表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恒星未来伝―Protect Your Eterein―  作者: くろめ
別世界からの来訪者
51/64

その5 はひふへ日本語

 異様な空気を漂わせて数分。ようやくルイさんが戻ってきた。けれど表情は曇っていて、何かに悩んでいる様子にとれる。

「ルイ、何かあったのか……?」

 こんな時、一番に心配しているのは、やはりベガさんだった。てってこてってことルイさんのもとへ向かい、彼の両手を握っている。その思いは、後姿から見て取れる。二人は、感情の共有でもしているかのように、似通った雰囲気を持っている。

 そしてベガさんは、頭上から右に垂れ下がる一本の長い髪が、フラフラと漂っている。それが余計に切なさを増幅させているようにも見える。

「朝倉からだったよ。急ぎ調子で『急いで来てくれ!!』って言ってた」

「……そっか。いったい何だろうな」

 よく見ると、ベガさんの顔色が澱んでいる。その表情には何か、私たちの知らない事情を隠しているようにも見える。でも、指摘はすべきでは無さそうだ。話を捻じ曲げてしまいそうだったから。

「一体何があったのでしょうね……今回ばかりは、行ってみた方が早そうです。」

 ソプラテスさんは真剣に語る。ベガさんに関わることなのであれば、急いで行くにこしたことはないだろう。

 だけど、私たちはルイさんのお父さんに会って、交渉をしないと。姉はどうするつもりなのだろうか。

「…………。」

 姉は相変わらずぼーっとしていた。

 本当に何があったのだろう。朝倉研究所の話題が出たっきり、ずっと上の空のようだ。

「姉さん」

「……ピンク色!!」

「その話はさっき終わったよ。というか話すらしてないよっ!」

「そうだっけ!?」

 ずれているとはいえ、思考が一致する辺り流石姉だ。というか姉は、単純にボケるためのパワーを蓄えているだけな気がしてきた。話題とか関係なしに、私は心配しすぎだったのかもしれない。

 だが、これでは話が頑固に動かない。

「まあまあ……。そうだ。Yumeさまもいらっしゃることですし、ルイ様とベガ様は行ってこられてはどうでしょう」

 助け舟のごとく、ソプラテスさんが話をほぐして、動くようにしてくれた。

 それがいいかもしれない。ユメさんが居るならば話はどうにかなりそうだし、何よりこの二人が互いに友達であったことがより一層、ハードルを下げてくれる気がする。

「まあ、そういうことなの。お兄ちゃんと赤髪さんは、行ってくるの」

「ありがとう、ユメ。じゃあ、僕らだけ行ってくるよ」

「留守は任せた。数時間はかかると思う。もし長くなってたら、帰ってもいいからな」

「うん、わかった」

 そういえば、話の続きはどうするつもりだろうか。って、考えるまでもないか。恐らくは先ほどの契約で、今は普及していないがゆえに、盗聴されることがないボードフォンでの連絡を余儀なくされている……。といった理由だろう。

「じゃあ、いってきまーす」

 リビングの扉に着いた二人がそう言うと、「気を付けてねーーー!!!」と、大声で姉が呼びかけた。ルイさんが、姉の目を見て、少し固い笑顔をして、扉は閉じられたように見えた。もしかしたら、ルイさんも、何か気が付いていたのかもしれない。

 ほんの少しすると、家一帯の窓が大きく揺れる。きっと、ベガさんの力を使って向かったのだろう。きっとそうだろう。

 その音に紛れて、悲鳴のような声も聞こえた気がするが、あえて触れないことにしよう。

 そうして風も声も消え去ると、再び沈黙が流れ始める。

 だがそれは、ユメさんの世間話風の発言によって直ぐに破られた。

「そういえば、ソプラノくん。日本パング語流暢なの。お勉強、頑張ったの?」

 確かに。今思えば、ずっと暮らしていたかのように流暢な日本パング語だ。隣で姉もうんうんと頷いている。やはり行動が煩い。

「ああ、いえ。特に頑張ったというわけではないんですよ。日本パングで旅をしている内に、自然と身についてしまったんです」

「えっ」

「ええっ!?」

「それ、びっくりなの。因みに、期間はどれぐらいなの?」

「えっと、一ヶ月前後です」

「は!?」

「ひ!!?」

「ふふ、やっぱりソプラノくんは、秀才だったの」

「へ、は、はい。ありがとうございます」

 流れるような「はひふへびっくり」だった。「ほ」が無い。とはこの空気では、決して言えないなと思ったので、心の中にそっと閉まっておくことにする。

 そんなことよりわずか一か月で、ほぼネイティブと同じになれる。これは最早秀才なぞではなく、天才と呼べるのではないだろうか。

 とてもとっても、私や姉にはできない領域だと感じてしまうのだった。

「あー! 『ほ』が無いね!!!」

「姉さんはいい加減空気を読めえ!!」

 ポカっと一発だけ、当てておいたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ