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black-and-white  作者: 楡惠
11/11

10

「おかえりティアーズ」

 出迎えたのはいつものとおり、ジェイドだった。

「ただいま」

 何故かふつーに、ごくごく普通に答えてしまったティアーズは大きくため息をつく。

「なんだよー溜息なんてついて。幸せが逃げるぜ」

「最初から僕に幸せなんていうものはない」

「えー…」

 冷たく言うティアーズにジェイドがつまらなそうにつぶやく。

 それでも、噂されていたティアーズとは、今目の前にいる男はうってかわっていた。


 やわらかく、あたたかく、なったんだと思う。


 そして、声が響く。


 だれのおかげで?



 ――流石に俺のおかげとは言えない。

 そこまでジェイドは自惚れてはいない。


 だれのおかげだ。そう聞かれて思い当たる節はただ一つだ。


 ――ルナ・ルーチェ。

 この国の姫君。隠された姫君。そして、今や唯一の王位継承者となった姫君。


 (…あの男のいいなりになるのか?)


 思い出すのは、少し前にあった黒い男。

 並大抵の魔力ではなかった。ティアーズと同類の、者。彼より強い魔力を持つ者。

 そして、今夜だけ、ティアーズをここから出さなければ、ジェイドもその力をもらえる。

 人知を超えた、魔力を。

「……どうかしたのかい?」

 ぼうっとしていたジェイドを不思議がってか、ティアーズが顔を覗き込む。

「…いつもの君じゃないね」

「へ?」

「…気がおかしい」

 何かあったのかい、と聞くティアーズを見て、ジェイドはまた考える。


 自分も、力をもらえたら、気がみえるようになるのだろうか。


「…ジェイド?」

「…ティアーズ」

 静かにジェイドは笑う。

「今日は色々、危ないから。外には出ないほうがいいぜ」

「色々?なんだいそれ」

「なんか怪奇現象が起こるって町の奴らが言ってた」

「へぇ…まぁ興味ないから構わないけど」

 くわ、と大きく欠伸をしてティアーズは背伸びをする。

 それをみてジェイドは何とも言えない気持ちになった。






「貴、方は…」

「さっきも言ったはずだ、ルナ・ルーチェ。…月光姫、貴女の敵だと」

 カツ、と足音を立てて彼はルナに一歩近づく。等しくルナは後ろに下がった。


 彼が現れたのはルナの部屋の中だ。鍵は閉めてある。内側から。


 ――――どうやって中に入った?


「学んだのだろう、闇の種族のことを」

「……」

「ならば分かるはずだ、私達が普通の人や、魔術師とは違うことを」

「……」

 スッとルナは指を向ける。

「あぁ、貴女も見方によっては魔術師だったな。光の種族…氷を操るお姫様」

「氷は…月は、わたしの味方です。わたしの名がそう示すように」

「そうだな、貴女の力は光の種族の中ではとても強いだろう。しかし白と黒はどちらが強いと思う?」

「……」

「白は、美しい。穢れのないモノだからな。黒いモノからしたら憧れるのも当然だろう。だが白は同時に何色にでも染まることができる」

「……口を慎みなさい」

 ルナの瞳がだんだん険しくなっていく。

「貴女は本当に純白だ、その純白に少しでも染みがつけば…その魔力は我々よりも劣るだろう」

「そのために来たのですか。この国の王位継承者が、わたしだけになったから」

「流石に敏いね」

 ふふ、と青年は笑う。そしてまた一歩、とルナとの距離を詰める。

 その瞬間ルナは指先を彼に向けた。

 その指先から鋭い光が放たれたと思うと、その光は氷柱となって彼を襲う。

「貴女に私を殺すことはできませんよ、ルナ姫」

 しかし彼は無傷だった。笑みを浮かべて彼はルナを見ている。

 思わずギリッと歯軋りをした。

「それには力が弱すぎる。……圧倒的な闇を前にして、月の光は人々には届かない」

「……お黙りなさい」

 それでもルナは足掻いた。

 

 勉強や読書を通じて彼女は知っていた。

 そして、このあいだ調べた本にも書いてあった。

 ……闇の力の、恐ろしさを。


「…かつて、闇の一族は世界から光を奪った。

人々から光を奪って、恐怖のそこへと突き落とした」

「おっしゃるとおり」

「再び、人々から光を奪うつもりですか」

「私たちはあなたたちに屈してから、ずっと表には出れなかった。

人々から迫害されて、虐げられてきた。…この力を、この姿を恐れ、忌み嫌われる。

…貴女にも覚えがあるでしょう」

「……」


異形の者。人知を超えた魔力を持つもの。

…人々と違うものを持つものは皆、気味悪がれる。


「けれど私たちには力がある。人々を地に伏せることができるくらいの力が。

唯一邪魔なものは…」

「っ!」


男は一瞬の間に距離をつめ、彼女の首へと手をかけた。

白く細い首に、黒い手袋をした手が絡まる。


恐ろしく冷たい瞳をした男がルナを見据え、そして低く冷たい声で言い放った。


「――光だ」


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