密林ですから
焼鳥にしようとヨダレを垂らしながら鳥を受け取る。
捕まえた時に首を締めてくれたようで、すでに息絶えている。
「宗太郎君、僕の分もとっておいてよ?」
「ああ、ああ、2人で山分けな」
しかしそこまで考えて重要な事に気がつく。
周りを見たりポケットの中を探ってみるが、無い。
(今の俺にとっての)神器、火を起こす物が。
「火起こせねえじゃんかあああああ!!!」
うわあぁぁと項垂れる。
なぜ気がつかなかったんだよ俺!
周りにはライターもマッチもチャッカメェンも無い。
火が無ければチキン南蛮やサムゲタンはもちろん、今一番食べたい焼鳥さえ作れない。
それどころかカップラーメンさえ作れない。
「あ、そ、そうか…火付けられるもの無いのか…はあぁ」
晃もかなりションボリしている。
こいつが鳥を捕まえた時の顔は完全に『肉食べたい』の顔だったから、晃の頭の中もサムゲタンやらが浮かんでたんだろう。
「果物でもありゃ良いんだけどな…」
「うん、木の実とかね…」
ぐうぅと腹の虫が鳴く。
その直後頭の上をアホウドリが飛んで行った。
虚しい。この上無い虚しさだ。
「原始人とかがよくやるあの方法、できるか?」
「できないよ」
「炎を出現させる呪文とか、知らないか?」
「知らないよ」
数分の沈黙。
1人で叫んでいた時のように涙が浮かんでくる。
この目の前の鳥さえ食べられたら…
…ん?
「あれ、この鳥…」
「どうしたの?」
いつでもさばける鳥の羽を持ち上げて観察する。
硬い、異常に硬い。
まるでプラスチックが中に入ってるみたいだ。
「プラスチック…?」
まさか!
そう思ったと同時に何本も生えている羽を毟り取る。
ふわふわと羽が空に舞う。
「え、なにやってるの?」
晃に『この人大丈夫か?』の顔で見られる。
お前が思ってるようなことはしないから、だからその目やめてくれ。
生肉を食べるなんてことはしないから!
何本か羽を取った時、指先に硬い物が触れた。
グレーの板、間違いない。
「晃、こいつニセモノだ。」
「え⁈」
さらに頭の方を観察すると、フタのようなものがあった。
それの留め金を外し、開けて見る。
すると鳥の頭がまるごと取れ、リアルな眼球がついたアンドロイドの内部が姿を表した。
「ってことは…」
ポケットから端末を引き抜き、例のスタンプラリーの画面を見る。
真ん中から向かって左のマスに、『トリ』と下に書かれた鳥のスタンプが押されている。
不幸中の幸い、とはこの事だ。
「よっしゃあぁ‼1匹目GET!!」
俺より数秒遅れて端末を見た晃も声を上げる。
食おうとしなくて良かった。
食していたらゲームオーバーになる前に本物の三途の川を渡る事になっていただろう。
「良かった!とりあえず1匹目だよ!」
「この調子で探して行こうぜ!」
完全にノッてきた。
今なら10分くらいでコンプリートできる自信がある。
開始20分でこの調子とは、良い滑り出しではないか。
さっきまで鳥肉を食べたいと叫んでいた空腹感も、今はクリアすることへの情熱に変わっている。
なんてチョロい俺の感情。
「ようしさっさと探しに…」
ズシンと体中に振動が伝わる。
ぐらりと体が傾き、手に持っていたアンドロイドの鳥を芝生に投げ出す。
またズシンと振動が伝わり、これが地響きだとわかる。
「宗太郎君、これ、地震?」
「いや、違うと思うぞ」
俺だけじゃないようだ。
揺れ、振動は徐々に大きくなって行く。
そしてそれが何者かの足音だと言う事に気がつく。
ズシン、ズシン、と近づいてくる足音。
それに対して俺は恐怖しか感じられない。
隣で首を傾げる晃の左肩を掴み、フッと笑う。
「逃げようぜ」
「え?なんで?」
「………お前アホなのか?」
その時ドシンと一際大きな足音が聞こえてきた。
その音の発信源へ、ゆっくりゆっくり、ぎこちない動きで目を向ける。
引きつった笑顔がさらに引きつっているのが分かる。
ふさふさの茶色の毛、くりっとした黒色の目、長い爪、鋭い牙、お分かりいただけただろうか?
正解は…
「「クマアァァァァァァァッッ⁈⁈」」
2人同時に叫ぶ。
その声でクマがこちらの存在に気がつく。
のっそりのっそりと、遅いが威圧感を放つ歩き方でこちらへ寄って来る。
その大きさ、俺4人分。
そりゃ密林ですから、巨体で強い肉食動物もいますでしょうよ。
でもさ…
「この展開は望んでねえよおおおお!!!」
後ろから追ってくる巨大な茶色の獣・クマからただ逃げ惑う。
体育3の俺の足、もう少しだけもってくれ。
「まるでゲームみたいだね…」
「ああ、そりゃあゲームだからなぁ!」
こんなに全力で走ったの、どれくらいぶりだろう。
でもこれ以上走らせないで欲しい。