少年覚醒
体中を穿たれ、動かないはずの身体が何かに引っ張られたように起き上がる。
そこに自分の意思はない。あるのは目の前の男に対する憎悪だけ。
相手を殺そうと思う憎悪が身体を動かす。
「…なぜ立てる、確かに身体中貫かれたはずだが?」
男が訝しげな表情を浮かべる。
体の痛みと傷は全て消えた。痛むどころかどころか快感すら覚え始めている。
不意に首を動かすと、唯一残った視力が自身の右腕の変化を知らせてきた。
その腕は黒く変色し、まるで伝説に出てくる龍が持つ手のような形へと変化していた。
「なるほど、貴様もあれの被験体だったか」
俺と同様にその腕の変化に気づいた男がそんなことを言っていた。
あれとは何なのか聞きたいが、口も喉も動きはしない。
その代わりに右腕が剣の形へと変形し、相手へと切りかかった。
「クソッ、初期覚醒段階とは言え、分が悪すぎる」
そう言い、男は俺の右腕の攻撃を海老ぞりになって躱したあと、後ろへと飛び退き、自身の背後に影を集めた。
「貴様がタナトスの子供達の一人だとは思わなかった。
…命拾いしたな、次会うときは私だけ相手にするとは思わない事だな」
そして男は集めた影の方向へと向き、影の中へと入って消えた。
男が消えたのを確認すると、憎悪は体から抜け去り、黒い腕も消え、体に自由が戻る。
それと同時に、俺は意識を失った。