守護者
そいつはその場に元からいたかのように立っていた。
頭には風車が刺さっており、漆黒の髪が背中と胸に長く垂れていた。
水色の瞳で、服は簡単な薄い布だけだった。
身長は俺と同じくらいだろうか。足元を見ると足には何も履いておらず、裸足で 顔を見ると猛犬の様に鋭い水色の瞳が俺たちを睨みつけていた。
「少年。 こいつが私たちに幻影を見せていた者だ。」
?.....幻影。 どういうことだ?
《どうやらオリジナルスキルを持っている者だと思います。幻影を使うスキルは見たことがありませんし.......ただ、気になるのは水色の目と頭の物です。》
ナビの声で俺はその点に着目する。
目は水色だ。確か、水色の瞳ってこの世界じゃ珍しいらしいな。
そして頭に刺さっているのは.........風車....だよな?
《いえ。その奥の物です。》
奥?
俺は【千里眼】で風車で隠れていたモノに気付く。
あれは!?
「ほぅ、少年も分かったか。」
スタさんがそう言いその者に近付く。
「そう。こいつは人間ではない。」
人型なのに違うということにスーリアをは驚かされ、ルミゲルは眉をしかめる。
俺はそれに頷く。
なぜなら俺が見たモノは、
黒いツノだったからだ。
「だが、少年。間違ってもこいつは我ら魔物族ではない。しかもこの世界のどの種族でもない者だ。」
後半の言葉でその場の皆が驚く。もちろん俺もだ。
........この世界の種族ではない? では俺みたいな転生者?
《その可能性は消えます。 例え転生者だとしても、この世界に転生して現れる者は必ずなんらかの種族へと加わります。なので この世界の種族ではない者になっている目の前のそれは転生者ではありません。さらに転生者とは、未知の存在です。そんな存在を理解できるという者はこの世界にはいません。》
なるほど。じゃあスタさんが転生者として、知ることは不可能なのか.........
そんなやりとりの中、そいつはその鋭い目で俺たちを見据えたまま、右と左に目を向け、最後に俺たちを再度見据えると.......
「お前、ら..........とっと、と.....死、ね!!!!」
そう言い放ち、そいつはそのまま右の中指を曲げる。
「プギャァァァァジァァ!!!!!!!」
そんな叫び声と轟音が俺たちの右と左に側から押し寄せて来た。
「ひゃぁ!! また来た!!」
スーリアが悲鳴をあげてルミゲルの方に飛び乗る。
「もう、めんどくさいんじゃが........」
ルミゲルはため息をつきつつ スキルを発動させている。と
「ルミゲル殿。 攻撃する必要はないぞ。」
スタさんが腕を横に振りルミゲルを制し、さらにその振った腕を震わせた。
.........あれってスキルか?
《.......だと思います....けれどこのスキル......見たことも聞いたことも.....?》
ナビが答えた直後。
ビシ、ビシビシビシビシ。
まるで鏡やガラスにヒビが入った時に鳴る不協和音のような雑音が響き、俺の目の前に白い線が生まれた。
「?........なんだこれ?」
《!! マスター!!そこから後ろに数歩下がってください!!》
「っ!?....わかった!!」
ナビの警告に俺が後ろに3歩ほど下がる。と
パリン
そんな皿が割れたような音が俺の元いた場所に響き、そしてその場所が黒くなった。.....否。まるでこの世界の果てのように、どす黒い世界がその場所を覆った。
さらにその黒いもやは俺たちを取り囲むように覆っていく。
何がどうなってるんだ!?
そんな疑問をも巻き込み、あたりを闇が染め上げる。
俺は他の皆を見る。
ルミゲルは変わる背景に混乱し、スーリアは先ほどの幻影?を見てからすぐに気絶している。
スタさんはただ一点を見つめて棒立ちのままだ。
ナビでも分からなかったスキル.......スタさんは一体何を?
その時、ふと 先ほどまで暗かったところから光が漏れ出て来た。
?
言葉を浮かべる暇もなく、その光の部分はだんだんと広がり そして逆光が俺たちを襲った。
そして気付くと、
先ほどとは打って変わって、ただただ何もない荒野が俺たちの前には広がっていた。
しかも周りには自然のかけらさえもなく。ただ地平線が見えるだけだった。
「な......なんだよ。これ。」
俺がそう漏らす言葉に、
「少年。これが事実だ。 私達がこれまで森だと思い込み、歩き、そして案内された村も全てこの荒野だった。勿論、この荒野は前回の町を出た直後から存在していた。」
「!? ってことは......町を出てから ずっと俺たちは幻影を見せられてたってことなのか!?」
「うむ。 間違いない。」
《スキルの持続というものは大量のマナを消費します。さらにそれが範囲に関係しているスキルならばさらにマナを消費します。 ですが、この者はそれに構わずにスキルを継続し続け、凄まじいほどの範囲をスキル内に収めました。 なのでこの者は.......》
「ただの生物ではない。」
俺はその少年とも少女ともいえないものへと視線を向ける。
その者はずっと俺たちを睨み返している。
「........だよ..........」
そう呟く声が聞こえる。
「........なんだよ.........」
そう中指と人差し指を折り曲げて言う。
「なん、で!!!死なねぇ、んだよぉぉぉぉ!!!!」
その直後、その者の後ろに巨大な鬼が現れる。
その鬼の皮膚1つ1つが人の形をしている。
そしてその鬼が俺たちに突進して来る。それも高速で、
だが、
「そんな者で私たちを殺せるものか。」
スタさんはそれをひと薙で灰へと変えた。
「っ!?」
あまりのことで声が出ない者にスタさんは蹴りを喰らわせる。
ドォォン
その者が宙を舞い、地面に叩きつけられ、そして衝撃で体がバウンドする。
「その程度で、よくも私達を殺そうと企んだな?」
そう言いスタさんはさらになにかのスキルを発動させようとする。
その時だった。
俺の頭にノイズが走り、そして全体が暗くなった。
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「お腹、が空い、た.......」
僕はそう呟いて地面に倒れた。
喉も渇いた。もう声は出ない。
お腹が空いた。 もう歩けない。
僕は、死ぬの?
どうして?
なんで?
僕は悪いことなんてしてないのに。
「お前がいるせいで!!!」
村人の恨みが頭をよぎる。
「出て行け!!」
胸が痛む。
「あっち行けー!!」
頭がいたい。
「お前なんていなければよかったのに!!!」
足がいたい。
「お前なんて......産まなければよかった!!!」
もう、からだぜんぶがいたい。
もう、なにもかんがえたくない。
ぼくは、わるくないのに
そう渦巻く思考の中、ある者が僕に手を差し伸べてくれた。
「食うか?美味いぞ。」
そう言いその者は手に持っていたものを僕の手に握らせた。
「美味かったか?」
「うん。」
水を喉に流し 潤っていくことを実感しながら僕は言う。
「しかし、お前。なんでこんなとこにいたんだ?」
その言葉に僕は思い出し恐怖する。 あの言葉の数々 痛みの数々を、
「あぁ。悪い。言いたくないならそれでいい。 俺はそんな趣味はねぇからな。」
近くの荷物を背負い、その者は立ち上がる。
「そうだ。お前。帰る場所あるか?」
その言葉に僕は首を振る。
「なら。俺たちと来い。」
そう言い手を伸ばす。
「お前がいれば 俺たちの旅がもっと楽しくなりそうだ。」
そして逆光で僕が目を閉じ、少ししてから開くと...........
いついたのか。その周りには7、8人 の人間が立っていた。
逆光でその者たちの顔は見えなかったが、どこか僕を安心させるような者たちだった。
「行こうぜ?」
そう伸ばす手に 僕は憧れ、喜び。そして
掴んだ。
「よしこれから宜しくな。がノン。」
.....?
「がの、ん、?」
「あぁ。お前の名前だよ。名前ないんだろ?どうせならめっちゃくちゃカッコいい名前がいいじゃねぇか。」
......カッコいいのかな?これって....
「おい。 お前また変な名前つけてやがって。ほらこの子めちゃくちゃ嫌そうだぞ?」
「はぁ。何言ってんだ!! 俺の好きな言葉は『炎』と『力』と『かっこよさ』だ!!」
「もう。それ何万回も聞いたよおにぃちゃん......」
「ふっ。 仕方があるまい。 この者はこういう者だ。」
「ほら。立てる?」
そう言い合い、呆れ合い。手を伸ばし、僕の前にいた者達はなんだか。暖かそうだった。だから僕は言った。
「が、のん。 ガノン、と、いいま、す。よろしく、おねがい、しま、す。」
「あぁ。宜しくな。ガノン。」
そう言い改めて握った手にはやはり温かさが残っていた。
「よし、ここが俺たちの集合場所だ!!」
旗を突き刺し、その者は笑う。
「しゅうごう、ばしょ?」
そこは単なる荒野だった。が
「あぁ。もしみんなと。俺たちとはぐれた時。迷わずここに来ればいい。 そしたら俺たちがはぐれたことに気付いたら。すぐに来れるだろ?そのための集合場所だ。だからはぐれたらここに来い。俺たちが迎えに来るからよ。」
「うん!!」
そう言い僕はその者について行った。
その者達について行った。
決めた。この者達と過ごすんだ。
楽しい旅を。
気付くと、暗い雨雲と紫色の雨が自分の目に入った。
................雨?
そう考えて僕は自分が横になっているのだと自覚する。
確か........すごい大きい化け物とみんなで戦ってて、
........そこから思い出せない。
ずきずきと痛む体をなんとか起こし、自分は辺りを見る。
「みんな......どこ?」
あたりには爆発物が散乱し、僕は集合場所の荒野に一人。ぽつんと立っていた。
荒野には長い時間雨が降ったのか、ひび割れた地面に水が溜まっている。
そこで僕はそこにうずくまった。
........はぐれちゃったのかな?でも。みんなの荷物はここにある。
どうしよう。
そう思った時あの時の言葉を思い出した。
そうだ。待っていればいいんだ。
ここは集合場所だ。きっと迎えに来てくれる。
だから待っていよう。 ずっと。 ずっと。あのみんなが来てくれるまで。
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
ずっと
_________________
そして俺の意識は戻る。
これは........ルミゲルのときと同じ?
けど。なんでまた。それに誰の記憶?
そう思いスタさんに蹴られた者を見る。と
「ここ、は .......ばしょ、だ。 まつん、だ。むかえに、きてくれる、まで。だか、ら かって、に はい、、、るな、、、よ。」
その身に覚えのある言葉と声に俺は耳を疑う。
「ここ、、、、、は、、、、」
「私達を侮辱したことを後悔しろ。」
スタさんの破壊を特化させた蹴りが飛んでくる。が
その者は両手全ての指を曲げそして顔を上げて叫ぶ。
「ここは!!!!ぼくたちの!!!しゅうごうばしょだ!!!!!!!!!!!!」
「「「!?」」」
叫ばれた直後。俺たちの前には先ほどの鬼が小さいと見えるほど。巨大な鬼が現れた。しかも。その鬼はその頭のツノが空に浮いている雲に突き刺さるほどの大きさを持っていた。
「だか、、、ら、、、かって、、、に、、、はいっ、、、、て、、、くるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
その叫びに鬼が反応し、その鬼の馬鹿でかいパンチがスタさんに飛んで来た。
「っ!! くっ!!」
かろうじて避けたスタさんの目の前には、前に見た巨大な穴と同じものができていた。
「だから、、、、、、死ね、、、、」