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心無き少年は悲劇を謳う  作者: 西村暗夜
1章 凱旋の二重奏
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光無き女は暗きを好む

朝、鳥の鳴き声で目を覚ます。

物音一つで目を覚ましてしまうのは悪い癖だとは分かっているが、治る気配は一向に無い。

隣では、雫が静かな寝息を立てて眠っている。

(雫は精神体なので、普通は寝なくても大丈夫なはずなのだが、雫曰く、「体が無くても精神が疲れるんだよ?」とのこと。)

起きてしまったものはしょうがないので、俺は雫を起こさないようにしてベッドから出てリビングへと向かった。

この家は元々、身寄りのない俺を引き取ってくれたおじいさんとおばあさんの家だったが、二年ほど前に業鬼になってしまった。

朝飯を作るために、リビングに置いてある冷蔵庫の扉を開けて、俺は中を確認する。

「…」


冷蔵室 ベーコン(賞味期限切れ)、卵(残り一つ)

冷凍室 虚無

野菜室 ニンジン(カビが生えかけている)、キャベツ(虫が食っている)


俺は冷蔵庫の扉を閉めたあと、すぐに雫の眠っている部屋へと向かった。

「雫、起きてくれ。俺の生存の危機だ」

眠る雫の体を揺さぶりながら俺が言うと、

「…えっ、どういうこと!?まさか敵…」

と飛び起きて言った。

俺は首を振ってから、雫を冷蔵庫の前へと連れていった。

「中を見てみろ」

そう言って俺は冷蔵庫の扉を開けた。

「なるほど、これは生存の危機だね」

雫は頷きながらそう言った。

「野菜もまだ植えたばかりだからな…」

ベランダにある小さな畑に目をやりながら俺が言う。

「はぁ、食糧調達しなきゃね…」

肩を落としながら雫が言う。

雫がこうなるのも無理はない。

なぜなら俺達がいつも買い物をしている場所は、俺達にとって天敵のような人が店長の店だからである。

「速く行って速く終わらせよう、その方がいいだろう?」

俺が言うと雫は、「うん」と頷いた。

そして俺達は身支度を済ませたあと、家を後にした。


30分ほど歩き、俺達は建物と建物の間にある暗い下り階段の前に立っていた。

階段は物凄く急な作りになっており、気を付けなければ転げ落ちる可能性がある。

「うう、ここ電気くらいつけた方がいいと思うよ、本当…」

隣では雫が涙目になりながらそんなことを嘆くように言っていた。

俺は足元に充分気を付けながら階段を降りて、降りた先にある「coming you」と書かれている扉を開き、部屋の中に入った。

部屋は薄暗く、物が散乱しており、肉が腐ったような臭いが充満していた。

俺が部屋の奥まで進んでいくと、奥の扉から一人の女性が出てきた。

「あぁ、来たのか。待っていたよ、拓也君?」

女性がそんなことを言いながら近寄ってくる。

出てきた女性の姿は部屋の明るさが全く無い事によって全く見えなかったが、近寄って来たことによって女性の姿が露になる。

髪はボサボサで少し茶色がかっていて、黒い目に隈を作っている。

体つきは普通の男ならば悩殺できるのでは?と言うくらいのスタイルで、顔も髪を整えて目の隈を無くせば美人であろう。

実際に一人、ここに食糧を貰いに来た生存者が悩殺され、色欲の業鬼になると言う事態があったのだ。

それほどまでに、彼女は自らの容姿に恵まれていたのだ。

「待っていたって、いつからだ?」

俺が聞くと彼女は、

「ずーっとだよ、前に来てくれた三ヶ月前からずーっと。何で来てくれなかったんだい?寂しかったじゃないか、私が寂しさで死んでしまったらどうするんだ?」

と、わざとらしく言った。

「…下らない事を言うな、あんたは寂しさで死ぬような質ではないだろ、美那里(みなり?)?」

俺が言うと、美那里と呼ばれた女性は肩を竦めながら、「ちぇっ、バレたか」と残念そうな顔をしながら言った。

「それで?今回は何を買いに来たのかな?私の事を買いに来たって言うんだったら大歓げ――」

「食糧を買いに来た、三ヶ月分を頼む」

言葉を遮られた事によって有里は少し不機嫌な顔をしていたが、俺はあえて無視をした。

「…分かったよ、少し待っていてくれ」

そう言うと有里は先程出てきた部屋へと入っていった。

「相変わらずだなぁ、(かなで)さんは…」

今まで喋らずに後ろで立っていた雫が口を開いた。

雫が今まで口を閉じていたのは、美那里が居たからである。

先程の女性、美那里奏はそれほどまでに雫に警戒心を与えていた。

何故、雫が美那里の事を警戒するかと言うと…

「お待たせ拓也くん、あと()()()()()

そう、美那里には雫が見えているからである。

もちろん、俺もそこについては疑っており、前にその事について聞いてみたが、「私は昔から霊感が強くてね」の一点張りである。

なお、霊感が強いだけで雫は見えることは絶対に無い。

「はい、これで三ヶ月は大丈夫なはずだからね」

そう言いながら美那里は俺に物が大量に入った袋を渡してきた。

「っ!」

それを受け取った瞬間、予期せぬ重量感で腕が落ちかける。

俺は一度袋を持ち直して、肩に乗っける形にした。

「いつもすまないな、どのくらい払えばいい?」

俺は袋を乗っけている腕とは違う腕でポケットの中から財布をだしてそう言った。

「いや、今回はいいよ。その代わりに、これまでに君たちが戦った業鬼について教えてくれるかな?」

美那里さんはそう言いながら、近くにあった椅子に座った。

座った椅子の前にはテーブルが置いてあり、その上にはまるで俺達が来ることを分かっていたかのように、紅茶が二つ置かれていた。

―――この人本当は来ること分かってたんじゃない?

雫が繋がりを利用して話しかけてくる。

俺は一度雫に向かって頷いたあと、荷物を椅子の横に置きいて美那里の正面の椅子に座った。

「雫ちゃんは座らなくて良いのかい?君が飲める紅茶は用意できないけど、椅子くらいなら用意してあげられるよ?」

美那里が雫に向かって言う。

「結構です」

速答だった。

なんの躊躇いもなく、少し威嚇するような声で雫は拒否の言葉を言っていた。

拒絶の言葉を速答で言われた美那里の顔には、やれやれと書かれているように見えた。

「さて、じゃあ話を始めようか」

美那里はそう言うと、腕を組んで俺の方へと顔を向けた。

そして真剣な表情を作ったあと、一度深呼吸をして聞いてきた。

「前回会った時から君達は、何体の業鬼を()()()()()()()()()?」

そう言って、美那里は俺の顔を睨んでいた。

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