのをやめ、ドアノブに手を掛けた。

「和也ぁぁぁぁぁぁぁ!」

扉を開くなり、いきなり飛び込んできた雫をとっさの判断で受け止めた。

「すまん、心配かけた」

俺はそう言って雫の頭を撫で、彼女の浮いていた足を地面に下ろした。

「…拓也、何か変わった?」

突然、雫がそんな事を言ってくる。

いきなりの質問に反応しきれなかった俺の脳は自身の口に命令を送りきれず、あとえが混じったような発音の返事をした。

「…どうしてそう思う?」

混乱した頭を全力で整え、平然を装った。

「何となく、かな。女の勘ってやつ?」

「そう、か…」

少し不安げな表情を浮かべて言う雫の頭に、俺は手を乗せてわしゃわしゃと頭を撫でた。

「安心しろ、何も変わってない。俺は俺だ」

そして俺は、この重要な変化を雫に伝えない選択をした。

もしここで心の1部が戻ってきたと伝えれば、確実に彼女は喜ぶだろう。

けれど、それが負の感情だけだと言ったらどうなるか、それが俺には目に見えていた。

確実に彼女はどれだけ俺が心配ないと言ったとしても心配し、気を使うだろう。

「そっか、なら私の思い違いか」

先程までの不安げな表情は消え、いつもの笑顔でその様に言う雫の頭を俺は抱き締め、先程よりも優しく撫でた。

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