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 大陸のにある帝都レイガーバーゼン。

 広大な面積におよそ三十五万人が住む大きな街である。

 アーヴェイド帝国軍本部は街の最奥地に活気溢れる街と住人たちを眼下に見下ろす現皇帝ルフォンド・クレン・アーヴェイド十二世が腰を据える巨城と隣接して立っている。


「では、これにて解散とします。お疲れ様でした」


 兵の数が多かったこと、従って荷物も多かったことで四十八時間弱かけて帰還したユリウス率いる部隊と神影、そしてリオト。

 ユリウスは兵たちを解散させると、二人を連れて執務室へ向かう。


「改めて、大規模魔物討伐作戦、御苦労様でした。二人のおかげですぐに片がついたよ。神影はもう休んでいいよ。リオトは報告書を忘れないでね」

「わーってますよ」


 リオトがだるそうな返事を返したそのとき、コンコン、とこの執務室の扉がノックされゆ扉の向こうに聞こえるようユリウスは少し大きめの声を出す。


「どうぞ」

「失礼します」


 誰が来たのだろうかと三人が扉を注視するなか、ガチャ、と静かに開いた扉の影から、高い声とともに薄い桃色の頭がぴょこんと飛び出す。それは少女だった。

 扉から身を乗り出したような体勢の少女はパッチリとしたかわいらしいサファイアの瞳をユリウスに向けたあと、手前の神影に視線を移す。人見知りと気弱な性格からひっ?!とびくつく神影をよそに、少女は神影から目を離し、キョロキョロと視線を部屋中にさまよわせる。少女が何かを探していることはわかったが、何を探しているのかわからない神影は呆然としながら目を二、三度瞬(しばた)かせる。


「そこにいますよ」


 ユリウスは少女の目的を知っているらしく、神影の横、リオトを一瞥する。すると、少女は扉の影から出てリオトを視界に捉えるなり、ぱあっと笑顔になった。


「リオトちゃん!」

「おー、っと」


 肩の出た、足元まで届くドレスのような純白のワンピースの裾と太ももあたりまで伸びた長い髪を揺らして駆け寄り、飛び込むように抱きついてきた少女をリオトは穏やかな笑みをうかべて抱きとめてやる。


「おかえりなさい! リオトちゃん!」

「ただいま、アリア」


 アリアと呼ばれた少女は、幼子が親に甘えるようにリオトの体に頬を擦り付ける。一方リオトも、嫌がる素振りなど微塵もなく、ポンポンとアリアの頭を撫でてやる。

 あまりにも仲が良すぎる二人なのだが、アリアを知らない神影は目でユリウスに訴える。


「彼女は、アーヴェイド帝国現皇帝、ルフォンド・クレン・アーヴェイド陛下の大切な妹君、アリウェシア・ルイン・アーヴェイド様にあらせられます」


 神影に気づいたアリアははっとなりながら慌てて彼と向き合う。


「ご、ごめんなさい! 初めまして、アリウェシア・ルイン・アーヴェイドです。長いからってリオトちゃんがあだ名をくれたので、気軽にアリアって呼んでください」

「いや、呼べるわけねぇだろ。お前皇女なんだから」


 優雅にぺこりと頭を下げるアリアの後頭部をリオトがごく軽い力加減でぺちんとはたく。それを見たユリウスはやれやれと言いたげに頭を振って呆た。


「リオトはもう少し僕やアリウェシア様のような目上の方を敬ってはどうかな?」

「だがしかし断る!」

「親指立ててまで自信満々にいうことではありません」


 今度はニンマリ笑うリオトの頭を、ユリウスがはたいた。


「って、リオトちゃんそのガーゼとか絆創膏どうしたの? 大丈夫なの?」


 眉を八の字にさげ、心配そうにガーゼや絆創膏、包帯が目立つリオトの顔や腕を見るアリアに、ぎくりと、リオトではなく神影が身をこわばらせる。


「ああ。大丈夫だよ。そのうち治るさ」

「本当? 無理しちゃダメだよ?」

「うん、ありがと」

「じゃあ、僕はこれで……」


 個人的にバツが悪くなり、神影はいそいそと部屋を出る。


「神影!」


 扉が閉まる際で呼び止められ、神影は閉まりかけていた扉を少し開けながら振り返る。


「またな!」


 右手のひらを顔の高さまで上げたリオトがガーゼが目立つ顔でへにゃっと笑う。

 罪悪感を感じてはいるものの、心の奥がホッコリする心地よい感覚を感じながら、神影は笑い返して控えめに手を振りながら扉を閉めた。


「よっ、神影」

「わっ!」


 背後から急に名を呼ばれ、驚いた神影は飛び上がるようにして振り返る。するとそこには見知った顔が一人。


「ティ、ティラウ殿……」


 くすんだような黒みがかった金髪のオールバックに、翡翠の双眸。神影と同じ黒装束を身に纏うこの男は神影と同じ隠密部隊に属しており、あとから配属された神影の面倒を見てくれていた、いわば先輩であり、同時に唯一仲間と言える親しい間柄である。

 多少人相は悪いが、笑った顔は人懐っこく、仕事もできて面倒見のよい彼を神影は心から慕い、また尊敬し憧れていた。


「お疲れー。お手柄だったんだってな!」


 行こうぜ、と歩き出したティラウのあとを追った神影の肩にティラウが腕を回して笑う。


「え!? そ、そんなことないよ!」

「お前謙虚だからなー。そう言うところがますます怪しい」

「本当にそんなことないよ! 逆に僕のせいで一緒にいた子に大怪我させちゃったし……」


 途端に表情を暗くする神影にティラウはキョトンしながら問いかける。


「一緒にいた子って、お前いつも単独任務じゃなかったか?」

「うん。そうなんだけど……、昨日は突然大佐がその子と協力して魔物たちのボスを討伐するように、って」

「誰と組まされたんだよ?」

「リオトっていう子で、確か特務師将官とか……」

「はあっ!!?」


 途端に素っ頓狂な声をあげたティラウは、思わず足を止めて肩を揺らす神影にすごい勢いで詰め寄りまくし立てる。


「リオトってあのリオトか?! 女のクセに目つき悪くて無愛想でふてぶてしくて、一週間ぐらい前に突然軍の狗になったっていう奴だろ?! あいつすげえ凶暴で怪物みたいに強くて人間じゃねぇって噂だぞ!!?」

「そ、そうなの……?」

「お前よくなにもされなかったな……」


 なんだか話にそうとう尾びれ手びれがついているようだが、確かにちょっと目付きが悪くてすごく男らしいけど、少なくとも神影には普通の女の子に見えた。


「リオト殿はそんなに悪い人じゃないよ? 確かに目付きは悪いけど、すごくいい人だったんだ! 昨日も励ましてくれたり、僕とリオト殿は友達で仲間だって言ってくれて、それで……!」

「へぇ……?」


 子供が好きな物について夢中で話すように、興奮からわずかに頬を紅潮させ珍しくマシンガントークをする神影に、ティラウはニヤリと笑う。


「はっはーん、さては、惚れたか?」


 すると、神影はマシンガントークをやめたものの、ティラウの言葉の意味が理解できず固まる。十秒ほど経過すると、神影はみるみるうちに顔を真っ赤にして思わず声を荒らげた。


「きゅ、急に何言ってるの?! 違うよ! ただ、今まで親しくしてくれるのはティラウ殿だけだったから、新しい友達ができたから嬉しいだけで……! だから……、その……」


 段々と声が小さくなっていき、果てには俯いてごにょごにょ言いながら指を絡ませたりしてもじもじしだした神影は、ティラウが無表情に近い、なに食わぬ顔をして神影を見ていることに気がつかなかった。


「なあ神影、俺もお前のことは大事なダチだと思ってる。だから悪いこたァ言わねぇ。アレだけはやめときな」


 ティラウは再び神影の肩に腕を回し、ぐっと引き寄せる。


「………違うけど、どういうこと?」


 引き寄せられたことでティラウの頭が頭上にある神影はティラウの歪んだ笑みが見えなかった。


「あいつはな……」




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