業の使い道
「前回会った時から君達は、何体の業鬼を倒してしまったんだ?」
美那里から放たれる冷たい視線に、俺は体を貫かれたように錯覚した。
体から自由が消える、意識が朦朧とし始める。
俺は歯を食い縛って自身の意識をつなぎ止め、心を落ち着かせた後、美那里へと返事をした。
「…4体だ、そのうち3体が憤怒で、後の1体が強欲だった」
俺が言うと、美那里はため息をついたあと、睨む事を止めた。
「何で君はいつもいつも大切な被験体を倒してしまうんだい?馬鹿なのかい?」
睨む事を止めた代わりに、早口でそんな言葉を紡いでいく美那里に俺は少し引いてしまった。
「大体、君の武器を用意してやっているのは私なんだぜ?
なのに礼の一つも無いどころか、私が土下座してまで頼んだお使いさえも、君はちゃんとこなしてくれないと?」
そして一度深呼吸をした後、美那里はテーブルに置かれていた紅茶をすすったあと、ため息をついた。
「まぁ、君達があれらを倒してしまうのも無理はないが、けれど君達にはあれを捕獲してもらわなければいけない。
だってあれに傷をつけられるのは君だけだ、だからある程度傷つけておいて欲しいとは昔言った、けれど倒せとは言っていない」
ようやく落ち着いた口調になった美那里に、俺は肩を撫で下ろして言った。
「それについてはすまないと思っている。しかしこっちも命懸けなんだ」
俺はそう言いって、置かれている紅茶をすすった。
その時、口の中に強い衝撃が走った。
「ガッ!?」
口の中の衝撃は収まることを知らずにどんどん痛みを増していく。
俺は痛みで感覚が麻痺した口を頑張って動かして、言葉を紡いだ。
「な、何を、いれ、だ…」
口を動かす度に痛みが増していき、最後の一文字を言ったときには口の感覚は完全になくなっていた。
「ああ、その紅茶には様々な種類の謎の液体を入れておいた、一つは確か、スッポンの力…とかなんとか。あとは私にも何がなんだかは分からないけど、まぁ大丈夫だろう」
―――8割くらいの確率でその薬品は精力剤の名前だろ…
俺は飲んだこと自体を後悔して、口の中の違和感がなくなるまで舌を噛まないよう、口の中を動かさないことを心がける事を誓った。心ないけど。
そして数分後、口の違和感が消え、ちゃんと言葉が発せられるようになった事を確認した俺は、一度咳払いをした後に、今一番大切な事を美那里に聞くことにした。
「なんでこんなことをした?」
「君が業鬼をここに持ってきていればちゃんとした紅茶を出したさ。けど君は業鬼を持ってこなかった。
だから私はその謎の液体Xを出したんだよ」
理不尽な理由だった。
あと、そんなに業鬼が欲しいなら自分で誘導してここに入れればいいのじゃないかと思ったが、あえて口には出さなかった。
そのようなやり取りをした後、俺達は美那里に倒した業鬼のデータとプロフィールを伝えた。
「…これで俺達はもう帰っていいだろ?」
俺が荷物に手を掛けながら言う。
「ああ、もう大丈夫だ。業鬼を連れてこなかったのは殺したくなってしまったが、まぁ今回のところはこんなところ良いだろう」
そう言いながら美那里は、いつのまにやら書いていたノートを閉めて、俺の方を向いた。
「それではまた、なにか困った事があったら何時でも来るといい。
業鬼さえ連れてきてくれれば力になろう」
そんなことを言う美那里を尻目に、俺と雫は扉から外に出た。