その11 耐久戦。耐えろ、トモリ
それからどれだけ時間が経過したことだろう。
私は守り、それは攻撃してくる。この繰り返しが延々と続いている。時には物理的に殴ったりもしてきた。だから私もそのタイミングで、殴り返したりもしてみた。
幸いにもこのバリアは、使用者の攻撃を跳ね返したりするようなことはなかった。だからいくらでも攻撃することができるのだ。(攻撃は勿論効いていないのだろうけど。)恐らくわたしは、自分の都合に見合ったバリアをその都度発現できるようになったと、そういうことなのだろう。
それから様々なことを試してみた。例えば炎のバリア。これはあれが水であったため、大した効果を見せることは無かった。けれど、自然が相手だったとしたら、非常に高い効力を示すのではと思う。こんな感じで、自分がいずれ戦うかもしれない敵のことを踏まえて、想像を膨らめて作っていったのだ。
それ以外にも様々なことを試したけれど、あれには効果がなかった。というより、水で全て洗い流されているような、そんな印象だった。
気付けば、あれには余裕の表情が消え、本気でわたしを潰しに来んとするような眼になっている。真剣そのものだったのだ。
私もそれも、そろそろ限界が見え始めた頃だった。
「……ここまで、進展のない、戦いは初めて、だよ……ゼエ、ゼエ」
「ハァ、ハァ……。そろそろ折れても、良い頃だと、思うよ……」
何の傷も無い二人組の闘いだ。傍から見れば、これを果たして死闘と呼んでも良いのか、若干不安になるだろうけれど、わたしらにとっては死闘なのだ。そのものなのだ。
「……諦める、だって? まさか。ボクは、仲間のために、ここへ来ているんだよ。なの、に何も収穫無しに帰れると、思うか。そんなわけは、ないだろう。敵の一つも、討てやしない者が、リーダーをやる資格、なんて、ないんだよっ……!」
それは頑固者であり、恐ろしくプライドが高い。そんな奴がエレメントとやらのリーダーをやっているのか……。将来彼女ができたら絶対に苦労されるタイプだろうな。でも人情深い所の気持ちは何となくわかるかな。
本当は分かりたくなんてないけど。
「わたしだって、無実の罪、で、裁かれようとしている、仲間を、放っておけるわけ、ないんだよ……!」
「まだ、信じられないと、いうのかっ! 君は本当に、つくづく、愚か者だ」
信じてたまるものか。わたしにはわたしの思うベガさんがいる。そしてその星を心から信頼している。だからこそ、意地で負けるわけにも、嘘に惑わされるわけにもいかない。
「……ならば、君にとって、そして、そのベガにとって……最悪の、シナリオをボクが、与えよう……」
馬鹿だなあと笑い続けるそれ。何故そこまで笑うのか、そして、そこまで酷いことを引き起こせるのか。私にはまったく解らない。解りたくもない。でも行動を起こす前に、聞くしかない。なんとしても食い止めなければならないのだから。
「何を、する気、なの。それが、何だとしても、わたしは絶対に、全てを守る……!」
本当は、もうそんな力も残っていないほどだけど、わたしは見栄を張る。これにだけは負けたくない。何があっても勝つんだ。
それは息を深く吸い、吐き出す。
「……全てを飲み込む力。最も人類が恐れる強大な力さ」
呼吸が整ったのか、息切れはあまりしなくなっている。
人類が恐れる水の力。それが何なのかは直ぐに察せる。
……察せ、え?
それって結構マズいことじゃない?
無関係な人々まで犠牲にするつもりなのかこれは。いくらわたし達を負かしたいからって、犠牲者を大量に出そうとするなんて……。もはや「これ」や「それ」なんかではなく「下種」だ。下種の極みだ。
下種には人類がゴミにしか見えていないのか。なんてことだろう。
わたしに果たしてそこまで大きなバリアを張ることができるのだろうか。住民全員を守ることなんで出来るのだろうか。
やるかやらないか、ではない。やるしかないんだ。
きっと、勝利の女神はわたしに微笑んでくれる。だって、妖精までわたしを見ていてくれたんだ。きっと女神だって見てくれている。希望的観測だけど!
「ボクはネオ。水の神をもじって付けられた名前さ。神には海すら操れるんだ。さあ、最期にしようか。君たち二人は生き残れても、この町全てが消滅すれば、君たちの生きる理由すらも無くなるだろう。フフフ……ボクが念を星に伝えれば、それだけで海の勢いは変わる。それが嫌ならベガを渡せ……。さあ、君はどちらを選ぶ?」
ネオとか言われても、結局わたしにとっては下種な生き物だから、名前なんて覚えていられない。それに、提示してきたのは最低な交渉条件だ。わたしには理解しかねる。
どちらも嫌だよ。
でも、わたしは今閃いたよ。
下種野郎の好き勝手にさせてたまるものか。勝つことは出来ないかもしれないけれど、しばらく耐久することならできる。その念は規模が大きすぎるわけだし、体力の減少は必至だろう。だから……。
「いやだ。渡さない」
「ほう……そうか。なら仕方がない。深い絶望を味わえばいいさ。君のせいで、多くの死者が出るだろうねえ……フフ。かわいそうに」
精神攻撃か。でも、わたしは動じない。
「さっさとやりなよ」
その反応の薄さが癇に障ったようで、下種は拳を固める。
「望み通りやってやろう。一分もしない内に大津波がここまで押し寄せることだろうね!」
それから数十秒が経過する。が、広報のようなものが流れるわけでもなく、辺りは静かで、誰一人として外に出る様子もない。
というか少し疑問だったんだけど、何で雨は止んだのに、人っ子一人外へ出てこないのだろう。まあ、出てこない方が都合が良いし、わたしはかまわないのだけど。
余裕な表情をずっと貫き続けるわたし。
そこにやはり疑問の一つは感じたようで、こちらに問うてくる。
「君はなぜそこまで冷静でいられるんだ。人が傷つくのが怖くないのか?」
「頭が良さそうだと思ったけど、残念ながらその知能は、私より下だね」
「何だと?」
「まだ気付かないの? 私の能力を思い出してよ」
その一言で、ようやく下種低能は理解したようだ。その一瞬は、私が見てきた中では最も驚いていたと思う。目はぱちくりぱちくりしていて、辺りや手足をぐるぐると際限なく見まわしていた。
「ま、まさか……」
「まさか?」
「ボクの……ボクの周りにバリアを張ったなあああああああああ!」
「ご名答。これで無駄な体力を使ったね」
確信した。こいつ、アホだ。
それに……もしかしたら、勝てるかもしれない。その要素が、もう一つできたから。




