その8 予知夢への反逆
「オイラが上手く速度を緩めればよかったんだ……。ルイ、本当にごめんな」
嘔吐しました。
音速に酔ってしまった。帰宅して直ぐにトイレに直行したおかげで、事なきを得たけれど、正直吐くとは思わなかった。
正直嘔吐したのは初めてだった。
「そこまで気にする必要なんて無いって」
故意にやったわけでは無いのだから。どちらかというと、僕も一緒に守ってくれたのだからむしろ嬉しい。
「……ありがとう」
いや、お礼を言うのはこっちだよと僕が言うと、ベガがそれもそうかと笑顔を見せ、思わず僕も笑ってしまう。
「お茶飲む?」
「ああ、あったかいのがいい」
今気づいたが、ベガは飲み物を尋ねると、必ず暖かいものを選ぶ。新しい発見をしたことで、意気揚々となった僕は、はーいと笑顔で返事をし、鍋に湯のみ二つ分の水を入れ、火にかける。
「待ってる間暇だし、テレビでも見よっか」
「そうだな。うーんニュースが見たい」
僕は了解し、リモコンを手に取る。その時、今朝、本当にボヤ騒ぎにでもなってたら、地方のニュースに流れたのかもなと、ベガが何だか不謹慎なことを言った。それは嫌だなあと僕は笑い、チャンネルを地方ニュースに合わせる。
『速報です』
アナウンサーがニュースを読み上げようとしていた。僕たちは何事かと思い、テレビを凝視する。
『――町の民家で、住宅二棟を巻き込む火事が続いております』
映された中継を見て、自然と顔が引きつってしまった。
映像は、夢の中で見たものと、全てとは言えないが、ほとんど同じように見えた。そして、僕らの家にも若干似ている……。
リポーターが必死に火災の模様を説明しているが、断片的にしか頭に入ってこない。
……もし、ベガがガスコンロの火を止めていなかったとしたら、この家が被害に遭っていたのだろうか。本来あるはずの事象を回避したことによって、僕が見たのは『民家の火災をテレビごしに見る夢』となった。そうだとしたら……。
今、被害に遭っている家庭は、助かるのだろうか。いや、この強さだと、もう倒壊しているか……。
……待てよ。
よくよく考えたら、今のニュースは速報だった。再度目を向けると『屋内からは助けを求める声が聞こえる』、『火が強く、救助が困難』、『巻き込まれている民家のうち、一つの民家の住民は脱出しているが、もう片方の民家の住民は、取り残されている』といった言葉が、リポーターから告げられている。
「……まだ、助けられるはずだ」
ベガはその言葉を場に置き去り、玄関へ向かって行く。
「……いけるの? 」
「オイラのこの力があれば」
この言葉に込められた、絶対的な自信と確信、希望。
「……信じてるよ、ベガ」
強く出られると、信じずにはいられないのだ。ベガならどうにかしてくれる。そんな希望を、抱けるのだ。
「じゃ、行ってくる!」
お決まりのセリフでドアから出て、風を切る音と共に姿を消す。
家中の窓という窓が、音を立てて、強く揺れていった。
僕はしばらく、その場に留まっていた。