説得へ
「なっ!?」
そのまま俺はその光景に驚愕する。
理由は先ほど四人で覗いた穴と同様の大きさの穴が、そこには出来ていたからだ。
そしてその穴の奥にその元凶たるそいつはいた。
体を猫背のように丸め、顔だけを上げて俺たちを睨んでいる。
【千里眼】で見たそのものの目には明らかなる殺気と獲物を嚙み殺すような鋭い視線が感じられた。
「ここ、は、しゅうごう、ばしょ、だ、、、だから、、、でていけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
穴の反対側だというのに爆音のように聞こえる叫びに俺は少々驚く。
が、それも単なる叫びでないことに俺は気付く。
「む?」
そんな声に反応しルミゲルを見ると、本人は上を見上げていた。
それに習い俺も上を見上げる。と
そこには斜め下.....つまり俺たち........に顔を向け睨んだ巨大な鬼の姿があった。
鬼は振り下げたばかりの右腕を振り上げると力を溜める為か精一杯に右腕を曲げて振りかぶろうとする。
これは.......やばい。そんな言葉が脳をよぎり、直後鬼の腕の動きが止まった。
嫌な予感がした。
「っ!! 少年!!ルミゲル殿!! 回避しろ!!!」
《マスター!!全速力で後ろへ退避!!!急いで!!!》
「言われなくても!!」
そう掛け合い、俺たちはスキルを発動させる。
最後に跳躍した俺はその場を離れたことに胸を撫で下ろす。
刹那。
ヂヂヂ
........え?
掠れた音と肌の感触に俺は顔を上げる。
そして俺は混乱する。
そこには、水色で少し透けたビルのような巨大な物が建っていた。
それがあの雲よりも高いところから一瞬で降ろされた鉄槌だと気付くのには少し時間がかかった。
だがそんな俺を待たずに跳躍で中にいた俺たちに環境という名の力が襲いかかる。
上からの風圧。そして地面に落とされた拳の衝撃波で俺たちは力に挟められその勢いで一人ずつ別々の方向へと吹き飛ばされる。
「っ!! ぐけぇ!!」
そんな変な声を立てて俺は地面に叩きつけられる。
荒地の硬い土が衝撃波をさらに強いものとして俺に跳ね返す。
体がスクランブルエッグにでもされてるような感覚に俺は少し起き上がれなかった。
「うそ.......だろ?」
出てきたのはそんな小説などのやられ役が言いそうなセリフだった。
だがしっかりと理由もある。
早すぎるのだ。落ちてくる速度が。
元の世界もだったが、この世界にも空気の抵抗はある。
宇宙ならまだしも、そんな中で雲よりも高いところから一瞬で物が落ちるなど........
そう考え、穴を思い出す。
あれはマントルまで続いていると言った。
「どうやって?」という理由が分からなかったが、今分かった。
それはあの一瞬で落ちてくる拳のせいだったということを........
「しかし、でかいのぉ。雲に届いておるではないか。」
スーリアを安全な場所に移したルミゲルがそう呟く。
さらにいつの間にやら服装も前の上半身をほとんど隠せていない布切れとボロボロのズボンだけになっている。
その言葉におれは頷き、俺たちを睨んだまま動かない鬼を見て思う。
そう。デカすぎる。
こんなもの、幻影なんてものじゃない。
それをあの穴とこの穴。2つの穴が証明している。
さらに先ほど俺たちはその拳で少しの怪我を負っている。
「あぁ、こんなやつ相手にするなんて。一回死ぬぞ?」
冗談で言うと、
「死にはしないと思うが、重症は免れないだろうな。」
正論を口にして俺も今がそんな状況ではない事実を認める。
そう言う中、突っ込んだ腕を地面から引き出す鬼。そしてその下のものの目が更に鋭く光る。
俺の最後の目標、それは
平和な世界にしたい。
だが。それをクリアするにはまず、殺すことをしない。
つまり殺されることも許されない状況でこんな怪物と戦えば、どちらかは死んでしまう。
不可能に近い。
そう思う間に、鬼は拳を握り、腕を振り上げる。そして振り落ちる巨大な拳。
俺たちはスキルを発動させてなんとか避ける。
腕を地面から引き出し、鬼は再度振り上げる。
そしてそれを躱す。
これではキリがない。
しかも徐々にマナと体力が削られつつある。
このままではどれだけマナが残っているか分からないあの者のほうが有利である。
なんとかしないと.......思った時。
ふと、蘇った言葉が響く。
「ねぇ。じいちゃん。これ誰?」
もう記憶が薄いような頃の古い記憶。そこには。
「あぁ。こいつか? こいつはな。儂が一番謝りたい奴じゃ。」
その古いというか何か普通の写真とはまた違う柄の写真には、
「じゃあ謝ればいいじゃん。」
そいつがいた。
「それがの、遠くにいてもう会えないんじゃよ。」
そいつは頭に風車をつけて、
「へぇ。 ねぇ。この人ってどんな人だったの?」
漆黒の髪がショートで切りそろえられ、
「こいつはな、儂とその友達を一番大事にしてくれた奴じゃ。」
その服は濃ゆい黒色の服で、
「大事にするって、すっごくいい人だね。」
頭に黒い突起のある、
「そうじゃよ。しかもかっこよかったしのぉ。」
水色の瞳をしていた。
「悠人。もし、儂が死んで、もし、こいつにお前があった時は、」
そう言い笑ったじいちゃんは、こう言った。
なんでじいちゃんとの最後の会話が俺の関係のないことなのか。
そしてなんでじいちゃんの言葉をルミゲルが知っており、
なんでそんな写真をもっといるのか、
なぜじいちゃんが異世界にいたのかは分からない。
だが、ひとつ言えるのは、
俺はじいちゃんの代わりを引き継ぐ。
じいちゃんが亡くなるまでに俺に教えてくれたことを思い出しながら、
俺はじいちゃんがこの世界で成し遂げたかった物を全てこなす。
そして 世界を平和にする。
そして、誰もが楽しく暮らせるように......
だから、手始めに。
「ルミゲル!!スタさん!!」
俺の言葉に二人が振り向き、俺を見つめる。その二人に俺は口を開く。
「1分だけでいい。 時間を稼いでくれ。俺があいつを説得する。」
その言葉を聞いた直後スタさんが目を見開く。
「無理だ。 あの者の目をお前は知っているか。 あの目は目の前の者を殺す時に見せるものだ。そんな者に説得などは通じやしない。」
確かにスタさんの言うことは間違っていない。
説得力もある。
あの目は俺でもわかる。
とてつもない殺気を放っている。だが。
「スタ。 行かせてやれ。」
ルミゲルが口を開いた。
「ルミゲル殿!! しかし!!」
「スタ。 お前はユウトを信じてやれんのか?」
その言葉にスタさんはその勢いを失う。
「スタ。お前は頭がいい。 じゃが、それはユウトも同じ。そしてユウトには他人には浮かばないようなことがいくつも浮かぶ。いくつも考える。 恐ろしく動く。」
そしてそんなスタさんの肩にルミゲルは手を乗せる。
「だから信じるんじゃ。自分だけになるな。」
そう言い切り、俺の方へと向く。
「ユウト。時間は稼いでやる。だからあれを......」
指で鬼を指して口をニヤリと歪めて言う。
「止めてこい。」
「分かってるよ。そして」
ハイタッチして俺は言う。
「任せろ。」と
その直後飛んでくる拳に俺たちは避ける。
「信じる........か。」
そう呟いたスタさんのセリフを誰を聞いていなかった。
唯一、スタさんはその言葉を脳に刻んだ。
俺は【パワー・オブ・ザ・キング】で足の脚力を上げる。
時間を二人が稼いでくれる。だから俺はあいつのところまで突っ込まないといけない。だがしかしその前にあの穴、そして鬼の体が立ちはだかる。
あの距離を跳躍するには恐ろしい助走距離と滞空時間、スピードが関係する。さらに空中の鬼のあの巨体を避けて奥にいるあいつのところまで届かせないといけない。だから俺は更に脚力を上げる。
足が動かしすぎて痛いが、我慢してさらに上げる。
もっと上がる。
もっと上げる。
もっと上げろ。
もう俺は脳で叫び、さらに痛みと足の力は上がっていく。
そして俺はその限界が来た直後にスタートダッシュする。
その瞬間に俺のあたりにあった土は消え失せた。
その足の速さに思わず自分でも驚愕する。
ヤバイ。足痛い。 目が痛い。風圧で意識が飛びそうだ。
が、たったのその程度。まだ大丈夫。
そう呟き俺はその穴近くに走り込む。が、
ブォォォォォォォォォぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!
そんなけたたましい叫び声で俺は自分の勘を頼りに顔を上げる。そこには
俺のすぐそばまでに鬼の拳が迫っていることに気づいた。
................ぶつかる!!!
そう思い目を瞑る。直後。思い出す。あの二人は約束した。時間を稼ぐと、だから。
そう思い思いその瞼を持ち上げて前をひたすらに向く。
「お前の相手は儂じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そんな雄叫びについ顔を上げる。と
その拳へと突っ込んでくる水色の軌跡が目に入った。
勿論。その軌跡の正体は。
ルミゲルだった。
「うぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
唸り声を上げてその拳に突っ込みそしてその巨大な拳.......柱に振りかぶりパンチする。すると、一瞬で降ってくる拳を僅かにずらし、俺のすぐ後ろ側に巨大な水色の柱が地面に突き刺さった。
「っ!!ぐっ!!」
風圧になんとか耐え、その衝撃波で俺の速度は急激に上昇する。
「もう一発くるぞぉぉぉ!!!!!」
その声に俺は気にせず真っ直ぐに走る。
もう少しで跳躍。そこに
拳が前から飛んで来た。
きっと体を鬼がかがめたのだろう。
そんな避けるのが不可能な拳に俺は突っ込む。
大丈夫だ。そう確信する。
「無理だ。だがそんな博打も良いのかもしれんな。」
そう呟く声が聞こえた直後。
目の前の拳に大穴が開く。
しかも真っ直ぐに。
「ユウト。私もお前を信じてみよう。だからこそ。説得して来い。」
「言われなくても!! 」
そうスタさんにお礼の代わりにそう吐き。足に今までで一番力を入れる。
俺の体が鬼に当たらない程度。そしてスピードを落とさずに跳躍する。
「これは俺のまだスタートもしてない用意だ。
俺はそうゼロ距離で睨むそいつの前に着地し、そう吐き捨てる。
「おまえも、でで、いけ!!!」