適正という名の惰性
ある偉人は言った。
「天上天下唯我独尊」…よく自己中や傍若無人と間違えられることが多いが、本来の意は”この世に自分は一人しかいない、この命は尊いもの”という意味で、いうなれば”もともと特別なオンリーワン”ということだ。
ただし、こんなことを実際言われたとして何人の人が納得するというのだろう。そしてこの俺 神城 昂輝もこう思った。
「アホらし・・・」
こんなことなら絶対儲かると謳っているねずみ講の方が幾分信じられるというものだ。
運否天賦と言われるギャンブルの運を司る”ディーラー”これが俺の職業だ。なりたくてなったわけでなくて、”なんとなく””向いているから”そんな感じに流されてなった。
ただ向いていたのは本当だった。”ついてた”ときもあったが自分が出したい賽の目を出し、自分の止めたい数字の場所にルーレットを止める。所謂”不正"の天才だったわけだ。
確かに今までの人生を思い返しても本音を語ることはほとんどなく、大抵が相手に合わせた出鱈目だ。
運なんて見えもしないものを信じる愚者を紛い物で騙す…
紛い物ばかりな俺には天職だったわけだ。
話は変わるが偽りばかりの俺にも弱点らしきものがある…それは無類の動物好きだ。動物が絡むと普段のようにできないというかつい本性がでてしまう。ちなみに一番好きなのは猫だ。
そしてちょっぴり欝な気分になっていた時に…
「おっ、子猫じゃん。今日もついてるな」
喜びのあまり思わず口から声が出てしまう。
しかし結果からすれば、この時の俺は過去一番ついていなかったといえる。
子猫を触ろうと近づく…子猫のいる場所は道路の真ん中だ。幸い車も一台もなく…いや、すぐ横の小道からトラックがのぞき込む…”手遅れだ”そう思いつつも一か八かに賭け、子猫目掛け走り出す。よしっ、と子猫を抱きかかえ顔を上げるとトラックが回避不能な距離まで迫っていた。
(まあ猫守って死ねれば本望か…)
トラックとの衝突とのわずかな時間の中でそんなどうでもいいことを考えていた。