黙示録の竜
「吠えろ、黙示録の竜よ!」
全力で俺が叫ぶと、影達は音の波に巻き込まれて消滅した。
それと同時に両方の腕の袖に隠すように着けていた銀色のバングル型の機械が砕け散り、破けた袖の布と一緒に破片がバラバラと地面に落ちた。
それを見た白髪の男が一度、動揺したように大きく目を見開き、そして表情を元に戻した。
「なんだ、今のは?」
無表情に男が聞いてくる。
黙示録の竜、対業鬼用閃光弾と同じ美那里の発明品だ。
自身の登録された声と、キーワードを叫ぶことによってバングル型の機械が反応し、スピーカーの様に音を大きする。
大きくなった音は空気中にある微細な砂や埃などを細かく振動させ、自信を中心に一定の距離まで届く波の様なものを作り出す物だ。
振動した砂や埃などは当たった者の身を削り消滅させることが出来るが、その威力で発動すると自信も分解されかねないので威力を弱めた。
威力を弱めたとは言え、その黙示録の竜や使用者に掛かる負荷は大きく、黙示録の竜は破壊され、自身の体に大量の傷を遺して行った。
「答える義理はない」
俺はそれだけ言うと、ホルダーにしまっていたナイフを二本取り出し、白髪の男へと切りかかった。
「…」
男が機械の棒を右手で操作したのが見えたが、俺はもう切り込む寸前だったために反応できなかった。
俺が男の首を切り込む、それと同時に俺の足元に影が収束していく。
その影はたちまち絡み付き始め、最後には足を拘束した。
「離せ…!」
俺は力を振り絞って絡み付いた影を引きはなそうと足を上げたが、足はピクリともしない。
足から影を剥がそうと俺が奮闘していると、ムクリ、と首を切った筈の男が起き上がった。
「はぁ、もうすぐで死ぬところだったな」
男は切られた部分を擦りながら動けなくなっている俺の前へと歩いてきた。
「惜しかったな、あと数ミリ切り込めていれば俺を殺しきれていただろうが、そのナイフでは無理だろう」
首を擦っていた手を離し、男は機械の棒を俺の顔へと向ける。
擦っていた首の傷は、すでに無くなっていた。
「ッ?!」
俺があからさまな驚きの表情をすると男は少し口の端を吊り上げた。
「驚いたか?これが俺の力だが、詳細はお前に教える義理はない」
そう言いながら男は後ろに下がり、俺の方へと機械の棒を向けた。
「さらばだ、少年」
男がそう言うと同時に、男の回りに大量の影が槍のような形をなして俺へと向けられていた。
槍は全て俺の体へと飛んでくるが、躱す術はない。
「ガアッ!!」
体の至るところに槍が刺さる。
傷の全てが心臓になったかのように脈打つ。
痛い、痛い、痛い。
時が止まったかのように感じる。
ああ、この感じはなんだろう。
あの男の顔を見ていると胸がムカムカしてくる。
身体中の痛みなど感じられなくなるほどにそのムカムカが体を満たしていく。
――――なんだったか、これは。
――――昔感じたことがあったな。
頭の片隅に言葉が浮かんでくる。
憎い、憎い、憎い、憎い。
そうだ、これの名前は、憎しみだ。
それが分かった途端、体がその言葉で満たされていく。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
体が熱い、燃えるようだ。
頭が痛い、割れるようだ。
やることはわかってるか?
簡単だ、復讐ただ一つだ!!