穴と村
「なんだ......これ。」
漏れたのはそういった驚愕した時に言う言葉だった。
俺たちはあれから数時間歩き、奥に何か小さい村を見つけその村に寄ろうとした時だった。
あたり一帯が森のこんなところで地面に大きな穴が空いていた。
しかも単なる穴とは違う。
横の長さを見るだけでも、前の世界の東京都一個が入るのでは?と思わせるほど巨大な風穴。
始め見たときは、断崖絶壁かと思っていたがそういうことでもなかった。
先程からルミゲルに降りてもらって深さを調べているが一向にルミゲルが上がってくる気配がない。
俺はふと手を合わせ、合掌する。
「ありがとうルミゲル。お前のことは忘れないよ。」
「うむ。 ルミゲル殿。安らかに眠れ。」
「ってなんで2人揃ってルミゲルさんが死んだみたいな言い方するの。」
スーリアが少し強めにいう言葉に返答は......
「うわちちちちちち!!!!」
そう叫び穴から飛び出したルミゲルの叫び声だった。
「燃える!!燃える!!せっかく町で選んでもらった儂の服が燃えるわ!!!」
そう言い両手で炎を叩くルミゲル。
「おかえり。 どうしたんだ? 火なんか腰につけて。」
目の前の人が燃えてるのに冷静な俺って結構酷いな。と自分で思ってしまった。
「どうしたもくそもないわ!! なんじゃこの穴は!! なんか赤いドロドロした物のとこまで空いとったから、中に入ろうとしたら暑くて服が燃えたわ!!」
ドロドロってことは溶岩か? なんでそんなところまで穴が空いてんだ?そしてルミゲルはなんで溶岩に入ろうとしたんだ?
そんな考えが渦巻く中、スタさんが言う。
「ふむ。これは巨大火山導ではないな。」
「ガリアボルケーノ?なんだそれ?」
「うむ。ガリアボルケーノとはだな、少年。火山のようであり火山ではないもののことだ。わかるか?」
「いや、全然。」
「その反応で良い。 ガリアボルケーノとはつまり平坦な火山のことを指すのだ。」
さっきの意味は分からなかったがこのことは大体分かる。つまり平坦な場所でも噴火するような場所があるということだ。にしても噴火するなら必ず山が出来るはずだが、
「そういえば一度も山を見たことがないんだが、なんでだ?」
「!?」
急に驚かれて流石に俺も嫌な感じになる。
「少年。貴様は本当に無知だな。」
すみません。転生して来たので全然知りません。
そんな俺にスタさんは優しく説明してくれた。
「では学習の復習だと思いながら聞きたまえ。 この世界では様々なプレートという地形が存在する。」
プレートって地盤のことじゃ?
《この世界ではそう言われているので地盤が地上に出ているというわけではありません。単純にマスターの世界とこの世界の言葉の違いです。》
へぇ。なるほどな。
「そしてこの亜の地。オグルトプレートでは山がない。その代わりに火山は噴火するがその噴火の際にはマグマだけが放出され、土砂などは巻き込まれない。つまりは平坦な場所にただマグマが出たり入ったりするだけなのだ。」
マグマが出たり入ったりっておかしいけど、まぁ。そういうことなんだろ。
結果的には山はできないわけか、それって不思議だな。
「まぁ、たまにマグマが残り、丘や不自然な平原が存在するが特に問題はない。」
「あっ、問題はねぇのか。それよりこの穴はその火山?の穴より大きいのか?」
「大きいにしてもこの穴は大きすぎる。 普通であればこの穴の十分の1の大きさ程度なのだが......」
いや。それでもなかなかでかい気が.......
と思っていると、
《分析成功。 》
ナビの声が聞こえた。きっと頼んでたことが終わってたんだろ。
《この穴の周りと穴に関して分析した結果.......》
それを聞くために耳をすませる。 すると
「おぉ。お前らどうした?」
そんな声が聞こえ、振り返ると。
禿頭であまり身長は高くも低くもないおじさんが立っていた。
「いや。いいですよ。私たち、ただ旅をしてただけなので........」
そう言いつつも案内されるスーリアにおじさんは、
「いやいや。いいよ。近くに若者が通るだけでわしらは大喜びさ。」
そう笑い、歩む足を止めない。
服はボロボロのズボンにシャツ一枚といういかにも畳とかで寝てそうな感じの、普通のおじさんである。
高さはスタさんと同じくらい。 だが少しぽっちゃりとしていて、なんだか安心感を出している。
名前を聞くと、
「紹介は後でみんなでしよう。うちに良い酒があるから飲みながらな?」
と言い質問を断られてしまった。
穴の淵をひたすら歩き、俺たちが始めに覗いたところからちょうど右側。
俺たちが目指そうとしていた村におじさんは歩く。
「おじさん。ここにおじさんの家があるのか?」
「あぁ。あるとも。こっちにいらっしゃい。」
そう手招かれ、俺たちは一度顔を見合わせるとおじさんについて行く。
一言で言うと、その村は、酷いとしか言いようがなかった。
辺りには草一つ生えず、何やら黒く、淡い紫色の靄が掛かっている。
地にはタルや箱、果物が散乱し、歩きづらく、更に地に足をつけると、ジュグリ と音を立ててその泥がその本性を現す。
「ぬぅ!!臭っ!!」
思わずルミゲルが声を上げる。
この匂いは嗅いだことがある。
それは元の世界で、棚に置いたまま放置しされていた酒に気付いた時に嗅いだ過激な酒臭さ。
そして元の世界では通るたびに鼻をつまんだタバコ臭さ。
この世界にもこんなものあるんだ。という感想を持ちながら鼻をつまむ。
スタさんに関しては仮面越しなのに明らかにギブアップということが見て取れるほどで、
ルミゲルは鼻をつまみ、口をすぼめる。そして足がふらふらとなんとか歩ける状態だった。きっとこんな臭いを嗅いだことがなかったのだろう。
そしてスーリアはと言うと、手を口の前で抑えているだけなのにまるで慣れている様子だった。
「なぁ。スーリアっつこの臭い慣れてるの?」
思わず俺が聞くと、
「私はいつもあの店で働いてたから。よくタバコとかお酒の臭いとかは無意識に嗅いでたんだよね。まぁ。今回は流石に辛いけどね。」
流石に辛いと言うことは俺の鼻が悪いわけじゃないみたいだ。
それを安心しておじさんを向くが一向におじさんは止まる気配がない。というより、おじさんの歩き方はなんだかおかしくて、右足と左足の動きが変だ。
変すぎて説明もままならないのだが.......
そう思っていた時だった。
「おし。ここだ。」
突然止まり、おじさんがそう言うと。
目の前には大きな屋敷があった。
「ここがおじさんの家だ。」