甘くない
一日忘れてた…
足が痛い、足が痛い、足が痛い!
あああなんでこんなのに追いかけられなきゃ行けねえんだあああ‼
「く、クマ、って、俺ら食うよな、」
「そうだろうね、肉食だし?」
ほとんど息がきれていない晃がウザい。
動物に追いかけられた時の武勇伝しかり鳥ハントしかり今しかり、こいつは運動能力が常人より高いんだろう。
体育5だな、絶対。
だがしかし今はそんなことどうでもいい!
あの毛むくじゃらの獣をどうにかして撃退しなければ!
「そ、そうだ!死んだフリとか…!」
思いつきでうつ伏せになろうかと思ったところで晃の茶々が入る。
「でもクマにその方法って本当は効かないんじゃなかったっけ?」
ああああ甘くなかったあああ
アニメの中だけの話かよ!
「クマの苦手なものって、なんだ、?」
横目で晃に問いかける。
「うーん…蜂?」
「え、ああ、そうか、蜂蜜か、」
蜂と聞いて最初『は?』となったが、クマが蜂蜜を食べてる映像が流れたので予想できた。
蜂蜜を食べるには蜂の巣を見つけて、蜂を追い出さなければいけない。
クマといえど、蜂に刺されたら痛いだろう。
だが…
「蜂なんて、どこにいるんだよ、ッ!」
そう、この場に蜂はいない。
いるはずないのだ。
「っあ…」
横を向きながら走っていた晃が木の根に足を躓かせる。
そのままズサァッと前のめりに倒れる晃。
仲間を見殺しになんて出来ない。
慌ててその場に駆け寄り、体を起こそうとする。が、
ドドドドと地響きを起こしながら迫ってくるクマの気迫におされ、起こすのは無理だった。
その代わり晃の片腕をがっしりと掴み、起き上がったのを確認する間も無く走り出す。
「いだっ、だだだい!宗太郎君!痛い!」
「だああうるせえ‼止まるな‼殺されるぞ‼」
引きずられて苦痛に悲鳴をあげる晃。
こっちはお前を引きずるのが二回目でうんざりしてるぐらいなんだぞ⁈
自分が生きてる事に感謝しやがれ!
いつまでも追ってくるクマからただただ逃げる。
今俺にできるのはこれだけだ。
ついさっき晃が躓いた木の根をクマが踏み潰す。
なんつー怪力…!
「木の根を踏み潰す力って何tぐらい?」
「ふざけんな‼ってか喋れるんなら立て走れ‼」
木の根を踏み潰す力が何tかなんて明らかに今必要な情報じゃないだろッ!
ぜいぜいと息がきれる。
息がきれてもなお走れているということは、火事場のバカ力でも働いたのだろうか。
「宗太郎君、疲れてる?」
「いっ、ゲホッゴホッ、今ッ、話し、ッかけんな!」
なんでそんな平静なんだよお前はぁ‼
「疲れてる、のか…」
ボソッとした呟きが聞こえる。
その時後ろで引きずられていたはずの晃が凄いスピードで前に出た。
ギョッとするのも束の間、その速さに足が追いつかず、今度はこちらが引きずられる形になる。
やっぱこいつ運動神経良いんだ、と思った矢先足を木にぶつけ、痛さに涙が染み出す。
一言言ってやろうとその顔を睨みつけたが、その顔の真剣さを見た途端浮かんでいた文句がどこかへ消えた。
こいつ、本気だ。
「曲がるよ」
「え…うわぁっと⁉」
真っ直ぐ走っていた晃がいきなり右に曲がった。
晃を追いかけてスピードをあげていたクマが真っ直ぐ続く道に消えて行くのが見える。
クマから逃れられた事に安堵すると、晃が止まった。
その勢いで頭を横から突き出した枝にぶつける。
「ぶっ」
額が痛い。
足の次は額かよ!と1人脳内で突っ込む。
「大丈夫?真面目に走ってたから話しかけられなかったんだ、ごめんね」
「あぁ…お前、走ると速いんだな」
え?いやぁ、と自信満々に頭をかく。
そのさりげない運動神経良いアピールが上がりかけていた晃の好感度をがくんと下げた。
こんな態度さえしなければ…と哀れみの目を向ける。
「さて、クマから逃げられたし、動物の捜索再開するか。」
時間を確認するため端末を見る。
この端末には、各ステージに必要なものと別に、時計やメモ機能などの便利アプリが多数ある。
なにに使うかわからない『相性チェック』などのアプリもある。本当なにに使うんだ。
現在時刻4:42。
あと1時間18分。
「まだ半分切ってないだけマシ、か」
そのノリのままスタンプラリーの画面を見たとき、我が目を疑った。
真ん中のマスにスタンプが追加されている。
名前は『クマ』。
あいつアンドロイドだったのかよ…
「晃、あのクマ人工的な物だったらしいぞ」
「え⁈…ほ、本当だ」
端末の画面をスタンプラリーに変えた晃が驚愕の声をあげる。
そりゃそうだ。
命からがら逃げ惑った相手がアンドロイドだったんだから。
でもまあ結果オーライだ。
「あと3つ、だな」
空白のままの3つのマスを見ながら、確認のため呟いた。