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三次元ゲーム  作者: 九ノ尾 イズナ
アマゾンラリー
6/7

密林ですから


焼鳥にしようとヨダレを垂らしながら鳥を受け取る。


捕まえた時に首を締めてくれたようで、すでに息絶えている。


「宗太郎君、僕の分もとっておいてよ?」


「ああ、ああ、2人で山分けな」


しかしそこまで考えて重要な事に気がつく。


周りを見たりポケットの中を探ってみるが、無い。


(今の俺にとっての)神器、火を起こす物が。


「火起こせねえじゃんかあああああ!!!」


うわあぁぁと項垂れる。


なぜ気がつかなかったんだよ俺!


周りにはライターもマッチもチャッカメェンも無い。


火が無ければチキン南蛮やサムゲタンはもちろん、今一番食べたい焼鳥さえ作れない。


それどころかカップラーメンさえ作れない。


「あ、そ、そうか…火付けられるもの無いのか…はあぁ」


晃もかなりションボリしている。


こいつが鳥を捕まえた時の顔は完全に『肉食べたい』の顔だったから、晃の頭の中もサムゲタンやらが浮かんでたんだろう。


「果物でもありゃ良いんだけどな…」


「うん、木の実とかね…」


ぐうぅと腹の虫が鳴く。


その直後頭の上をアホウドリが飛んで行った。


虚しい。この上無い虚しさだ。


「原始人とかがよくやるあの方法、できるか?」


「できないよ」


「炎を出現させる呪文とか、知らないか?」


「知らないよ」


数分の沈黙。


1人で叫んでいた時のように涙が浮かんでくる。


この目の前の鳥さえ食べられたら…


…ん?


「あれ、この鳥…」


「どうしたの?」


いつでもさばける鳥の羽を持ち上げて観察する。


硬い、異常に硬い。


まるでプラスチックが中に入ってるみたいだ。


「プラスチック…?」


まさか!


そう思ったと同時に何本も生えている羽を毟り取る。


ふわふわと羽が空に舞う。


「え、なにやってるの?」


晃に『この人大丈夫か?』の顔で見られる。


お前が思ってるようなことはしないから、だからその目やめてくれ。


生肉を食べるなんてことはしないから!


何本か羽を取った時、指先に硬い物が触れた。


グレーの板、間違いない。


「晃、こいつニセモノだ。」


「え⁈」


さらに頭の方を観察すると、フタのようなものがあった。


それの留め金を外し、開けて見る。


すると鳥の頭がまるごと取れ、リアルな眼球がついたアンドロイドの内部が姿を表した。


「ってことは…」


ポケットから端末を引き抜き、例のスタンプラリーの画面を見る。


真ん中から向かって左のマスに、『トリ』と下に書かれた鳥のスタンプが押されている。


不幸中の幸い、とはこの事だ。


「よっしゃあぁ‼1匹目GET!!」


俺より数秒遅れて端末を見た晃も声を上げる。


食おうとしなくて良かった。


食していたらゲームオーバーになる前に本物の三途の川を渡る事になっていただろう。


「良かった!とりあえず1匹目だよ!」


「この調子で探して行こうぜ!」


完全にノッてきた。


今なら10分くらいでコンプリートできる自信がある。


開始20分でこの調子とは、良い滑り出しではないか。


さっきまで鳥肉を食べたいと叫んでいた空腹感も、今はクリアすることへの情熱に変わっている。


なんてチョロい俺の感情。


「ようしさっさと探しに…」


ズシンと体中に振動が伝わる。


ぐらりと体が傾き、手に持っていたアンドロイドの鳥を芝生に投げ出す。


またズシンと振動が伝わり、これが地響きだとわかる。


「宗太郎君、これ、地震?」


「いや、違うと思うぞ」


俺だけじゃないようだ。


揺れ、振動は徐々に大きくなって行く。


そしてそれが何者かの足音だと言う事に気がつく。


ズシン、ズシン、と近づいてくる足音。


それに対して俺は恐怖しか感じられない。


隣で首を傾げる晃の左肩を掴み、フッと笑う。


「逃げようぜ」


「え?なんで?」


「………お前アホなのか?」


その時ドシンと一際大きな足音が聞こえてきた。


その音の発信源へ、ゆっくりゆっくり、ぎこちない動きで目を向ける。


引きつった笑顔がさらに引きつっているのが分かる。


ふさふさの茶色の毛、くりっとした黒色の目、長い爪、鋭い牙、お分かりいただけただろうか?


正解は…


「「クマアァァァァァァァッッ⁈⁈」」


2人同時に叫ぶ。


その声でクマがこちらの存在に気がつく。


のっそりのっそりと、遅いが威圧感を放つ歩き方でこちらへ寄って来る。


その大きさ、俺4人分。


そりゃ密林ですから、巨体で強い肉食動物もいますでしょうよ。


でもさ…




「この展開は望んでねえよおおおお!!!」


後ろから追ってくる巨大な茶色の獣・クマからただ逃げ惑う。


体育3の俺の足、もう少しだけもってくれ。


「まるでゲームみたいだね…」


「ああ、そりゃあゲームだからなぁ!」


こんなに全力で走ったの、どれくらいぶりだろう。


でもこれ以上走らせないで欲しい。


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