第一話 すってん転んだ私ことA
聞きなれない音とともに私の視界は自然と天井を向く。
そして、どんどん天井が遠くなっていき、衝撃が私を襲った。
「……、ん?」
暗闇から徐々に開き、靄の掛かった視界が。
「ここ……は?」
私は、誰が傍にいるかも分からない中、疑問を声にした。返事は帰ってこない。そして、後頭部に痛みを感じる。
柔らかいものの上に横たわっている私は、頭を浮かせ、痛みの発生源へ触れる。すると、打つような鈍痛が響いた。
思わず顔を顰める。どうやら、頭に何やらの傷を負っているらしい。その証拠に、頭に触れたとき、編み編みの布を隔てたような感覚を感じたからだ。
とりあえず私は、視界が明瞭になるまで、考え事に耽ることにした。再び頭を沈め、横たわり、目を瞑った。
私は走っていた。焦っていた。遅刻しそうで。
建物3階分の、学校の階段を登りきる。そして、最後の直線に差し掛かる。残り100mほど。一気にそこを走り抜ける私。
教室が見えてきたところで、腕時計を見る。8時29分。ギリギリ。
(間に合った!!!)
心の中でガッツポーズした私は、そこで力を緩めたりはしなかった。その勢いをさらに強め、一気にゴールへ迫る。当然、ゴールは教室。
駆ける、駆ける、駆け抜ける。ラストスパートだ! だが、そこであの音が鳴るのだ。足元に感じた強烈な違和感。そして、あの音。
シャラッ!!!
よく分からない音。滑る床を踏んで、後ろへスライドしたよう。音さえ違えば、バナナの皮を踏んで転ぶ、よくマンガなどであるあの感覚。実際に味わうことになるとは思っていなかったが。
そして、後ろ向きに見事に転んで、頭を打って、気絶。たぶんこうなったのだろう。
周囲が騒がしくないことから、ここが学校ではないのは間違いない。そして、柔らかい何かに包まれている私。となると、答えは一つしかなかった。
ここは病院。
回想を終えた私は、目を開ける。そして、残った一つの疑問を考えた。
(私は一体、何を踏んで転んだんだろう……。)
視界がすっかり回復し、ここが病院であることを確認した私だったが、ベットから出てここがどこの病院か確かめるような気分ではなかった。
頭を打ったせいか、体が重い。それに、背中の辺りに少しばかり打ち身ができていることに気づいたのだ。
それに、まさかの個室だった。だいたい6畳くらいの。しかし、立ち上がって窓の外を覗くのすら、だるくてやりたくない。
せめて時間くらいは確認しておこうと、腕時計を確認しようとするが、壊れていた。風防ガラスが割れていて、中の針までぽっきり。安物だから仕方ないが、さらに気持ちが落ち込んだ。
だから、ただぽけーっとしていた。すると、誰かが部屋の前に歩いてきて、止まる。扉は閉まっており、足音しか聞こえない。
そして、扉が静かにゆっくりと開いた。