その6-A ココロにトモる夢①
姉、ユメさん、ソプラテスさん、私。
この構図は果たして、偶然なのか、はたまた必然なのか。私にとっては抜け出したい一心でたまらない。そんな面子である。
「トモリさん、どうしたの? 汗がすごいの」
「あ、いや別に。大したことじゃないよ」
とりあえず適当にあしらう私。気にされては困るし、これは言わないでおこう。
「そうなの? ならいいの。ところで……」
ユメさんは何か話題の転換を図りたい様子だった。その目線は、ソプラテスさんへと向いている。
「この町、どう思ったの? 私は、いい町だと思ってるの」
彼女が言うと、ソプラテスさんは直ぐに笑顔になる。それは、ただ町が素晴らしいというだけには見えない。どうも、「Yumeさまが自分の心情に触れてくれたから……」というのも当てはまりそうに見える。私の目は誤魔化せない。
彼の回答は勿論イエスだ。気持ちはもとから住んでいる人間と同じに違いない。私だってこの町が好きだし、姉も、そしてルイさんとベガさんだって同じ思いだろう。
この町は、結構変わった土地関係をしている。少し歩けば海があるし、反対を行けば山がある。河原もあるし、森もある。ルイさんの情報によると、綺麗な野原もあるらしい。だがここまで自然に溢れていると、結構な田舎暮らしか、とも思ってしまうがそんなことはない。町は結構発展していて、人通りも多い。最近では別の町からの移住も増えてきているとか。その関係なのか、学校の入学人数も年々増加しているらしい。
そんな私たちの大好きな町、天ノ峰。私は将来、この町を守る仕事に就きたいと思ってる。私は元々病弱だし、どこまで出来るかわからないけれど、それがどんな形であれ絶対に。
「トモリちゃんなんだか真面目な顔してるー!!」
「え、そうかな」
「うんもうホント。すっごく分かりやすかったー!! ところで、何考えてたの?」
「それはー……秘密だよ」
「えー!!」
こんなに恥ずかしい、妄想ヒーローごっこみたいなことを話すことはできない。あまりに恥ずかしい。恥ずかしい。
「誰しも秘密の一つや二つがあるものですよ。お気になさらないのが一番です」
……ソプラテスさんのフォローもあり、何とか難を逃れることができた。私はほっと、一安心。
私がふぅと深呼吸をすると、何やらポツポツと、絶え間ない音が聞こえてくる。
「あ、雨なの」
向かったユメさんが窓を開く。ザァーーーと、まだ心地よく聞こえる程度の雨音が響き渡る。
「結構強めですね。お洗濯ものはございませんか?」
「うーん、無さそうなの」
先ほどの曇りようから察するに、これは通り雨なんかではない。それどころか、これ以上に強くなることが見込まれるほどのものだろう。多分。
そういえば、雨といえば、お風呂のお湯、止めたっけ。
洗濯、風呂溜め、皿洗い、掃除を、できる限りだけ済ませて。できる限り……。
あ、止めてない。
「姉さん、ルイさんのお父さんが来たら、伝えといてもらっていい?」
「……? わかったよー!」
「うん、お風呂のお湯止め忘れちゃった。ちょっと出てくるね」
言うと、待ったの静止がかかる。それは、ユメさんと、ソプラテスさんの双方から発せられたものだった。
「この後絶対強くなるの。今外に出たら、それこそ雨に串刺しにされるの!」
「危ないです。これがもしハリケーンの前兆だとしたら……」
「いや、二人とも、それはないから。しかもハリケーンじゃないから」
とにかく、早くしないと。家もそこまで遠いわけではないし、少し歩けば到着する距離だ。
「水道代を高くつけて、親を泣かせるわけにはいかないから仕方がないよ(微々たるものだけど)」
本当は、このボケボケボケツッコミの空間から抜け出したいからなのかもしれない。でも、本音は言えないから、あえてベクトルの違う表現を選ぶ。
「そこまで言うなら止めないの。でも、危険そうなら帰ってきていいの。このお家は、守られてるの」
確かに家の中は安全だからね。その通りだと思う。
「じゃあ、行ってくるね」
私はユメさんが出してくれた、ちょっと小さなカッパを着て、外に出る。




